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三章

11 オスカー視点

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「お前の負けだ。分かるな?」
「はい、もちろんです」
「お前の罪は分かるな?」
「兄から王位を簒奪し、あまつさえその命を奪おうとしたことです」
「違う。王であるお前が、政務を放棄して今この場にいることだ」

 政務は母と宰相がしている。オスカーの出番はない。それに今は幻影魔法で王宮には留まっているようにはしてある。そういうことではないのだろう。

「私事を優先し国をないがしろにするなど王にあるまじき所業だ。己の軽はずみな行動で国は簡単に滅びの道へ向かうのだぞ」
「私は王に向きません。兄上が王に」
「王はお前だ、オスカー」

 思いがけない言葉に、オスカーは目を見開く。頭は垂れたまま、動揺する。

「あ、でも兄上の方が」
「既に王位はお前にある。私が奪ったら、国内外に我が国の脆弱さをさらす事になる。兄をさしおいて弟が即位したのだ。よほど正当性があったのだと示さねばならん。皆がお前が王であるのを歓迎するような、民の下僕たる王でなければならん」

 そんな覚悟はない。ずっと母の言いなりだった。魔法だけに打ち込んできた自分に、母や重鎮たちと渡り合えるような、王者たる心づもりなど全く持てなかった。

「私は政を何も知りません。私には無理です」
「私が宰相になろう」
「兄上…助けてくれるのですか」
「ああ、だから目を覚ませ。お前には先王よりも良き王となれる素質がある。善政を行えるのはお前の良心一つだ」

 兄の後ろ盾があれば、何も恐れることはない。兄は神だ。これほどの心強い支えは無い。しかも良き王となれる素質があると褒めてくれた。
 はい、はい、と頷く。その度に兄がうんうんと頷き返してくれるのが嬉しかった。
 花が咲いたように嬉しかった。兄さえいれば、オスカーはもう何もいらなかった。

「兄上に従います」
「うん、では早速、コレを認めてくれ」

 ばさりと紙が広がる音がする。オスカーが顔を上げると、それは婚姻証明書だった。
 夫の欄にレイフ・ノート、妻の欄にアーネスト・ストレリッツの記名。
 証人欄には既に、オスカーの名が書かれていた。

 骨となったアネモネに使う予定だった婚姻証明書だ。

「俺はこの男と結婚する。認めてくれるな?愛しい弟よ」

 オスカーは固まった。みるみる顔面が白くなり、地面に倒れ込んだ。


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