【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

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二章

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 外で鳥が鳴く。アーネストが窓に気を取られている間に、レイフは立ち上がってその場から離れた。

「レイフ、おい」
「軽率でした。すみません」

 まだ日は落ちていないが、レイフはカーテンを閉めた。一気に部屋が暗くなる。燭台の明かりだけでは、手元もおぼつかない。
 レイフが何処にいるのかも分からなくなる。

「でしたら別の案を試してみますか」
「平和的か?」
「平和的です」

 ぎしりと、椅子が軋む。レイフが隣に座ったのだ。

「私とアーネスト様の仲睦まじい姿を見せれば、ボーテ様もそれなりのショックを受けると思われます」
「…おお。平和的だ」
「中途半端では効果は薄いと思われます。ですので…」

 背中に手を差し入れられ、アーネストは仰向けに寝かされる。レイフの手がアーネストの膝裏に触れ、足が持ち上がる。

「なにをする」
「少し黙って」

 耳元で囁かれる。レイフの髪が頬をかすめる。かつてないほど密着した格好になって、アーネストは困惑した。

 その時、扉が再びノックされた。レイフが、どうぞと返事をする。

「失礼します。夕食の献立をお持ちしま…」

 入って来たリタが口を止める。リタは二人の姿を見て、手に持っていた献立表を落とした。
 扉が開いて光が差し込み、二人の姿が露わになったのだ。
 アーネストもやっと自分がどんな体勢なのか知れた。
 レイフに押し倒され、彼の肩にアーネストの片足が乗っている。非常に際どい格好をしている。これは今にも事が始まりそうだ。

 リタに事情を説明しようとするアーネストの口を、レイフが手でふさぐ。空いている手でレイフは自分の前髪をかき上げると、振り返ってリタに言った。

「すみません。お取り込み中ですので、後でお願いします」

 硬直していたリタは、はっと我に返り、失礼しました!と勢いよく扉を閉めた。ドタドタと走り去っていく足音が聞こえなくなる頃、レイフは手を離した。

「こんな感じを見せつけるのがよろしいかと思います」

 アーネストの元から離れて、レイフはカーテンを開ける。部屋が夕陽に包まれる。夕陽に染まったレイフの顔は、いつもの仏頂面だ。
 アーネストはびっくりしていた。あんな朴訥そうな男が、急に獣のような真似をするなど夢にも思わなかった。

「そなた…どこでそんなの覚えてきた」
「実演は初めてですが、そういう場面に遭遇したことがあります」
「こなれ感があったぞ」
「光栄です」

 褒めてない。アーネストはさっきまでレイフが触れていた足を触った。顔を動かすと、レイフの残り香の匂いがした。

 リタが落としていった献立表を拾ったレイフは、中身を見て小さく笑った。それを見たアーネストは更に驚いてドギマギした。

「オシドリのソテーだそうですよ。仲の良い夫婦を焼いて出すなど、何ともブラックジョークが効いていますね」
「…………」
「アーネスト様?」
「あ、いや…確かにそうだな」

 心臓がうるさい。アーネストは胸を押さえた。

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