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海辺の館
海辺の館-14
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無我夢中で抱き着いた千代さんの身体は、思ってた以上に小さかった。
そのまま僕らは団子状になって、傾斜のある崖を転がり落ちていく。
ざらついた岩肌が皮膚を切り裂く。それを痛いと思う間もなく、冷たい海面が僕らを待ち構えていた。
遠くで、誰かの声が聞こえたような気もした。
怖くて眼は開けられなかった。
藻掻くように片腕で夫人の身体をつかみながら、もう片方の手で水を掻く。
けれど、大きく荒れる波が、もてあそぶように笑っている。必死に動かす腕もだんだんと重くなる。
時折思い出したかのように、千代さんが嫌がるように僕の身体を押す。
必死に離すまいと、するのだけど。
だんだんと身体が冷えてきた。力が入らない。
脚も、腕も。すべてが弛緩していく。
多分、泣いていたのだろう。
今になって急に怖くなってきた。
わたしは、死ぬのだろうか。
ゆるゆると瞳のあたりが生暖かい。
瞼がけいれんして、目を開く。
その先に、何かを見た。
「奈緒子!」
叫ぶ男の姿。
なんだか、大河ドラマのサムライみたいの格好で。
なんとなく、丸藤さんに似ている気もする。変なの。
ブクブクとわたしの口から泡が出た。
笑っていたのかもしれない。
「……さま!」
水の中なのに、私は誰かの名を呼んだ様だった。
聞き慣れぬ名。わたしに向かって手を伸ばすあの人は、あんなにも丸藤さんに似ているのに。
でも、呼ばれているのはわたしじゃない。
奈緒子と言う、誰か。
わたしは手を伸ばすのを諦め、ただただ沈んでいく。
意識が遠のく。
今だって、なんだか夢を見てるようで。
夢の最後で、冷たい何かに掴まれた気がした。
そのまま僕らは団子状になって、傾斜のある崖を転がり落ちていく。
ざらついた岩肌が皮膚を切り裂く。それを痛いと思う間もなく、冷たい海面が僕らを待ち構えていた。
遠くで、誰かの声が聞こえたような気もした。
怖くて眼は開けられなかった。
藻掻くように片腕で夫人の身体をつかみながら、もう片方の手で水を掻く。
けれど、大きく荒れる波が、もてあそぶように笑っている。必死に動かす腕もだんだんと重くなる。
時折思い出したかのように、千代さんが嫌がるように僕の身体を押す。
必死に離すまいと、するのだけど。
だんだんと身体が冷えてきた。力が入らない。
脚も、腕も。すべてが弛緩していく。
多分、泣いていたのだろう。
今になって急に怖くなってきた。
わたしは、死ぬのだろうか。
ゆるゆると瞳のあたりが生暖かい。
瞼がけいれんして、目を開く。
その先に、何かを見た。
「奈緒子!」
叫ぶ男の姿。
なんだか、大河ドラマのサムライみたいの格好で。
なんとなく、丸藤さんに似ている気もする。変なの。
ブクブクとわたしの口から泡が出た。
笑っていたのかもしれない。
「……さま!」
水の中なのに、私は誰かの名を呼んだ様だった。
聞き慣れぬ名。わたしに向かって手を伸ばすあの人は、あんなにも丸藤さんに似ているのに。
でも、呼ばれているのはわたしじゃない。
奈緒子と言う、誰か。
わたしは手を伸ばすのを諦め、ただただ沈んでいく。
意識が遠のく。
今だって、なんだか夢を見てるようで。
夢の最後で、冷たい何かに掴まれた気がした。
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