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視えるもの
視えるものー12
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ここで騒いで寺の人間に俺の正体がバレるとまずい、という阿弥陀如来に連れられて、僕らは再びお堂に戻って来た。
不思議とひんやりとしたその場所で、我が家と言わんばかりに坊主頭――あろうことか阿弥陀如来ご本人様という――はゴロゴロとくつろいでいる。
その姿を見下す、白檀製の仏像と、丸藤さんの冷たい目。
「お前、何か知ってるだろ」
腕を組む丸藤さんに、坊主頭が軽くうなずいた。
「もちろん」
そりゃあ、これほど確実な目撃者(?)はいないだろう。なにせ、盗まれた仏像に宿っていた仏様なのだから。
「けど、それを大人しく言ったらつまんないだろ」
おっしゃる通りで、それじゃあ探偵の立場がない。
「けど、あなただっていい迷惑だったんじゃないんですか?」
実際に何があったのかはまだわからない。けれど、事件に巻き込まれたのは確かだし、なにもそのことを隠す必要はないのでは。
「まさか、自由を求めて自ら姿をくらました、とか」
それならば、彼が口を閉ざす理由にはなる。けれどこれじゃあ本当に、探偵が言っていた通りの道筋になってしまうけれど。
そう思いながらも聞いてみると、
「別に、ここに不満なんてねーし」
だからこうやってあの爺さんの手伝いとかしてやってんだけど、と仏様が笑った。
「もともと嫌な予感はしてたんだよな、だからこうやって抜け出して、あの爺さんにカメラ付けるように言ってやったりしたんだけど」
けれど、駄目だった、と彼は残念そうにうなだれた。
「けっこー気に入ってたんだけどな、あれ」
そう言って、彼は仏像の方に目をやった。鈍い色の蓮に囲まれた、きれいな仏像。
「あれって、この仏像のことじゃなくて?」
「これはこれですごいんだけどさ、もっといいのがあったんだ」
「あったって、何が」
何を言いたいのだろう。僕は眉を寄せる。これじゃあ、盗まれたものが戻って来たようには聞こえない。まるで、別のものがあったかのような。
「まあ、ここまでが俺――事件の最初から最後までを見ていた俺からの大ヒントだ」
ごろりと身体を持ち上げて、仏様がきれいに胡坐をかいた。
「犯人捜しの神様には、ちと簡単すぎたかな?」
阿弥陀如来の視線を受け、丸藤は瞑想するかのように軽く瞼を閉じた。そして。
「そういうことか」
探偵はぽつりとつぶやくと、にやりと唇の端を持ちあげた。
「今回も、簡単すぎたな」
不思議とひんやりとしたその場所で、我が家と言わんばかりに坊主頭――あろうことか阿弥陀如来ご本人様という――はゴロゴロとくつろいでいる。
その姿を見下す、白檀製の仏像と、丸藤さんの冷たい目。
「お前、何か知ってるだろ」
腕を組む丸藤さんに、坊主頭が軽くうなずいた。
「もちろん」
そりゃあ、これほど確実な目撃者(?)はいないだろう。なにせ、盗まれた仏像に宿っていた仏様なのだから。
「けど、それを大人しく言ったらつまんないだろ」
おっしゃる通りで、それじゃあ探偵の立場がない。
「けど、あなただっていい迷惑だったんじゃないんですか?」
実際に何があったのかはまだわからない。けれど、事件に巻き込まれたのは確かだし、なにもそのことを隠す必要はないのでは。
「まさか、自由を求めて自ら姿をくらました、とか」
それならば、彼が口を閉ざす理由にはなる。けれどこれじゃあ本当に、探偵が言っていた通りの道筋になってしまうけれど。
そう思いながらも聞いてみると、
「別に、ここに不満なんてねーし」
だからこうやってあの爺さんの手伝いとかしてやってんだけど、と仏様が笑った。
「もともと嫌な予感はしてたんだよな、だからこうやって抜け出して、あの爺さんにカメラ付けるように言ってやったりしたんだけど」
けれど、駄目だった、と彼は残念そうにうなだれた。
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「まあ、ここまでが俺――事件の最初から最後までを見ていた俺からの大ヒントだ」
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探偵はぽつりとつぶやくと、にやりと唇の端を持ちあげた。
「今回も、簡単すぎたな」
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