上 下
9 / 14

キョドってない吸血鬼はご機嫌斜めで新米吸血鬼は聞き役に徹す。

しおりを挟む
「ほ、本間……お前大丈夫か?」
 情けないことに、見れば分かる事を問うている自分が居る。そして無事だったことを安堵するよりも一杯食わされた気分になってしまう。
 いや存外、的外れなことではないのかも知れない。彼、彼女らの目的はわたしを仲間に加える事であった筈だ。命を賭けて助けてくれた本間を素気なくするなんて、わたしには出来ないと踏んで一芝居打ったのでは有るまいか。
「――木戸?」
 心配そうに怪訝な顔で本間が覗き込む。わたしはハッと我に返り何でも無いと無理に笑って返事をする。
「酷いわ京二、本気で死ぬ気だったなんて。私を置いて逝くだなんて許さないから」
 しくしくと泣く美しい人の両眼から真紅の涙が流れる。2人のやり取りを眺めていたわたしは、気付いてしまった。志摩子は良いも悪いも関係無くて、人間から血を貰うのはただの食事で、淋しいから仲間を増やす。
 本能のままに行動する彼女は善悪の区別のつかない子供のようだと思った。
 時代と国を間違えていたら早晩魔女と呼ばれ、火あぶりになっていたに違いない。
「志摩子さん。もう脅す様なことは止めてください。わたしと本間は貴女と一緒に居ますから」
「悟史さん本当? 此処に居てくれる?」
 わたしと本間は深く頷く。と、急にクラクラと目眩が起こり、立っていられなくて倒れる所を本間が抱き止めベッドへ座らせた。
「血が足りないみたい。目覚めてから食事をしてないから……」
 志摩子は自分の手首を牙で咬むと滴る血をわたしの唇に押し当て「さあ……」と言った。
 唇に付いた赤い液体をペロリと舐め取ると甘美な香りと味に歓喜に震えた。なんと甘露な飲物なのだろう。子供のように夢中になってちゅうちゅう吸っている間、志摩子は空いている白く美しい手でわたしの頭を撫でていた。


 ◇◇◇


「なんだよ、良い雰囲気じゃないか。それがどうして仲違いなんてする事になったんだよ?」
 キドは無言になってそっぽを向いてる。状況を説明する気は無いらしい。
「和希くんにもその内分かるよ。僕たちは長い長い間、ずっと一緒に居たんだ。もう十分過ぎる程お互いのことは分かってる。それがもう、耐えられ無い程苦しいのさ。愛しさ故、憎らしい。時には離れなければやっていけない。死ねないのも辛いことだよ」
 そうなのか。不老不死というのも辛いものなんだな。シミジミ考えていると、キドは俺が見たことも無い感情を消した顔で冷たく言い放った。
「なに都合の良いこと言ってるんだ、本間。わたしが一番嫌いな事をしておいて……」
 一触即発の緊張感の中、のんびり欠伸をした志摩子が「もう朝になるわ、続きは起きてからにしなさい」といつの間に運んだのかマイ柩の中に入って行ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運び屋 青木瞬介の日常

水月美都(Mizuki_mitu)
キャラ文芸
耳慣れた着信音が鳴って、俺の意識は急速に覚醒した。007のテーマが鳴り響き、二日酔いの頭がぐるぐる回る。 「はい。こちら迅速、安心、確実が……」 『お題目は良い、仕事だ』 法に触れない仕事が信条のトランスポーターstory

宵どれ月衛の事件帖

Jem
キャラ文芸
 舞台は大正時代。旧制高等学校高等科3年生の穂村烈生(ほむら・れつお 20歳)と神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳)の結成するミステリー研究会にはさまざまな怪奇事件が持ち込まれる。ある夏の日に持ち込まれたのは「髪が伸びる日本人形」。相談者は元の人形の持ち主である妹の身に何かあったのではないかと訴える。一見、ありきたりな謎のようだったが、翌日、相談者の妹から助けを求める電報が届き…!?  神社の息子で始祖の巫女を降ろして魔を斬る月衛と剣術の達人である烈生が、禁断の愛に悩みながら怪奇事件に挑みます。 登場人物 神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳):ある離島の神社の長男。始祖の巫女・ミノの依代として魔を斬る能力を持つ。白蛇の精を思わせる優婉な美貌に似合わぬ毒舌家で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の頭脳。書生として身を寄せる穂村子爵家の嫡男である烈生との禁断の愛に悩む。 穂村烈生(ほむら・れつお 20歳):斜陽華族である穂村子爵家の嫡男。文武両道の爽やかな熱血漢で人望がある。紅毛に鳶色の瞳の美丈夫で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の部長。書生の月衛を、身分を越えて熱愛する。 猿飛銀螺(さるとび・ぎんら 23歳):富士ヶ嶺高等学校高等科に留年を繰り返して居座る、伝説の3年生。逞しい長身に白皙の美貌を誇る発展家。ミステリー研究会に部員でもないのに昼寝しに押しかけてくる。育ちの良い烈生や潔癖な月衛の気付かない視点から、推理のヒントをくれることもなくはない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

ガダンの寛ぎお食事処

蒼緋 玲
キャラ文芸
********************************************** とある屋敷の料理人ガダンは、 元魔術師団の魔術師で現在は 使用人として働いている。 日々の生活の中で欠かせない 三大欲求の一つ『食欲』 時には住人の心に寄り添った食事 時には酒と共に彩りある肴を提供 時には美味しさを求めて自ら買い付けへ 時には住人同士のメニュー論争まで 国有数の料理人として名を馳せても過言では ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が 織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。 その先にある安らぎと癒やしのひとときを ご提供致します。 今日も今日とて 食堂と厨房の間にあるカウンターで 肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。 ********************************************** 【一日5秒を私にください】 からの、ガダンのご飯物語です。 単独で読めますが原作を読んでいただけると、 登場キャラの人となりもわかって 味に深みが出るかもしれません(宣伝) 外部サイトにも投稿しています。

吸血鬼を拾ったら、飼われました ~私の血はどうやら美味しいみたいです~

楪巴 (ゆずりは)
キャラ文芸
自ら灰になろうとしていた吸血鬼・トワを知らず助けてしまった柚姫(ゆずき)。 助けた責任をとって、血を提供しろってどういうこと~!? さらに謎の美青年・チトセ(9話登場♡)まで現れて柚姫を取り合う事態に……モテ期到来!? 「お前なんかに、柚姫はわたさん!」 「私は、欲しいものは必ず手に入れます」 トワもチトセさんも、ケンカはやめて~っ!! コミカルあり、シリアスありの吸血鬼×女子高生の物語、ここに開幕――  ※ 第5回キャラ文芸大賞にて、奨励賞をいただきました!! たくさんの応援、ありがとうございます✨  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

処理中です...