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回り出す運命の輪

愚者の末裔④

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 あれから母は時々正気に戻り俺をなじると耐えきれなくなるのか自分だけの夢の世界を彷徨っている。
 本来なら事件として処理される筈の、車の爆発やオーウェンの殺人も、父の寄越した人間達が迅速に片付け警察が来る事もなく葬儀も速やかに執り行われた。
 当事者である俺と母には何も説明が無いまま、表面上は何事も無かったかのように日々は過ぎて行く。
 オーウェンの居ない今、母をひとり残して父の所へは行けないと、幾度となく訪れる父の代理人にはっきり断りを入れているのに、父は諦める様子は無さそうだ。

「御父上はトーマ君が来られるのを首を長くして待って居られます。御母様は一流のお医者様に診て貰えると仰っていました。だから安心して来て欲しいと」
「俺は父の顔を殆ど覚えていません。双子の弟のアンリは一度も会わないまま死んでしまった。憐れに思うのならば、父は会いに来るべきです」
 何度目かの話し合いの末、父がここに来る事を承諾したと連絡があった。


 ◇◇◇


 外に車が停まった音がした。俺は外に飛び出したい衝動を抑えて母に声を掛ける。
「母さん、父さんが来たよ。久しぶりだから変わっていると思うけど、びっくりしないでね」
「父さん? いったい誰が来るというの? アンリ、あなたには母さんしか居ないのよ」
 その日、その時の体調によって俺はトーマにもアンリにもなる。
 トーマに見える時の母の態度とアンリとのそれは真逆の対応で正直辛い。
 本当の俺を愛してほしい。アンリだけじゃなくトーマとして見て欲しかった。

 来客を告げる呼び鈴が鳴る。母は止める俺の手を払い玄関へと出て行く。
 慌てて後を追った俺の前に、まだ年若い青年が立っていて母の手を握って言った。
「アンナ長い間留守にして済まない。エリックだよ」
 父だと言う彼は、どう見ても母よりうんと歳下に見えた。
 コートを着てハットを被っては居るが、長い癖毛のブロンドの髪に細身の体型。
 むかし写真で見た父の姿から些かも歳を取っていないかのようだ。
 俺と並んで歩いて居たら、親子に見えず歳の離れた兄弟にしか見られないだろう。

「トーマだね。僕はエリック、君の父だ」
 なんの防御もしないまま無意識に出された手を握り返した途端、膨大な数の映像が一気に脳内に映し出される。
 その中には確かに母と父の出会いから、俺達双子が産まれ、ここに母子が住むまでの経緯も垣間見える事が出来た。
 いまの俺の容姿は父と良く似ている。違うのは瞳の色が父のアイスブルーでは無く母と同じエメラルドグリーンだということ。
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