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陰鰐との遭遇

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矢を作り終え、食料も残り少ないということでこの先どうするかをグリノルフと話し合うことになった。日は西に傾きかけ一日が終わろうとしている。
「の、前にしょんべん行ってきていい?」
話し合いが長くなりそうなので先に用を足しておこうと比呂人はロープを伝って下へとおりた。ここにいる間にロープの上り下りも大分上達した。
比呂人は川に向かって用を足し、ズボンを引き上げると狩り小屋へ戻ろうとした。
ふと視線を感じて川のほうを見ると、水面ぎりぎりにふたつの光を反射する球が浮かんでいた。
ふたつの球の奥には濃い灰色が連なっている。
頭と手足の先から血の気が引くのが自分でもわかった。
こういうときって目をそらさずにゆっくり後退するんだっけ、それって熊か、頭の中でぐるぐると考えながらゆっくりと後ずさりする。
「ヒロト」
狩り小屋からグリノルフが叫ぶ。陰鰐がその声に反応し上へと注意が向いた。
間髪入れず樹上から矢が射られ、陰鰐の後方に刺さる。陰鰐が180度回転する。比呂人の知っている鰐と違い、尻尾の先端が団扇状に大きく膨らんでいる。すごい勢いで尻尾が振られ、水飛沫が飛び散る。
比呂人は地面をけってロープに飛びついた。自分で登るより先にすごい勢いで引っ張り上げられる。
あっという間に比呂人はグリノルフの腕の中にいてきつく抱きしめられていた。
「大丈夫か。怪我はないか」
今になってぶるぶると震えがきた。比呂人はグリノルフにしがみつき、ただ無言でうなずいた。
「俺が油断した。悪かった」
グリノルフの大きな手が優しく比呂人の背を撫でる。比呂人はやっと息ができた気がして大きく息を吐いた。
「俺は大丈夫だから」
グリノルフの手から力が抜け体が離れる、とすぐにグリノルフの唇が比呂人の唇に触れた。ただ二度だけ触れると再びグリノルフは比呂人を抱きしめた。
しばらくそうしているうちにあたりに西日が満ち、ありとあらゆるものが赤く染まる。
「夕飯にしよう」
グリノルフはそう言うと、比呂人から離れて夕食の支度を始めた。夕食といってもいつも通りの干し魚を炙ったものなのですぐに支度ができる。
干し魚をかじりながらグリノルフと今後のことについて話をする。
「そろそろ干し魚も残り少ない。ここからさきは二つだ。一つは食料を補充して狩りを続ける。もう一つは狩りをやめる。危険な目に合わせてしまったし、ヒロトが嫌ならばここで引き上げる。ヒロトが決めてくれ」
「そんな急に決めろって言われても」
グリノルフに突然言われて比呂人は困惑する。
確かに恐ろしい目にあったがこのまま手ぶらで変えるのは悔しくもある。ここまでの苦労が水の泡になってしまうのもやりきれない。
「俺は、このまま帰るのはちょっと悔しい」
「怖くはないか」
「怖くないかって、そりゃ怖いよ。でもグリノルフは影鰐を捕まえられると思ってここに来たんだろ。じゃあもう少しやってみてもいいかなって」
「いいのか」
「いいよ。食事はもっとおいしいもの食べたいけどね」
比呂人は努めて明るく言うと残っていた干し魚にかじりついた。
「わかった。では明日、一旦魚を釣った場所まで戻ろう。そこで食料を補充し、またここに戻る。影鰐は日が完全に登らないと活動しない。明日は念のために日が昇る前に出発しよう」
「朝早いのはきついな」
「寝ていたら運んでやるさ。今日はもう休もう」
焚き火を消し、草布団を敷いていつものように並んで横になる。
比呂人はなかなか寝付かれず、暗い中目を開いていた。目をつぶると、昼間に見た二つの目玉が浮かんでくる。そんな比呂人に気付いたのか、グリノルフが背中から手を回しぐっと抱き寄せた。
「今日はすまなかった」
「いや、ほんとそれは大丈夫だから」
比呂人は体の前に回されたグリノルフの腕に軽く触れながら言う。
比呂人はしばらくグリノルフの腕をとんとんと軽く叩いていたが、やがて振り返りグリノルフに口付けた。
こんなことしかできないのかという気持ちと、自分ができることをせめてやりたいという気持ちで、両手を下に伸ばしグリノルフの股間に触れる。
陽物は周りはまだ柔らかいが真ん中に芯があり、勃ちあがりつつあった。そのまま両手でグリノルフの陽物をゆっくりとなでさする。
「ヒロト、何を……」グリノルフが比呂人の体を押し戻す。
「俺が裸になるのが駄目なんだろ。だったらグリノルフだけでも……だめ?」
「俺だけ良くなるのは嫌だ。ヒロトも良くなければ意味がない」
「俺はいいよ。俺がグリノルフに気持ちよくなってほしいんだけど」
比呂人の言葉にグリノルフは大きく溜息を吐いた。
「俺はヒロトを抱きたいんだ。こんな中途半端なことをされては我慢が効かなくなる。気持ちは嬉しいがこんなことをされてヒロトに手を出さない自信がない」
「わかった、わかったから、もう寝るよ」
いつにないグリノルフの率直な言葉に比呂人は顔を見られないように、グリノルフの胸に顔を埋めた。
グリノルフは比呂人の背中に手を回すと、こどもをなだめるようにゆっくりと撫で下ろした。
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