そのまさか

ハートリオ

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1.死んでる場合じゃない!

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「ひぃあぁあぁあぁあぁあぁ~~~~~っっっ・・・」

あぁっ、はしたない声で失礼致しますわ!
わ・・、私はベナ・マギネ! 3年前、ヤカフ・スィブール・デ・ギネオア伯爵と結婚したので、今はギネオア伯爵夫人、という事になるのかしら・・・


とにかく、現在落下中ですの~~~!!!


な、何でこんな事になっているかと言いますと・・・今から3分ほど前 ―――



・・カタン・・キィィ~~~・・・キョロ、キョロ グッ(拳を握りしめた音)

時刻は夜の11時。 月は出ているものの、辺りは真っ暗・・絶好の脱出日和ね!
―― というワケで、私はカーテンを割いて作ったカーテンロープを自室・・ギネオア伯爵家の屋敷の3階にある“奥様の部屋”の小さなバルコニーから地上へ垂らします・・・

このカーテンロープを伝って地上へ降り、今夜のうちにこの屋敷から・・伯爵から逃げなければ! 明日 ―― 16才の誕生日を迎える前に!

私はしっかりとカーテンロープを握りしめ、バルコニーから飛び出しました!
カーテンロープは一度グンッと私の体を支え、直後、突然頼りない1本の紐となり、私と共に地上へと落ちて行きます。

(えっ? あれ!? 落ち・・・・・・てますわ~~~!?)

どうやら、テキトーに作ったカーテンロープが切れたか解けたかして、私は地上へ真っ逆さまに・・・!

 ―――― というワケなんですの!! 

あぁ、来ました、走馬灯・・え~~と、あ、やっぱ3年前よね、


3年前 ―― 私は13才 ―― 両親と共に地方の田舎の森の中にひっそりと佇む小さな屋敷で暮らしていましたわ。
両親は権力争いに巻き込まれて没落した貴族 ―― 使用人も無く、親子3人だけの細々とした暮らし ―― 両親は、世の中から隔絶され、人付き合いも無く、私に家庭教師をつける事も出来ない事を負い目に感じていた様だけど、私は贅沢に興味は無かったし、森の中で自然と共に静かに生きる暮らしが気に入っていましたの。

でも、そんな穏やかな日々も両親の突然の事故死によって終わりを告げるのです。

ある日用事で出掛けた両親を、ごはんを作りながら待っていたところ、数人の男達が荷車に両親の遺体を乗せてやって来て、2人は事故で死んだからお別れをしろと言うのです。 つい数時間前に、お土産にお肉とチーズを買って来るよと出掛けた両親の変わり果てた姿に目を覚ましてと必死にすがって泣き叫ぶも、男達にもういいだろうと引きはがされ、2人はそのまま庭に埋められて・・・

両親を埋め終えた男達に、お前は両親が残した借金返済の為、働かなければならない、と言われ、そのまま怪しげなパーティーに連れて行かれましたわ。
そして変な服に着替えさせられ、床から2メートルほどもある高いテーブルに立たされましたわ。 テーブルをパーティーの客であろう男達が囲み、私に手を伸ばしてきます。 私は全てに絶望して、俯き、時が過ぎるのを待っています・・・あぁ、この感じ・・・これを、私は知っていますわ・・悪意に晒され、欲望の餌食となった前世・・・そして、今世でも私はまた・・・えっ!? 前世!? え・・ちょ・・待って!! 


突然降りて来た前世の記憶に混乱する私の耳に、二人の人物の声が聞こえます!


『ベナッ!?』  「奥様ッ!?」


落ちながら、混乱しながら、聞こえた声・・・・・・はっ・・!


(・・彼の声だっっ!!)


彼の声だ、そう、間違いない!! ・・え? “彼”って誰!? わからない・・・でも、前世の最期に聞いた、大切な彼の声・・とても大切だった、私の命だった・・大切な彼も、ここに転生している・・!!

あぁ・・ッ、会いたい! 会いたい!!

強く強くそう思った瞬間、激しい衝撃を感じ、意識が・・・消え・・ダメ、待って! お願い! 死にたくない!  
さっきの声が気になり過ぎて、死んでる場合じゃない!! 死にたく・・な・・

無常にも意識は薄く、小さく、切れ切れになり・・・

いや・・死にたくない・・生きて・・会いたい・・・知りたい・・

あなたは誰だったの?  今世ここでは、誰なの?
私の何だったの・・?    今世では、私はあなたの何かになれる?



お願い、魅惑のボイスの主に会わせて・・・!
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