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キール

05 叫び

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キールは特殊な育ち方をした。


生まれた時から負の感情を向けられ続けて来た。


その一番最初を、生まれたばかりではあったがキールはよく覚えている。


――コレは私の子ではない!――


母と同じ顔の男はそう叫んで整った顔を醜く歪め憎しみに染めた。

彼の憤怒と憎悪の表情は直ぐに母に伝染り、以降母はずっとその表情を変える事は無かった。

異父兄である第一王子は無表情だがその目は酷く冷たく恐ろしいものだった。

そして11才、父王に連れられ本宮殿へ移れば分かりやすく敵視して来る側妃たち。

父王の愛情を奪われるのではないかと涙目で睨みつけて来る異母弟。

探る様な視線を向けて来る異母妹。

無表情を貼り付ける騎士や侍女達。

父親――牢獄で死にかけていたキールを救い出してくれた国王は、キールが誕生した際会う事もせず遠ざけた事、今なお正妃への恋情を断ち切れない己の愚かさ、そのせいで正妃がキールを虐待して来た罪を有耶無耶にしている事など、複雑な感情を処理できず、その表情はいつも苦し気でキールは責められている様な気持ちに追い込まれた。


異父兄の言葉がキールの内をグルグルと駆け巡る。


『お前は誰にとっても価値の無い子供。
――ただ憎まれ疎まれるだけの存在なのだから』


まさにその通りの状況。

異父兄は正しい。


『死んだ方がいい‥‥』
死んで楽になれ』


正しい異父兄はキールに何度も死を勧めた。



死ねば楽になれるのか‥‥

死へ逃げたい気持ち。

死への憧れが育っていく日々。


そんなある日、突然呪いを掛けられた。

黒い煙に包まれ、


『クックック‥‥
憐れな王子よ。
キール殿下は実母である正妃様に憎まれ呪いを掛けられるのだ。
徐々に人間でなくなっていく苦しみは死よりも残酷かもしれぬ。
数年後に呪いが解け人間の体に戻るが、心は既に人でなくなっているのだから』


そんな声が頭の中で響いた直後、意識を失った。


次に目を覚ました時キールは全身白い毛に覆われた獣になっており、言葉を発する事が出来ず、覚醒したばかりの魔力は消えていて、見知らぬ森の中にいた。


”呪い ”‥‥


それ程に自分を忌み嫌うか‥‥


『お前など産まなければ良かった!』
『お前のせいで彼は自殺した』
『お前など消えてしまえ!』
『彼を返せ!』
『こっちを見るな!』
『お前が憎い!』
『殺してしまいたい!』


キールを睨みつけ狂った様に罵声を浴びせる母を思い出す。

何故か当時は聞き取れなかった罵声がクリアに思い出せる。

わざわざ塔までやって来て罵声を浴びせ、石を投げ、鞭で打つ。



ただ、生まれただけで

ただ、存在しているだけで

だったら――


だったら、産まなければ良かったではないか!

こっちは産んでくれなんて頼んでない!


堪らず叫んだ想いは『ガウガウ』という獣の咆哮となって森の中に吸い込まれ消えてしまった――
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