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第二章
09 使用人達の悲鳴
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スタード公爵邸のそこここで悲鳴が上がる。
「噴水が止まってしまいました!
全ての噴水がです!」
「水が出ません!」
「暑い‥‥
お部屋も廊下も温度がどんどん上がっています!」
「一体、何が起こっているのですかッ!?」
今、邸内で何が起こっているのか分かっているのはカロンただ一人。
家令バラン、使用人各部長達を集め、事情を説明した上で告げる。
「私は6年前のスタード公爵邸の事を知りません。
厨房など、急に魔道具を止められない重要な部署以外は6年前の状態に戻る事になりますので、今後はバラン様の指示に従って下さい。
バラン様、よろしくお願い致します」
「む‥‥承知した。
だが‥‥ステラ様のお力がそこまでだったとは‥‥
常にその事を主張していたカロンの言葉、もっと重く受け止めておくべきだった。
‥‥いや、同じ事か。
私が何を進言しても、公爵様は耳を貸すような御方ではない‥‥
それにしても、6年前の状態か‥‥
これから、大変だぞ。
カロン、済まぬが力を合わせてこの苦境を共に乗り切ってくれ」
「6年前のスタード公爵邸の事を知らない私は役立たずです。
それに、実は私はクレア様によってクビになっており、ディング様もそれを御認めになりましたので、早々にここを去るつもりです。
いえ、去らねばなりません。
ですので私はこれにて失礼させて頂きます」
ザワザワッ!
途端に使用人各部長達がザワつく。
6年前の状態に戻る事よりも、カロンが去る事の方が彼等にとっては衝撃の様で。
「そんな!
カロン様がいらっしゃらなくなったら、スタード公爵邸は回りません!」
そんな事を必死の形相で口々に叫ぶ使用人各部長達に家令バランは当然面白くない。
邸内の雑務は若いカロンに一任していたが、実際にスタード公爵邸を取り仕切っているのは家令である自分なのだ、と。
「む、そういう事なら仕方のない事。
カロン、今までご苦労であった。
今後の事はこの私に任せて、安心して去るが良い。
次の就職先への紹介状などは‥‥」
「お気遣いありがとうございます。
ですが紹介状は必要ありません。
それよりも、スタード公爵邸はしばらくパニック状態が続くと思われます。
そんな時に去らねばならない事をお許し下さい。
それでは、私は公爵令息にも報告せねばならない事がございますので、これで」
そう言って去って行くカロンの後ろ姿を縋る様な目で見つめる使用人各部長達。
そんな様子に苛立ちを覚える家令バランは、珍しく声を荒げる。
「さぁさぁ、去る者に頼るのは止め、サッサと自分の仕事をしなさい!
6年前の、魔道具を使わなかった頃の状態に戻すのだ!」
「そう仰られましても‥‥
何からどう手を付けていいやら‥‥
何をどうすればよろしいのでしょうか?」
「‥‥む?
そんな雑務はだな、カロンに聞いて‥‥ハッ!」
スタード公爵邸の一大事にも顔色一つ変えずに威厳のある佇まいを保っていた家令バラン。
それが出来ていたのは、無意識に思っていたから。
カロンに任せよう。
カロンなら何とかしてくれる。
邸内の雑務――
それは、家令としての重要な仕事そのものであったと気付いたバラン。
今や、誰よりも青褪め、狼狽えるのであった。
「噴水が止まってしまいました!
全ての噴水がです!」
「水が出ません!」
「暑い‥‥
お部屋も廊下も温度がどんどん上がっています!」
「一体、何が起こっているのですかッ!?」
今、邸内で何が起こっているのか分かっているのはカロンただ一人。
家令バラン、使用人各部長達を集め、事情を説明した上で告げる。
「私は6年前のスタード公爵邸の事を知りません。
厨房など、急に魔道具を止められない重要な部署以外は6年前の状態に戻る事になりますので、今後はバラン様の指示に従って下さい。
バラン様、よろしくお願い致します」
「む‥‥承知した。
だが‥‥ステラ様のお力がそこまでだったとは‥‥
常にその事を主張していたカロンの言葉、もっと重く受け止めておくべきだった。
‥‥いや、同じ事か。
私が何を進言しても、公爵様は耳を貸すような御方ではない‥‥
それにしても、6年前の状態か‥‥
これから、大変だぞ。
カロン、済まぬが力を合わせてこの苦境を共に乗り切ってくれ」
「6年前のスタード公爵邸の事を知らない私は役立たずです。
それに、実は私はクレア様によってクビになっており、ディング様もそれを御認めになりましたので、早々にここを去るつもりです。
いえ、去らねばなりません。
ですので私はこれにて失礼させて頂きます」
ザワザワッ!
途端に使用人各部長達がザワつく。
6年前の状態に戻る事よりも、カロンが去る事の方が彼等にとっては衝撃の様で。
「そんな!
カロン様がいらっしゃらなくなったら、スタード公爵邸は回りません!」
そんな事を必死の形相で口々に叫ぶ使用人各部長達に家令バランは当然面白くない。
邸内の雑務は若いカロンに一任していたが、実際にスタード公爵邸を取り仕切っているのは家令である自分なのだ、と。
「む、そういう事なら仕方のない事。
カロン、今までご苦労であった。
今後の事はこの私に任せて、安心して去るが良い。
次の就職先への紹介状などは‥‥」
「お気遣いありがとうございます。
ですが紹介状は必要ありません。
それよりも、スタード公爵邸はしばらくパニック状態が続くと思われます。
そんな時に去らねばならない事をお許し下さい。
それでは、私は公爵令息にも報告せねばならない事がございますので、これで」
そう言って去って行くカロンの後ろ姿を縋る様な目で見つめる使用人各部長達。
そんな様子に苛立ちを覚える家令バランは、珍しく声を荒げる。
「さぁさぁ、去る者に頼るのは止め、サッサと自分の仕事をしなさい!
6年前の、魔道具を使わなかった頃の状態に戻すのだ!」
「そう仰られましても‥‥
何からどう手を付けていいやら‥‥
何をどうすればよろしいのでしょうか?」
「‥‥む?
そんな雑務はだな、カロンに聞いて‥‥ハッ!」
スタード公爵邸の一大事にも顔色一つ変えずに威厳のある佇まいを保っていた家令バラン。
それが出来ていたのは、無意識に思っていたから。
カロンに任せよう。
カロンなら何とかしてくれる。
邸内の雑務――
それは、家令としての重要な仕事そのものであったと気付いたバラン。
今や、誰よりも青褪め、狼狽えるのであった。
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