妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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29 絶望のロサ

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ロサが固まったままのドアの先では――

端的に言えば『真っ最中』である。

ベッド周りには全裸や下半身丸出しの騎士が満足げに倒れており。

ベッドの上では…

「ッ、サルトゥス…」

ドアが開けられた音もロサの声も聞こえないほど張り切って腰を振るサルトゥスと『いいわ、最高』だの『もっと激しくして』だのを嬌声に乗せるカルミア。

『妃殿下はお楽しみ中』――確かにそう案内されたけど。

一般的に『お楽しみ中』と言えばまぁそういう意味だろうけど。

まさか本当にカルミアが事に及ぶとは思っていなかったロサ。

カルミアは騎士達を侍らせてはいるが一線を越えることはしない。

一線を越える以上の変態行為を楽しんでいるが性器を繋げることはしない。

クースとトースの調査結果だ。

だからロサも安心していた。

サルトゥスは揶揄われているだけなのだと。

「ッ‥これは‥ロサ嬢、見ない方が‥」

言いながらロサの腕を引こうとしたシアンの手は一瞬遅かった。

ロサは数歩ベッドに近付き、大きく、よく響く、ハッキリとした声を出す。

「サルトゥス!」
「‥!?」

流石に声に気付いたサルトゥスの目に長年の婚約者ロサが映る。

一応仮面のカボチャに扮装をしてはいるが丸ポチャボディと唯一無二のオーラでロサだと直ぐに分かるのだ。

(え…なぜそこに?…じゃあ俺が今抱いているのは…?)

「サルゥ~~あぁ~~、いい~~‥」

(!?何でカルミアが!?‥だって‥さっき‥)

さっき――

黒装束の男達がやって来て、『こちら我が国で開発された新酒でございます。只今無料サービスにて紹介させて頂いております。…どうぞ良き夢を』と言いピンク色の酒が入ったグラスを大量に置いて行った。

こんな事はよくある事で。

他にもテーブルにはフルーツや菓子、肉料理等がズラリと並んでいる。

ちょっとおだてれば大枚を使ってくれるカルミアに商人達が置いて行くのだ。

だからサルトゥスも何の気なしにピンクの酒を飲んだ。

途端に頭がクラリとして暫くの間気絶していた様だ。

ぼんやり目を開けるとロサ嬢が居た。

そうだ、だから俺はロサ嬢の前にサッと跪いてその手を取り――

『ロサ嬢、俺達の婚約は駄目だ!契約内容を変更してくれ』
『もちろん。何でも好きにしていいのよ』
『!‥そうか、良かった‥やっと…俺はずっとお姫様に仕えるのが夢だった…物心ついた頃からいつも夢想して来た…想像の中でお姫様は金髪に碧い目だったり銀髪に赤い目だったりしたが君に出会ってからはお姫様はいつも君になった…』
『嬉しいわ』
『ああロサ嬢‥俺のお姫様‥!』

10年前、容姿が一番重要だった13才男子の価値観を6才女子が打ち砕いた。

佇まいが違っていた。

静かに凛として立つ姿、放つオーラの高貴さは理想のお姫様そのものだった。

出会ったあの日からいつか傅く日を夢見て来た茶髪茶目の丸いお姫様――

だがサルトゥス自身、自分の気持ちに気付くのに時間が掛かり過ぎた。

自分で決めた契約内容に自分が苛まれる事となり漸く自分の想いに気付くが修正するにはどうしたらいいか分からない。

ロサの方から修正を言い出してくれるのを待つしかないが一向にその気配が無い。

結婚の日が近づき焦るあまり無計画に王子妃に雇われウンザリする日々を送っていたがもう終わりに出来る。

『ロサ嬢、いやロサ姫、愛している』
『私もよ‥あぁ‥抱いてサル』
『えッ‥それは結婚初夜まで待たないと‥』
『待てないわ、ピンクのお酒を飲んだら体が熱くて‥今すぐあなたが欲しいの』
『お、俺もッ‥』

そして部屋の奥にドンと置かれていたベッドに二人でなだれ込み体を繋げた。

やっと想いが叶った――よく待ったなぁ、俺!――頑張ったなぁ、俺!

と、夢見心地で腰を振っていたのにこれは一体どういう事だ!?

そしてこんなあり得ない事態なのに腰が止まらない!?

まさかあのピンクの酒は今裏社会で話題になっている幻覚作用がある強い媚薬――

頭は真っ白なうえ腰が止まらず絶体絶命なサルトゥスはいつも無表情なロサの瞳が仮面の奥で怒り狂っているのに気付き――何か変なモードに入ってしまう。

腰を振り続けながらニヤリと口角を上げ。

「フンッ、ドブスか!
どうだ?俺たちは愛し合っている!
最高だ!これでお前も俺を諦めるしかないだろう!?」

勝ち誇った様に高らかにそう言ってしまう。

胸の内では(な、何でこんな事を言‥ロサ姫、違うんだ‥)と焦りまくっているがロサに分かるはずがなく――

「ああ。お前はもう用無しだ」
「何だよ、これでもまだ分からないのか!?一体どうすりゃ‥
えッ?」

驚いたサルトゥスは腰の動きが止まり、目を丸くしてロサを見る。

「王子妃に手を出し罪人となったお前は私と結婚する資格を失くした。
お前は私にとって無価値になった。
婚約解消の面倒な手続きは要らない。
お前が罪人になるなどして結婚の資格を喪失した段階で白紙となるから――
サルトゥス、よくも私のこれまでの10年間の努力とこれからの未来を奪ってくれたな…二度と私の前に現れるな!」

怒りを滲ませ言い放つロサ。

サルトゥスは感情を露わにしたロサを初めて見てゾッとする。

俺は…取り返しのつかない事を!?

「‥な‥何で‥いつもなら‥」
「サルゥ~~どしたのぉ~~続けてぇ~~」

誰かが何か言っている…騒音…煩い。

「ちょ‥サルゥ!?」

ベッドから下りて行くサルトゥスを追おうとして上半身を起こしたカルミアは。

ロサに向かって行こうとする全裸のサルトゥスからロサを守る様にロサの前に移動するシアンを目にして――

「ん~~~?あれぇ?
シアン様ぁ?何でここに居るのぉ~~?」

全裸で足を開いたままの状態でへらへらと笑いながら首を傾げる。

「シアン様もするぅ~~?すっごく気持ちイイよぉ~~?
はぁぁ、さっきのピンクのお酒ちょうだい、あれ飲むとねぇ、んぅぇへへへ‥」
「ロサ嬢、何だよ!?いつもは許してくれるじゃないか!?う、浮気だって自由なはずだろ!?ビンカ従姉様とは子供を作れとまで言ってたじゃないか‥」

「パキラ、カクタス、こいつらを拘束しろ」
「「はっ!」」
「ロサ嬢!‥ロサ姫ぇ!‥くそッ離せ!‥ロ‥うッ」

暴れるサルトゥスをパキラが拳で黙らせカクタスがサッとロープで縛り上げる。

サルトゥスは騎士の自分から見れば優男の二人に簡単に気絶させられ静かになる。

美しく優秀な側近二人はあっという間にシーツで包んだカルミアと半裸全裸の騎士達もロープでグルグル巻きにする。

サルトゥスに別れを告げた後放心したように立ち尽くしているロサに心が痛み、無意識にきつめに縛り上げるので騎士達が『ぐえ』とか『うぅ』とか言っている。

「なによぉ~~アタシにこんな事していいと思ってんのぉ~~アタシは王子妃でぇ、フランマのお姫様なんだからぁ~~」

シーツに包まれ拘束されているカルミアが芋虫の様に暴れながら文句を言う。

「お前はもう王子妃ではなくなった」

シアンが冷たい声を出す。

「ん?へ?なんで?
アタシは王子妃になってロウラクする為にこの国に来て…?…ん?」

カルミアがぼんやりシアンに視線を移しながら言うが。

「今更聞くか…分かっている事だろう。今までは仮婚という状態で、お前の成人をもって初めて本当の結婚となるはずだった――が、仮婚中に不貞があれば結婚は無くなる。これは王族でなくとも貴族平民関係なく昔から当たり前に守られて来た『成人前に婚姻を結ぶ場合のルール』だ。グラキエスであろうとフランマであろうと変わらない。お前は不貞を犯した。もう私とは無関係だ。フランマに帰るなりそのクズと結婚するなり好きにすればいい」

その何の感情も感じさせない声と無表情にカルミアの心臓はドクドクと波打つ。

それでも頭は一向に働いてくれないし――体はまだ欲しがって疼いている。

「‥ッ、違う!ちがうちがうのぉ、聞いて、あの、あれ、あれのせいなのぉ‥」

カルミアが大騒ぎする中――ロサはシアンの背中を見ている。

なぜかカルミアから体を離し自分に向かって来るサルトゥスに嫌悪感で思考停止していたところ、シアンがスッと前に出て視界を遮ってくれた。

自分だって妻の不貞を目撃してしまったわけだから心中大変だろうに…

大変…
と言うかオワリだな…
私は…

頭の中をゆらゆらする言葉がピタと止まり『自爆』だと認識したロサは倒れぬように足を踏ん張る。
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