妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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07 心は彷徨う

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バシッ!

「ッ‥」

「我が主に馴れ馴れしく触れないで下さい」
「会う度注意してますがね、メイズ様」

クースとトースにロサの手を取っていた手を叩き落とされ眉を顰めるメイズ。

本来ならモンス辺境伯家の次男でシルワ子爵でもあるメイズに使用人である従者が取る態度ではないのだがロサが領地を訪れる度に会っており、ロサと従者達の強固な信頼関係も従者達の絶対的な忠誠心もメイズはよく知っているので。

「――たく、相変わらず優秀な従者達だな。ロサ嬢の為なら王族にだって噛みつきそうだ。‥ま、だからこそロサ嬢に悪い虫が寄り付けないと安心出来るが俺にまでその態度は頂けない」

メイズの発言に呆れるロサ。

「クースとトースもだが、メイズ殿も…
私に寄り付く男などいるはずもないのに」
「先程のメガネの男達は?」

鋭い目をメイズに向けて来たやたらキラキラしたメガネイケメンズ。

あの男達が同時に放った原始的な気は男の本能からのもの。

煌びやかな皮の下は自分と変わらない雄なのだとメイズはあの男達にやはり本能的な敵愾心を感じている。

「店先でぶつかっただけで名前すら知らない――まぁ、ちょっと気になってはいるが」

「「「な!」」」

声を揃えるメイズと従者達。

「黒髪メガネは何故か高度な変装をしていた…茶髪メガネもカツラを被っていた」

自分にも解らない心の揺れを誤魔化す様にロサは努めてロサらしく?説明する。

「ふ、茶髪メガネはズラがズレてましたね」
「トースが首を絞めた時にズレたのだろう」
「えーと、俺が行く前、一体何があったんだ?」

困惑顔のメイズにロサが『ハハ』と笑う。

メイズはロサの妙に楽し気な様子にどこかモヤッとする。

ロサとしては心の奥を揺らす得体の知れない何かを誤魔化しているだけなのだが。

「…何かロサ様、楽しそうですね?」
「あの黒髪メガネを気に入ったのですか?」

ズバリと聞く従者ツインズに、メイズも自分のモヤモヤの理由がハッキリする。

ロサは黒髪メガネに対してどこか優しい――感じがしたのだ。

だがロサは。

「…何でそうなる?」

ギクリとする気持ちを隠し何を言われているのか分からないという顔と声だ。

「あの黒髪メガネに対する態度がいつものロサ様とは違いました」
「コホ…どこがだ?」
「優しかった様に思います」
「ん?普通だろう?」
「いつもなら、あんな失礼なヤツは無視しますのに」
「親切に対応してましたよね」
「別に親切になど‥それに彼は失礼と言うより何か訳があってああいう態度なだけだと思うし‥」
「へー…」
「ほー…」
「な、なに‥」
「「無自覚ですね」」

ロサが従者ツインズにやり込められる姿を見ながらメイズは。

(ここは流すところだ)

と考える。

確かに誰にも興味を示さない、素っ気ない、冷たくさえあるロサらしくない。

が、本人にその自覚がないのなら、何も知らせる事は無い。

自覚のないまま忘れ去ればいいのだ。

今日はこれからロサに大変な話をしなければならない。

そして大変な提案――というか申し込みをする積りだ。

その話の後にはメガネイケメンの事など記憶の片隅にも残らないだろう――

「13番個室‥ここですよ」

余裕の笑顔を浮かべてメイズがロサを案内する。

「…閉鎖空間ではないのだな」

これで個室と言えるのかとロサが疑問を呈しクースが多分正解な推理をする。

「密室にしてしまうと中でやらかすカップルがいるからじゃないですか」

ロサは頷き、

「ああ…恋愛や結婚の事しか考えていない連中には反吐が出るな」
「ウグッ、ゲホゲホ」

急に咳き込むメイズ。

そこへ給仕の男が恭しく声を掛けてくる。

「いらっしゃいませ。
カフェ・キャプルスへようこそ。
ご注文をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「メイズ殿は注文は?」
「いやまだだ。
久々の王都で新しい飲み物の店…メニューを見ても何が何やら分からん」
「確かに『コーヒー』の種類?が多くてチンプンカンプン‥あぁこのいい香り…
『コーヒー』の香りなのだろう?
何でも味は苦いとか」

ロサがメニューから顔を上げ視線で給仕に説明を促すと。

「はい。お茶よりも強い苦みに最初は皆さま驚かれますが『クセになる』と気に入って下さるお客様が大半で」
「薬草茶でもあるまいに。病気でもないのにわざわざ苦い飲み物を飲むのか?」

解せぬ顔のメイズに給仕はメニューの菓子の欄を示して、

「皆様、こちらの甘味と交互に楽しまれていらっしゃいます」
「…生臭い肉や魚の臭みを薬味で消しながら食すような感じか?
酔狂な」
「…あ、ええと」

困ってしまった給仕にロサが尋ねる。

「初心者にお勧めのメニューを教えてくれ」
「あ、はい、では…」

ホッとした給仕のお勧めを聞きながらロサは自問する。

私があの黒髪メガネに優しかった?
気に入った様子だった?

いや、そんなんじゃない――ただ…
彼は他の男と違った。

男は女に対する時自然に相手を値踏みする。

女の魅力ゼロの私に対しても値踏みはなされ――そして案の定一瞬で『魅力ゼロ』『無し』、さらによくよく見て『マジ論外』『絶対ムリ』と判断する。

そして態度を変えるが――彼はそもそも値踏みをしなかった。

彼は私の容姿を気に留める様子が全く無かった…

(その辺、昔と変わってない…)

昔はそれがただただ嬉しかったはずなのに…

今も嬉しいけど同時に何だか…

何だかつまりそれは、

男に対するのと同じ態度なんだろうなと――

女としては究極に相手にされてないって事なんだなと。

心のどこかが冷える。

嬉しいのに?

そんな複雑さが自分の中にある事に驚いて。

――それだけだ。

今後彼に関わる事は無い――

「‥ッ!?」

(…何だ?
こんな…痛み…
…ここまでの痛みは初めてだ…何だコレは…)

「…れでは少しお時間を頂きます。そちらの窓から見える温室に咲く花々などご鑑賞になってお待ちくださいませ」

そう言い置いて給仕が下がる。

不意に現実に引き戻されるロサ。

個室の奥の大きなガラス窓の先は温室になっており、見事に花が咲き誇っている。

それを斜に見ながらロサは胸の内で溜息を吐く。

全く…
人間も動物も虫も植物も――
この世のあらゆるものは皆生殖し繁殖する為に在る。
皆がそう在るのだから
それが正しいのだ――

たった一人だけ
正しさから外れた存在である自分は
あまりにも無意味で

ロサは知らずに目を伏せる。

そしてフと気付く。

――そうか…
私は彼と対していた時
この孤独を忘れていた
…何故?

これを突き詰めるのは危険だとロサの本能が報せている。

それを追及してはいけない事は子供の頃から刷り込んで来た…

それなのにロサの心は答えを求めて勝手に彷徨う。

心が心を制御できない事態に困惑するロサに『実は…』とメイズが唐突に話し始めて。

「‥嘘だ!
嘘だと言ってくれ、メイズ殿!」

ロサが悲壮な声を上げることとなる…
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