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101 人の強さは

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三つの島からなっていたバンダ王国。

王家や民が暮らす華やかで美しい一の島、二の島と違い寂れた感のあった三の島。

ナイトはそこに隠されひっそり育った。

ある日、『王の使い』が来て『王が内密に会いたいと仰っている』と言われ王の住まいのある一の島ではなく二の島へ案内するから付いて来るようにと言われた。

二の島と三の島は遠い。

三の島の空港で小型機に乗り込もうとするナイトとフィカスをちょうど三の島の空港に着いたばかりのユウトが止めた。


『行っちゃダメ!
嫌な感じがする!
僕の野生の勘がそう言っている!』



ちょ‥


「ちょっと待って!
思い出した!
いや、忘れてたわけじゃない!
確かにバンダ第三空港でそんな事言った!
でも僕がそれを言った相手は二人じゃなくてお姫様…
キレイでカワイイお姫様たちで‥‥はッ‥
女装!?
あれ、ナイトとフィカスの女装だったの!?」


ユウトが目をまん丸にしてナイトとフィカスに聞く。

フィカスは苦笑し、ナイトは表情を変えず淡々と答える。


「バンダ族は『他の血を入れてはいけない』と他種族との婚姻を禁じていた。
俺の母は日本人でありながらそんなバンダ族と恋に落ちた。
ただのいちバンダ人なら国を追われるだけで済んだが、恋に落ちた相手は国を立ち上げたばかりのバンダ王だった。
二人の間に生まれた俺は許されない存在――
王の側近の子供として三の島に隠された。
念の為に性別も偽って。
バンダ王家の後継ぎとしての一番の理想は『『力』を発現した男子』としてい‥」

「ここから先はお二人は聞かない方がいいでしょう。
ここへは徒歩で?
ならばお送りしますが…」


ナイトの話を遮り、フィカスが理事長と桧木に声を掛ける。

ポカ~ンと口を開けて聞いていた理事長と桧木はハッとして。


「ああいや、車で来ている」


と理事長が答え、『それでは‥』と穏やかにフィカスに促されれば車を降りないワケにはいかない。

二人を下ろした巨大なキャンピングカーは滑るように発進し、あっという間に走り去る。


「…似合ったでしょうね…」

「抜群だっただろう」


スーパーの駐車場に残された叔父と甥は、ナイトとフィカスの10年前の女装姿に思いを馳せるのだった――





「ナイト様は気が緩み過ぎではないですか?
彼等に聞かせる話ではないでしょう」

「…すまない。
あの二人の存在感が薄過ぎて居るのを忘れてしまった
―――ユウト?」


ユウトは両手で顔を覆っている。


「僕の、僕の初恋返して下さいッ!」
「「――どっち?」」

「‥へ?」


間髪入れず声を揃えたナイトとフィカスに戸惑うユウト。


「ユウトの初恋の相手は俺とフィカスのどっちだ?」

「‥あ、いや」

「大切な事です。
ハッキリさせておきましょうか」

「えーと、た、大変だったよね!
あの時、空港内が騒然として!」

((誤魔化した!))

「二人と一緒に居た人達が銃を出して撃とうとして来たから三人で逃げて倉庫みたいな所に隠れて――しばらく隠れてたよね、警察の人が来るまで」

「ナイト様と私が乗るはずだった小型機は飛び立って空港を離れたところでパイロットが脱出し、その直後爆破される予定だったと後から知りました。
そんな昔からユウトは命の恩人です」

「…あっ!
僕に『恩がある』って言ってたのってそれ?
命なら僕だって救ってもらってるよ?
父さんに…首を絞められた時に…」

「ユウトはあの時気絶していましたが、お祖父様達から聞いたのですか?」

「思い出したんだ。
あの時の事。
あの時僕は体は気絶してたけど神経は起きてたから」


深く物思いに沈んでいた様だったナイトが口を開く。


「恩――
一番は、気持ちだ。
あの時、俺もフィカスも『王の使い』が怪しいのは気付いてた。
なのに付いて行ったのは、二人とも死んでもいいと思っていたんだ。
心はもう死んだも同然だったんだろう。
だから素直に小型機に乗ろうとした。
それを天使の様な男の子――ユウトに止められ、ハッとなった。
倉庫に隠れていた時も、ユウトは一生懸命俺達を励まそうとしてくれた。
俺達は二人とも暗かった。
それが通常だったんだが、ユウトは俺達が恐がっていると感じたんだろうな…」



6才のユウトは言ったのだ。

『大丈夫だよ、
恐がらないで…
僕が傍で守るから!
今はまだ小さいけどもっと大きくなってうんと強くなって必ず君達を守るから!
大丈夫だよ、信じて?
僕に任せて』

小さな手で、ナイトとフィカスの手を握ってしっかり頷いて見せた。

キラキラ輝くアンバーの瞳にナイトとフィカスは心を揺らされた――


「あれがターニングポイントだった。
俺もフィカスも。
自分の命をどうでもいいと思うのをやめた。
小さな天使が助けてくれた命だ。
守ると言ってくれる命だ。
命があたたかい意味を持ったんだ。
だからあれ以降は殺しにかかって来る奴らと闘うようになった――
だろ?フィカス」

「――言われてみれば
そう…ですね。
あの時から私は変わりました。
ふっ――驚きました。
何も考えていない様だったナイト様が私の心情まで見抜いていたとは――」

「フィカスは失礼だ。
ユウト、カニ鍋は二人だけで‥ユウト?」

「…う、いや、恥ずい
僕、そんな事言っておいて、メチャメチャ弱いままで。
実際は守ってもらってばかり‥」

「ユウトは強いぞ」

「ナイト‥」

「人の強さは、心にどれだけ愛があるかだ。
ユウトにはたくさんあって、それで俺とフィカスは守られているんだ。
ユウトは最強だ」

「強く同意します。
心を救われ、命を何度も救われています」

「救われてるのは僕」

「ユウト、ライブ直後の『組織』の事を忘れたか?」

「そうですよ。
私とナイト様は知らずに奪われていた尊厳を取り戻せました」

「‥‥あぁ、」



『組織』と聞いてユウトの表情が変わる。



【あいつら――ね…】


アンバーの瞳が金色に煌めき、アンバーローズの髪がフワリと白銀に変わる――
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