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100 はいぃ?

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文化祭ライブから半月程が過ぎている。

大騒ぎするべき不思議な体験をした人々は、しかし大騒ぎをしない。

思い出すだけで『素晴らしい体験だった』と心が癒されるのだ。

穏やかで幸福な気持ちになるだけで、何かを追求しようとする者は誰一人いない。


ユウトも、今までなら【この声の事は忘れて】と最後に言って忘れさせるのだが、今回、複雑な心境からそれをしなかった。

『居ない存在』として生きて行くのはどうなんだろうと。

何か問題が発生すればその時記憶を消せばいい事だと、今回は放置している。






「‥えッ!?
日本を出て行く!?
そんなッ…」



○☆スーパーの駐車場で、ナイト所有のキャンピングカーの中で話し合うユウト、ナイト、フィカス、理事長、桧木。

退学を申し出ているユウト達を引き留めようとする理事長達。

そんな理事長達に、ユウトは説明する。



「僕たちの仲間がね、
あ、いや勝手に仲間って言ってるんだけど。
不当に人生を貶められている人達がいるんだ。
それを正しに行きたいんだ」

「仲間…」

「僕達は少し皆と違う
――ほんの少しね。
それによって苦しんでいる仲間に伝えたい事があるんだ」

「―――…
分かった…」

「‥叔父上ッ!?」



意外にも理事長がすんなり頷いた。

桧木は不満顔だ。



「苦しんでいる仲間を助けたいんだね。
それはきっと君達にしか出来ない事なんだろう…
『休学』ではなく『退学』を選んだのは時間が掛かると覚悟しているから。
それとけじめと。
それを聞いてしまったらこれ以上は何も言えないよ」

「分かってもらえてよかったで‥」

「でもッじゃぁッ!
せめてユウト君の歌をレコーディングしてもらえないだろうか?
私はあんな素晴らしい歌を、声を聞けたことを幸せに思っている!
だけど残念な事に、途中で感動のあまり気を失ってしまって最後まで聴けてない!
それが心残りで!
どうかあの歌をレコーディングしてほしい!
録音されていれば、また途中で気絶しても起きてから聴き直せる。
ユウト君、頼むよ」

「えーー、理事長、
既に持ってますよ?
僕が歌う『arrows』」

「へ?」

「あのライブの音源だと言っていた古いDVD。
『ネルケ』の。
あれに収録されている『arrows』は途中から…ほとんど僕が歌ったヤツです」

「エッ…いや待て!
あれは10年位前の‥」

「僕が6才の時です」

「イヤ絶対ムリ大人でもムリなのに6才なんてあり得ないムリ」

「事実ですので」

「だって…何で君がネルケの‥」

「ネルケは僕の母なので」

「「!!」」



理事長と桧木はお口あんぐり状態。



「僕は母のマントの中に隠れていました。
『ラストの曲は疲れて歌えないかもしれない。
その時はママの代わりに歌ってね』
と言われて。
(今にして思えば『卒業試験』だったんだ)
母の声は掠れていたし途中で全然出なくなったので代わりに歌ったんです」

「あッ…そうだ!
掠れていた声が途中から急にきれいになってた!
考えてみればおかしな事だ」



桧木がそう言い、理事長も



「私は10年前あのコンサートを生で聴いてて
――そう、違和感を感じた――だがそれは一瞬で消えた。
歌が、声が素晴らし過ぎて皆聴き入ってしまったんだ。
あれがたった6才の子の声だったとは…
ああ、確かにアレは素晴らしい。
だが、文化祭ライブのはもっと素晴らしかった!
だから…」

【――この声は】

「「‥ハッ!?」」

「そ、そうだ!
ユウト君、その声だ!
その素晴らしい声で歌ったあの曲が聴きたい‥」

【録音出来ないと思う
多分録音機器は壊れると思う…
この声での歌唱は生で聴いてもらうしかないんです】

「ユウト君、君のその声は何なんだい?
なんか…聴いてるだけでフワ~っと安らいでいい気持に…」

「はい、声戻しますね
さっきの声が僕の本来の声なんですけど、あの声で話すと、みんな今の理事長の様になってしまって話にならないので普段はこの声に戻しました」

「「き、聴いていたいッ!!」」

「「それは同意だ」」



理事長と桧木が切望し、ナイトとフィカスが同意する。

苦笑するユウトに、ナイトが話し掛ける。



「――そのバンダでのコンサートの時‥」

「‥え?――あぁ」

「ハッ!そうだ!
バンダだ!
バンダ王国!
どうしても10年前の旅行先の国名が思い出せなかったが、それだ!
今は亡き麗しの王国!」

理事長が興奮して身を乗り出す。

それはマルッと無視してナイトは続ける。



「俺とフィカスはその時初めてユウトに会ったんだ。
バンダの空港で」



‥‥はいぃ?
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