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71 雨の中で

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バカと言われれば否定できない。

否定できないがそう言って来る顔が恐過ぎる。

そして掴まれた腕が痛すぎる!



「ちょっとニッキ!
何すんのよ!?
大切な上客様よ!?」



店員さんが不躾な男を叱ってくれる。

ナイス!

ユウトは心の中で感謝を告げる!



「ママ、すみません、
でも、コイツは違うんです!
何も知らずに雨宿りでここに入って来ただけなんで‥」

「分かってるわよ!
だけどさ、この子最高じゃない!
聖なる泉の精霊が迷い込んで来たのかと思ったわ!」

「違うわよママ!
翼を濡らして飛べなくなった天使よォ」

「見なさい、美少年に厳しいマッキーまでメロメロよ!?
店中がこの子に夢中なの!」

「そうよォ、雨宿りで知らずに入って来るなんて運命じゃないのォ!
土曜の夜はこれから…
皆で最高の夜を過ごしましょうよォ」



実は行く当てが無いユウト。

恐くて電車に乗れないからじぃちゃんばぁちゃんの所へは行けない。

ここで過ごさしてもらえるなら助かるけど…

なんて思っていると、



「‥痛ッ!?」



更に強く腕を掴まれ店の出口に引っ張られる。


――と、



「オイッ!ニッキ!
てめぇシカトこいてんじゃねぇぞ!?
出てくならテメー1人で出てけや!
その子は置いてけ!」

「ママの言う事聞けよ
ママの顔潰しちゃ、この界隈じゃ生きていけねぇ…
分かんねーなら分からせるしかねぇけどな?」



さっきまで高音で艶のある声を出していた店員達(一人はママ?)が低く野太いダミ声で威嚇して来た!?

え、やっぱり悪い人?

じゃ…もしかして錦木君は僕を助けようとしてる?

現に今、コッチに向かって来ようとしている豹変店員から僕を庇う様に立ってる…



――無いか…

店の人から『ニッキ』と呼ばれている彼は錦木ニシキギ君。

中2の時同じクラスだった。

気付くといつもスゴイ目で睨んで来るから、『何か僕の事怒ってる?』って聞いたら『バカが伝染るから話し掛けんな!』って怒鳴られたんだった‥‥

間違いなく僕を嫌ってる。

多分アレ。

『生理的にムリ』ってヤツ。

ま・っ・た・く!

ドイツもコイツも思った事何でも口に出すのヤメテ欲しい!

言いたい事を言う為に生まれて来たんじゃないでしょーに!


状況を把握できないユウト。

思考が千々に乱れる。


と、錦木が神妙な声で豹変店員達に告げる。



「‥コイツに手を出したら‥‥『魔王』が黙ってませんよ?」


ピタッ!


錦木が『魔王』のワードを口にした途端、豹変店員の動きが止まった!?



「コイツが…彼が…
『天使』です…
『守護魔王』に守られた『絶対天使』なんです…!」



中2病的発言がバンバン飛び出してるけど、とても笑える雰囲気ではない。

錦木は真面目な顔だし、豹変店員も客達も青褪めている。


『魔王』?

学校でそう呼ばれてる人、一人知ってるけど――


ユウトは無表情でそう思い、遠い目をする。



「お分かり頂けたようですね…
では、俺は彼を送って来ます。
…行こう」

「どこへ?」

(小声)「とにかく安全な所まで」

「――!!」
≪コクッ≫



ガチャッ

ザーーーーーーッ…



やっぱりまだ雨が酷い。


バッ
ぱさっ‥


「‥えッ?」


錦木が着ていたジャケットを脱いでユウトの頭上を覆うようにする。

ユウトを少しでも雨から守る様に。


「‥えッ!いいよ!
僕どうせもう濡れてるし、錦木君だって‥」

「でも少しでも。
とにかく早く店離れよう。
『魔王に殺されてもいいから君に手を出したい』って思い詰める奴が引き止めて来る前に――とにかく、この細い路地の先は『外界』って事になってるから、この路地を出てしまえば大丈夫――さ、行こう!」


≪タッ!≫


錦木がユウトをジャケットで守る様にして二人一緒に駆け出す。


≪バッ!≫


一気に走って太い通りに出た!



「…やっぱり!
フゥ、間一髪だった」

「‥え?――ハッ!」



細い路地を振り返ると、豹変店員と客達、総勢20人以上が追って来ている。

雨の中、必死の形相で肩で息をする姿は――

ゾゾゾンビ!

だが、錦木が言った様に、ユウト達がいる太い通りには近付いて来ない。

ギラギラした目で悔しそうにユウトを見ている。



「こ…怖…何で…」

「何でって…とにかく行こう!
そこ左入ると普通のカフェあるから」

「普通の…いやもう。
これ以上迷惑掛けられないし‥」

「俺に話がある」

「話?」

「‥‥説教だ!」



何故か優しかった錦木の顔が鬼顔に!

ユウトは目眩を感じ…

感じ――感―――

‥はッ!?








「‥か!?オイッ!
八桐!大丈夫‥あ、」

「――あぁ。
錦木、くん」

「よ、良かった。
どうしたかと――」

「僕、どうかした?」

「い、いや、俺がおかしかったんだと思う。
一瞬、八桐が光った――発光したように光って――俺、意識が飛んだみたいで――で、あれって思ったら八桐が目開けたまま気絶してるみたいな状態で――で、呼びかけて、今。
あれ?…八桐はどう?
何か変じゃなかった?
ひ…光った?」

「錦木くん…」

「い、いや!ゴメン!
俺さっき、スゲー緊張したから、フッと気が抜けたんだわ、多分。
で、八桐はいつもキラキラしてるからそれで‥」
「錦木くん」

「‥え?」

「ありがとう。
あの店から連れ出してくれて。
あの店内は何か淀んでいたから
静かな空間に連れ出してくれて凄く助かった。


「あ、うん、いや…
静か?
雨音スゲーけど?」



ユウトは不思議そうな錦木を促し、説教を受ける為に少し歩いて左の道に入り、『普通のカフェ』に入りやっと少し落ち着く。



「え?なに?
あ、はい、タオル。
…今何か言ってた?」



店の人にタオルを借りに行った錦木が席に着きながら尋ねる。

ユウトが何か――

俯き、少し幸せそうに笑いながら何か呟いていたのが気になった。

幸せそうなのが――


『何でもないよ』と苦笑するユウト。

何でもない感じじゃなかったけどなと思いながら錦木はメニューを広げる。

メニューに目を走らせながらも、ついさっきのユウトの独り言が気になっている。

錦木にはこう聞こえたのだ。



『まったく‥‥
完璧なのに、たまにドジっ子だよね…
フィカスさんも…』



―――と。
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