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62 仕掛けて来たか

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「超薄肉を渡された」

「ん、しゃぶしゃぶ用だね!」



10月某日(日曜日)

ナイトは○☆スーパーでお会計の際、色付きのレシートが出て来たのでインフォメーションコーナーに持って行き、『いつも有難うございます!大当たりでございます!おめでとうございます!またお越しくださいませ!あの、ファンですッ』と言われながら国産高級和牛しゃぶしゃぶ用を渡された!



「○☆スーパーすごい、6回に1回ぐらいの高頻度で色付きレシートが出て来て何かくれる――コレ神戸…こんないいお肉くれるなんてホント太っ腹だね!
てことで予定変更、今夜はしゃぶしゃぶにしよう!」

「「えッ」」



『今夜はカツカレーにしよう!』という事で、その買い物をした後だ。

なのでもう口が『カツカレー』になっていたイケメンズ。

思わず残念そうな声を出すが――



「何だこの『しゃぶしゃぶ』という料理は!?
こんなにシンプルなのに凄く美味い!
塩コショウして焼くより全然美味い!」

「何て事でしょう…
永遠に食べられます」



と、感動しながら大満足の夕食を堪能したのであった。


(ここも、フィカスさんの所も、テレビ無いんだよね…
二人ともテレビ見ないから、ごはんの事何も知らないんだよね。
CMとか見るだけでも随分知識が増えるだろうに)


なんて考えながらお茶を淹れるユウト。

今日の食後のデザートは芋羊羹♪

なので日本茶をユウトが淹れている。



「…ん?何?」



二人の視線を感じて、ユウトは顔を上げる。

やはり、イケメンズがお茶を淹れるユウトをジィッと見ている。



「所作が美しい。
――と思って見てた」

「まるで何かの儀式の様で、目が離せません」

「えぇ!?
イヤ普通だと思うけど
いつもと同じ様に淹れてるだけだよ?
何か違うのかな?」

「いつも美しいと思って見てる」
「はい、いつも見惚れてます」

「‥…ッ!
い、いつも‥気付かなかった…
あぅ、ありがとう?」



思いがけず褒められて
頬を染めるユウト。

そんなユウトから目が離せないイケメンズ。


ゆるフワ‥‥

なのにどこか甘酸っぱい時間が流れる。


何となく頬を染めた三人が老舗和菓子店の絶品芋羊羹を堪能し、美味しい緑茶のお代わりを飲み干した時――


♪~♪♪~♪♪~…



「――あ、電話…
ちょっとゴメン。
ん?小出毬ちゃんだ」

「「‥ッ!!」」



殺気立つイケメンズ!

小出毬あのクソ女から電話!?

何か企んでいるに違いない!

態度は改まったが性格の悪さはそのままだ。

ユウトを見る目が憎しみに満ちているのを隠せていない。

遂に仕掛けて来たか…



「はい?ウン…
ああ、別にいいよ。
レッスン場ね、
大丈夫。近いし。
じゃ、すぐ持ってく。
うん、じゃね~」



通話を終え説明しようとするユウトより先にナイトが口を開く。



「ユウト、声が漏れ聞こえて来たから用件は把握した!
夜の9時に貸したブルーレイが必要だから持って来いなんて罠に決まって…あ、いや、危険だから俺が行‥」
「ナイト様では殺意を抑えるのが困難…あ、いえ、子供は寝る時間ですので大人の私が届けましょう」

「え?いやいいよ。
すぐ近くだし‥」
「ユウト君、距離の問題じゃなくて時間の問題なんです(ニッコリ)」

(あぅ…美笑顔の圧が凄過ぎる)
「で、でも、僕が持って行くと思ってるだろうから、彼女驚くんじゃ‥」

「夜9時に気楽に他人に頼みごとをして来る極太神経です。
自分と桧木以外はパシリだと誤解しているのでしょう。
誰が持ってこようが物が届けばいいんですよ。
気にする事はありません」

「でも‥」

「私には任せられない?
信用無いのかな‥」

「そんな事無いよッ!
‥う、そんな言い方ズルいから‥」

「ユウト」

「‥ッ!?」



不意にフィカスがユウトを呼び捨てにする。

だが、ユウトが驚いて固まってしまったのはそのせいだけではない。

フィカスがユウトの頭に手をやり、優しく撫でた後その手を頬まで滑らせたからだ。

フィカスの大きく美しい手が頬に触れ、さらに深い碧に見つめられ、ユウトの頭は真っ白になる。



「君が心配なんだよ。
私はあの女を信用していない。
平気で他人を傷つける人間だからね。
そんな女がわざわざ夜に君を呼び出すからには目的があるんだろう。
だから君を行かせない
――絶対にね」


いつもと違う口調‥‥
静かだけど強い声‥‥

目を見開くユウトにフィカスはハッと気付き、いつも通りの口調に戻り続ける。


「――コホン、私やナイト様に分かる様に連絡して来たところを見ると、標的はナイト様という事も考えられます。
だから私が行くのです
――いいですね?」



優しい声だが完全なる命令だ。

ユウトは頷くしかない。



「分かった――けど。
気を付けて。
もし本当に何か危険があるならフィカスさんだって危ないでしょ?」



ユウトが自分の頬を包むフィカスの手に手をやり、軽く触れる。

不安気なアンバーの瞳が柔らかく碧を包む。



「‥‥ッ‥」



思わずユウトを抱きしめてしまいそうになるフィカス。

だが、そうしてしまう一瞬前にナイトの声が響く。



「フィカスは大丈夫だ
―――頼んだぞ」

「―――――え。
‥‥ああ、はい。
ユウト君、大丈夫です
――私は強いので」



そう言って笑うと、熱を持った滑らかな頬から何とか手を離して。






欲しい―――


――気持ちを抑えるのがこんなに困難だとはね‥‥






自身を『淡白だ』と思っていた過去を自嘲しながら玄関へ向かうフィカス。

バタバタとユウトが追いかけて来てブルーレイを渡す。



「―――ああ。
そうですね、コレを届けるのでしたね。
失念してました‥‥」

「ごめんね、面倒事に巻き込んじゃって‥‥
あの、フィカスさんが強い事はすごくよく分かってるんだけど、
‥‥‥あのね、
何故か僕は彼女に憎まれてるんだ。
だからもし本当に罠なら、本当に危険だから、本当に気を付けて。
―――ね?」

「ユウト‥‥君‥‥」



ユウトが小出毬に憎まれている事に気付いていた事にフィカス、そしてナイトも驚いている。

そんな素振りは一切見えなかったから。

傍から見れば小出毬がユウトに悪感情を持っているのは明らかだが、ユウトの小出毬に対する態度はいつも優しかったので、何も気付いていないのだと思っていた。


(そう…ですか――気付いて――その上で普通にレッスンを受けて――ずっと優しい態度で――それはどれだけ辛い日々だったのでしょう――
そう、ですか――)


立ち尽くすフィカスにナイトが声を掛ける。



「フィカス――
――



フィカスは深紫の瞳にキラリと走る赤い稲妻に頷く。



「――お任せを」
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