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58 魅惑のダンス講師2

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小出 毬。

身長155センチの美少女。

最近ユウトを振ったばかり。


いつもは下ろしているセミロングの髪を今日はポニーテールにしていて、おくれ毛がすごく可愛い(by ユウト)



その小出毬が、キラキラした笑顔で手を振りながら、駆け寄って来る。

ユウトが何度も夢見た光景だ。

ユウトの目にはその姿はスローモーションで見えている。


何て可愛いんだろう!

輝きの中、さらにキラキラした汗を飛ばしながら、笑顔で駆けて来る君――

ん?

で、でも、君は僕を見てないね?

誰を見てるの?


小出毬の視線の先を追ったユウト。



「‥ッ!?」



ユウトは鬼の様な目で小出毬を睨みつける桧木にギョッとする。

小出毬もその表情に気付いたのか、抱きつく勢いだった足を止める。



「…あ、お兄ちゃん、
ひ、久しぶり…
急に連絡くれてビックリした――嬉しかった…」



『お兄ちゃん』!?



「ああ、毬も元気そうで良かった。
父さんも毬の事気に掛けているよ…」


話しながら視線でユウトを示す桧木。

小出毬は軽く頷いて…



「パパが…嬉しいな。
…あッ、八桐君、久しぶり…かな?
元気そうだね?」



今ユウトに気付いた感じで、小首を傾げてニッコリ笑う小出毬。

ユウトが最後に見た小出毬は高校の制服姿だった。

それも可愛かったけど、今、目の前にいる彼女は。

タンクトップにショーパンという、目のやり場に困る肌露出度で。



「う、うん。
小、小出さんも」



そう言うのが精一杯。

ユウトは現実とは思えない状況に頭がついて行けず胃が痛くなってくる。

とにかく、気まずい!

僕、この美少女にこっぴどく振られたばかりですから!



「あれっ?
二人は知り合い!?
うわ~、奇遇だなぁ!
『世間は狭い』ってヤツだなぁッ!」



と、大仰に驚いて見せる桧木。

ずっと影のようについて来ていたナイトとフィカスが
『わざとらしい嘘だ』
『見え見えですね』
と眉をひそめる。

二人揃ってすこぶる機嫌が悪い。


小出毬と言えば、ユウトを振った女。

しかも普通にフッたのではない。

『暴言』レベルのキツい言葉――言葉の暴力でフッたのだ。

わざとユウトが傷つく言葉を浴びせた小出毬が立ち去った後、ユウトは1時間以上その場に立ち尽くしていたのだ。


ユウトからは見えない場所で一部始終を目撃していたナイトは、声を掛ける事も出来なかった。

ユウトと同じ様に立ち尽くし、ユウトが動き出すまでその姿を見守るしか出来なかった。

今思い返しても胸が痛む。

何故ユウトはそんな女子に赤い顔をして見惚れる様にしているのか!?

理解に苦しむ!


もっと理解不能なのは小出毬の神経だ。

自分に好意を持ち、勇気を出して告白して来た男子に対して言葉の刃を何度も突き刺しフッた女――普通に断ればいいものを何故か意図して力の限り傷つけた。

ほんの一ヶ月ほど前の事だ。

それをまるっと忘れたかのようにシレっと普通に話し掛けるとは。

小出毬、許し難し!!



「コホン、毬は僕の妹でね!
両親が離婚したから離れ離れになったけどね!
アイドルのダンスに詳しいから、ユウト君の講師を頼んだんだよ!」



ユウトが小出毬にフラれた事は知っていても、悲惨なフラれ方をした事までは知らない桧木は、ユウト憧れの小出毬を用意した事に得意気ですらある。



「毬ね、聞いたよ?
文化祭ライブの話!
すごい素敵じゃん!
毬、ダンス得意だから手伝ってあげる!」



ユウトは身長165センチ。

多くの女子は大体少し低いぐらい。

でも、155センチの小出毬は上目遣いで。

つい最近、罵声を浴びせられた痛みを忘れたワケではない。

が。

体の2/3以上の肌を露出した美少女の上目遣いの破壊力に眩んだユウトは。



「よッ、よろしくお願いしますッ!」



体を二つに折って頭を下げ、全力でお願いしたのである。



ニヤリ。



視線だけ合わせて口角を上げる桧木と小出毬。



それぞれ別の企みあっての笑顔は――


――醜悪でしかない。
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