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49 陥落

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微笑み返したユウトに何故か一瞬驚いて頬を染め、三角形の目で見て来る主に問い掛けるフィカス。



「それで、話はどうなっていますか?」

「―――――」

「ナイト様?」

「…フィカスは一々ユウトに絡むな!
話は――ユウトはアイドルを断れない。
クラスはたった一人の特別クラスになる。
教師は理事長が務める気でいたが、俺が務める事に変更する」

「‥ハッ!
待ちたまえ!
生徒が教師など認められるわけないだろうッ!」



ポカ~ンキョト~ンと見ていた理事長は突如我に返った様に大声を上げる。

余裕のない、必死な声なのにどこか弾んでいるのが先程までと明らかに違う。

違うと言えば、頬もほんのり赤い。



「この通りだ。
フィカス、
理事長を認めさせろ」

「私がですか」

「可愛がってやれ」


『ハッ』と息を呑む音が聞こえ、理事長が言葉にならない声を上げる。


「なッ!?きッ、そッ
可愛いがッ!?なッ」



その顔は真っ赤っ赤で

ふるふると震えている


(お、叔父上!?
一体どうしたのです?
こんな叔父上は初めて
――叔父上が乱心!?
あの金髪イケメンに?
――あぁ叔父上!
そんな叔父上見たくありません!
まるで恋する乙女ではないですか!?」


「なッ何を言うんだ、
叔父に向かって乙女とは何事だ!?」



桧木のモノローグは途中から声が漏れてしまっていた。

何かを誤魔化す様に甥を叱りつける理事長。

自分の中に起こった初めての事態にパニックになっている。

甥を叱りつけながらもフィカスの視線を気にしている事に、自分自身気付いていない。


もう目に映す必要も無いと言わんばかりに、ナイトは理事長を見もせず告げる。



「彼はフィカス」

「えッ…あ、ああ」

「俺の執事」

「執事‥‥」

「俺の手続き等事務処理をする。
俺は子供だからな。
だから後は執事と話してくれ。
俺とユウトは退室する。
この部屋は空気が悪い。
俺達は入学式に来てないから、まだ学校内が不案内だ。
一回りするから案内できる者を用意しろ」

「ああ、それなら。
桧木、彼等に学校内の説明を」



ナイトの命令口調に慣れてしまったのか、フィカスが気になり過ぎているのか、理事長は普通に答える。

ナイトは桧木が動き出す前に断わる。


「桧木は要らない。
使えるヤツがいい」

「はぁぁぁぁ!?
僕は生徒会長だぞ!
生徒の中では一番使えるヤツだ!」

「笑わせるな。
お前の様な情緒不安定が何を案内できる」

「校内の案内なら私が
――事前調査済みですので」



静かに申し出たフィカスにナイトは胡乱な目を向ける。



「フィカスにはフィカスの仕事があるだろう」



主の言葉を受けてフィカスは理事長に視線を向ける。

理事長はフィカスを見ていたので当然目が合う。



「――ッ!」

「理事長、ナイト様の要求を聞き入れてもらうよ。
それと私を留学生として受け入れる事。
手続き等時間が掛かるだろうから、今は理事長認定の特別留学生としてでいい。
ユウト様、ナイト様と同じ特別クラスに私も入れてもらおう。
分かったね?」

「そッ、そんな事、
急に言われてもッ‥」



動揺する理事長。

フィカスはスッと立ち上がり、一人掛けソファに座る理事長の前まで行くと。

長身を折って左手をフィカスから見て左側のひじ掛けに置いたので、理事長は閉じ込められた状態――身動き出来ない状態ですぐ側まで迫ったフィカスの瞳に釘付けになる。

あまりにも美しい、碧い瞳――

真っ赤な顔で僅かに震えながら圧倒的な碧に時が止まる理事長。

フィカスの右手は――



「‥ァッ!?」



理事長の顎を掴む。

無造作に。

乱暴に。


乙女の様な小さな悲鳴を上げた理事長。

今まで誰にも、乱暴に扱われた事など無いのに――!

フィカスは薄く笑いながら、



「カワイイ顔してるんだからさ、可愛くしなよ。
私に構ってもらいたいならね」



それだけ言うと、掴んだ時同様に乱暴に顎から手を離して。

風の様にドアの前に移動し優雅に開けて。



「それではナイト様、ユウト様、参りましょう。
校内をご案内致します」



胡乱な目つきのままのナイトと完全な無表情で心が一切読めないユウトを促し、三人で退室する。


残されたのは、顔色を失い、目の端に叔父を映しては顔を背ける甥、桧木と。

赤面し呆けた顔でソファに沈み込む様に脱力した叔父。


叔父は荒い呼吸で斜め上方――

さっきまで美しく冷酷な碧が在った場所を見続けている。


桧木は理解した。


叔父は犯されたのだ。


心の何かを。



犯され

敗北し

制圧され


その上で――



何という事だ!?



恍惚の表情をしている
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