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09 校門迄の道のりが長すぎる

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「うわ~~~!
カッワイイ!」
「実物ヤバい!
画像より美しい!」
「至福の私服カワイイ
持ち帰りたいッッ」
「可愛過ぎるッ
アニメの世界の人?」
「AIが作った最高に可愛い生き物?」


「ひぃぃぃぃッ!?」



八桐ユウトは理事長室を後にし、事務棟を出て校門に向かっていたところ、部活中だった生徒達に取り囲まれてしまった上、口々に訳の分からない事を言われ続けて茫然としていた。


ユウトは『我ながら働きが鈍い』と思う頭で考える。

そうか、まだ春休みではない3月初旬の平日だから卒業しない1、2年生達は当然普通の学校生活を送っており、今の時間は授業が終わり部活動の時間なんだな。

僕が来た時シンとしていたのはまだ授業中だったからか…合格が何かの手違いではないかと気が気でなかったから気付かなかった。

――というか、この人達絶対おかしい!


言ってる事も変だけど、様子がおかし過ぎるとユウトは感じているのだ。

顔を真っ赤にして目はウルウルギラギラと異常で、体から大量の熱を発しているせいでグルリと囲まれたユウトは蒸し焼きにされるのではないかと不安になる。


――あ、何かこの感じテレビで見た事ある。

大量のミツバチが一匹のスズメバチの周りに密集して閉じ込め、体を震わせ温度を上げる事によって死に至らしめる、捨て身の攻撃!――それに酷似している。

でもアレは大きくて強いスズメバチをやっつける為のミツバチ達の命を賭した攻撃で、いかにも小さく弱そうな中坊に対してガタイのいい高校生運動部員がやる事ではない。

とにかくどうにかして逃げなければ!


ユウトが思案を巡らしていると荒々しい怒鳴り声が聞こえて来る。



「オイ何やってる!?
彼はまだ入学前だぞ!
一般中学生を脅すな!
ホラ散れ!散れ!」



怒鳴るだけじゃなく運動部員を手荒に押しのけながら現れたのは――



「え!?桧木先輩?」



理事長室でのどこか腹黒さを滲ませながらも優しく穏やかな物腰、話し方からは信じられない勢いで現れた生徒会長。

ガタイのいい運動部員を突き飛ばしながら目の前まで来ると、スッとユウトの手を取り次いで頬を撫でて、苦し気に表情を歪める。



「ッ、ごめんね?
恐かったね?
こんなに青褪めて可哀想に‥‥」

(いや、むしろ今!
今の方が数倍恐いんですけど!?)



二重人格を疑われる男のしかも穏やかじゃない方の人格に頬を包まれる様にされて至近距離で見つめられる方が全然恐いユウトは桧木の手首を掴んで自分の頬から離すと、相手を怒らせない様に注意深くお礼を述べる。



「あ、ありがとうございます、大丈夫ですので、どうも。
で、では帰らせて頂き‥‥」
「待ってくれ!
だって君は俺達のアイドルだろ!?
俺達のアイドル、『ゆーとりん』だろッ!?」



運動部生徒の一人が必死の形相で大声を上げる。

自分達より小柄な生徒会長を恐れている様に見える。

てか、『ゆーとりん』て何!?


「そ、そうだそうだ!
驚かせたのは謝る!
だけど俺達は君を歓迎すると伝えたいだけだったんだ!」

「ああ!
最高に可愛いい究極のアイドルを迎えられて嬉しいって気持ちを伝え‥
≪ドゥッ!≫
グハァッ!?」

≪ズザーーーッ!≫

「え!?ちょ‥」


信じられない事に、桧木が運動部生徒の腹にいきなり蹴りを入れた!

3~4メートルほど蹴り飛ばされた生徒は腹を押え、立ち上がる事が出来ない。

口々に声を上げていた他の運動部生徒達がシィーーンとなり俯く。



「いい加減にしろと言ってい‥」
「大丈夫ですか!?」



運動部生徒達にすごむ桧木の背後でユウトが蹴り飛ばされた生徒に駆け寄る。



「なッ‥ユウト君?」

「ゆ、ゆーとりん…!
俺の心配を!?
優しい…可愛い…」

「ゆーとりん…天使…
天使だ!」

俺達のアイドル!
心優しい慈愛の天使!

まさしく、究極のアイドルッ!

ゆーとりん!
オォォォォォ‥‥

ゆーとりん!
オォォォォォ‥‥


地鳴りの様なゆーとりんコールが湧き起こり、ユウトは蒼白で表情を失う。


こ、これが体育会系のノリ!?


ひたすらに恐いんですけどッ!
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