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第五章

10 束の間のアル

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「我が名はアルクトゥルス・アクルックス。
我が名において、―――」


「―――『終わりの扉』を開けよ!」




アルは剣を構え、刃に向かって短く詠唱しました。


――――が?


カッ!!



アルが詠唱を終えると同時に、光が―――


アルの背後でとてつもなく大きな光が発生したのです!


背後からの巨大な、眩い光に圧倒されながらアルが‥‥

いいえ、虹の王子が振り返ると、がいて、



「‥‥騎士?」
【王子‥‥!】



永遠の恋人達は強く抱き締め合い、光にとけていきました。















気付くとアルは舟の上にいます。

王弟のボートです。

一体、何が起こったのか‥‥?


詠唱が終わると同時に光に包まれて‥‥‥

巨大な光は海上に作り出された異空間を消し去り、よこしまな魔物を一瞬で消滅させました。

魔力封じの術の解除も無効化されたようで、アルの魔力は封じられたままです。



船の端の方にはリゲルとレグルスが倒れています。

ただ気絶しているだけの様で、穏やかな表情で眠っています。

魔力も完全に回復している様で、安心です。


波は何事も無かったように穏やかに舟を揺らしています。



アルの目の前にはすっかり回復したデネブとシリウスがいます。

アルは二人の美しい眼差しに包まれ、何が起こったか理解します。



「‥‥呪いが解けたんだね。
どうやって解いたの?」

【「解いたのは君だ。
君が予想した通り解呪の方法は一つだけ‥‥
君の成長を持って自然に解けるはずだった。
だが、俺の意思とは無関係に俺を支配する鍵がある。
その鍵によって、呪いは『解けた』のではなく、『無効化』されたのだ】】

「‥‥鍵?
そんなものが存在したんだね‥‥?
あいにく私はその鍵を持っていない。
だから呪いを解いたのは私ではない。
いつ、どうやってそれが使われたんだろう?」



アルの質問にデネブとシリウスは僅かに顔を見合わせフワリと微笑みます。

鏡の様な二人の動きと自然な様子‥‥

アルも柔らかに口元をほころばせました。



「二人と二人の前世様‥‥”彼 ”が完全に融合した様だね?」

【【ああ。 デネブの記憶とシリウスの記憶、そして前世の記憶を共有した。
身体は二つだが、意識は統合されている」】



穏やかにそう話す二人にアルは笑顔を向けます。



「良かった‥‥
それなら今後『どちらかを選べ』なんて難問を私に投げて来る事は無いね?」

「【‥ハッ‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥それは、時と場合によって、その‥‥‥‥
ッ大丈夫、アルを困らせるつもりは無い!
ちゃんと自分達で順番を決める‥‥」】



アルは『何の順番?』なんて分かりきった質問をしたりしません。

嫣然と微笑み目の前の男達をドキドキさせた後、



「それで、鍵はどこに?」



と話を戻します。

何だか艶っぽい気持ちにさせられてしまった二人ですが、素直に話を戻します。



【「 ” ”‥‥君にそう呼ばれると、俺は最強になり、奇跡が起こる。
前世でもそれに救われた。
砕け散った魂を復活させてくれた。
そしてまた今世でも自分でかけた呪いから解放してくれた。
呪いが解けた事で前世の記憶と魔力を今世と融合させる事が出来た。
そして何とかギリギリ間に合った。
今世では何とか君の魔力が解き放たれるのを止められた。
全く‥‥今世でも君は俺に冷汗をかかせてくれる‥‥
あの邪な魔物は―――
前世の魔力を融合した衝撃だけで闘うまでも無く消えた様だな】】

「壁騎士‥‥あぁ、つい、最初の‥‥小さい頃の呼び名であなたを呼んだ‥‥
それが鍵だったのか‥‥」



アルの前世―――虹の王子が初めて彼に会ったのはまだ小さな頃でした―――


彼は愛を拒まれ怒った魔王によって岩壁に閉じ込められていました。

古い書物の中に ”魔王によって騎士が岩壁の中に閉じ込められた ”とあったので、虹の王子は彼を ”壁騎士 ”と呼んだのです。


温度の無い岩壁の中で長い時を過ごし、凍え、乾き、岩と同化しようとしていた魔物は、彼を ”壁騎士 ”と呼ぶ小さな王子から温度を与え続けられ、愛を知り、美しく成長した王子は愛する騎士の為に当然のように魔王を倒そうと命を投げ出し‥‥



【【全く君って人は‥‥
今世でも前世まえと同じ様に瞬の迷いも無く」】

【「俺の為にその尊いいのちまで投げ出してしまうんだな‥‥】】

【【その魂の輝き――温度が」】

【「俺の魂を温め】】

「【癒し」】

【「満たす】」

「【今世でもその魂にひれ伏し」】

【「愛を捧げ愛を乞おう】」

「【永遠に」】

【【我が王子――虹の王子――唯一の存在たましい」」

「「呪いは解けた】」

「【さあ、今世を」」

「「永遠の続きを】」


「「俺と共に生きてくれ」」


「‥‥やっとだね‥‥‥」


「待たせて申し訳ない」

「今世でも、永遠の愛を君に誓う。
俺は永遠に君のものだ」


「「アル、俺の王子。
さあ、永遠を続けよう」」


「‥‥フフ、今世では王子はあなた達では?」


「「俺達は廃王子。
俺達にとって王子は君だけだ。
君にとっての騎士は俺達だけであってほしい‥‥」」

熱い瞳で見つめられ、跪いて手を差し出されては、もう断れません。

アルがデネブとシリウスの、同じ様に差し出されたそれぞれの手を取ると‥‥



フヮーーーー‥‥!



三人を包む虹色の光がさらに輝きを増し、

まるで夢の様な幻想的な煌めきを放って照らします。


王国を囲む夜の海を

空にかかる星の海を


彼等の永遠の愛を照らし続ける祝福のように‥‥‥



立ち上がり、アルに寄り添うデネブとシリウス。

決して離れないという意志そのままに。



「アル、愛している」



そう言ってシリウスがアルの唇を求めます。



「‥‥フフ、知って‥」
グイッ!

「‥ンンッ‥‥?」



シリウスの唇がアルの唇に触れる直前、デネブがアルを『グイッ!』と引き寄せ、強引に唇を奪います。

‥‥キス泥棒?



「‥‥オイッ!」



シリウスが殺す勢いでデネブを睨みつけます。



「俺‥‥私の番だ。
君はさっきアルに不意打ちでキスしただろう」

「さっきのは前世‥‥」

「キチンとカウントしよう。
冷静に、公平に、客観的に、例外無しに、だ。
互いに殺し合いにならぬ様に‥‥な」



ブワチブワチブワチィッ!

アルの頭上で世界の人口の半分は殺せそうな睨み合いが発生しています。


‥‥ッ、
これは‥‥先が思いやられるッ‥‥

思わず目を伏せ王弟や魔物と対峙した時より深刻なマジ汗をかくアルですが‥‥



ん?



ふと目を上げるとアル達の乗るボートが10隻ほどのボートに囲まれています。

それらのボートには先王陛下、国王陛下を始め、高位貴族達が乗れるだけ乗っており、アルに向かってひれ伏しています。



何? 何故‥‥



彼等は異様に発光する海上を巨大船から目撃しました。

とてつもない光を放った後、静かになった海。

ボートの上に立つ虹色の輝きを放つ美しい人と騎士達。


先・現王を始め、高位貴族達は強い魔力を持っています。

強い魔力を持つ者は前世を思い出し易く、その影響を受け易いのです。

彼等はアルの前世と同じ時代に生きた記憶をハッキリと思い出しました。



『何という尊い、虹の王子様ッ!』

『魔王を倒し、世界を救って下さった救世主!』

『そして今宵、人間を脅かす恐ろしい魔物を完全に滅ぼして下さった!』



涙を流しながらひれ伏す人々に、アルは困ったねと苦笑します。

私にひれ伏す必要など無いよ、と‥‥


さらに目線を上げれば翼竜達が悠々と気持ちよさそうに夜空を飛び交っています。



≪キューンッ!≫

≪キュキューーーンッ!!≫



早くアルに褒めて欲しくて、遊んで欲しくて、甘えた声を出すベガとアルタイル。

黒と赤の双子のリーダーと一緒に飛び交う他の翼竜たちも御機嫌です!

リーダーが現れ(覚醒し)、リーダーと共に大切な主を守れた事で、誇らしい気持ちでいっぱいで、嬉しくて仕方ないのです!



‥‥おや?

第二王子もキラキラしながら翼竜の背に乗って飛んでいますね?


今まで一度も見た事が無いほど幸せそうな姿に、ボートの上から第二王子の側近がそっと嬉し涙を拭います。




ううん、え~と、

―――アルは心の中で訴えます。



今夜魔物達を滅ぼしたのは私ではなく翼竜たちだからね?

前世も今世も私はただ愛する人の為に動いただけで、世界を救うとか、そーゆーのは一切無いからね!?


いい加減、キラキラしながらひれ伏すのをやめて欲しい‥‥



私は、アル。

ただのアル。


愛する彼(等)と共に永遠の愛を生きる魂の、束の間の存在――



束の間のアルなのだから‥‥
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