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第四章
17 返さない
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未経験の心の騒めきに戸惑いながらも、国王陛下は何とか気持ちを持ち直す。
いたずらにソワソワキュンキュンして時間を費やしてしまえば、自分達まで
『遊んでる暇は無いよ?』
とアル殿に叱られてしまうかもしれない‥‥
そんなどこか甘やかな危機感から、国王陛下は至極真面目な面持ちで口を開く。
「ゴホッ‥‥実は違和感はありました。
父上、フォマルハウトも‥‥つまり‥‥」
「うむ、王家の血を継いでいないということだ‥‥
フォマルハウトの母親は北宮の王妃の実家の侯爵家と関りが深い‥‥
以前より侯爵家は禁術とされる古代魔術を収集しているという噂があった。
‥‥ッ、私は一体いつから術を掛けられていたのかッ‥‥
術を解かれた今なら、確信をもって言える。
フォマルハウトは私の子ではない!
フォマルハウトの母親に忠誠を誓い、常に側に侍っていた騎士‥‥
フッ‥‥今思えばソックリだったあの騎士の子だったのだ‥‥」
『私だって深刻な問題に直面し辛いながらも全力で取り組んでいるぞッ』
――的な空気を醸しながら先王陛下が苦悩の表情を浮かべ、続ける。
「そして現・王太子はフォマルハウトの子‥‥王家の血を継いでいない‥‥」
「父上、王太子を変えねばなりませんね!
(元々そのつもりであったが。
うん、コレに関しては案外思い通りの展開かもしれん)
‥‥ここへ王太子を呼べ!」
「王太子は今、カペラ嬢とお楽しみ中だよ」
側近が返事をする前にアルが告げる。
「「なッ!? こんな時にッ!?」」
先・現王はけしからんと眉間にシワを寄せる。
「私達が会場に入ったのと同時に消えたからね。
まだ母親の醜聞を知らないはずだよ。
‥‥可哀想にね。
彼も王弟も出生に関しては被害者だ」
そう言ってアルが先・現王を交互に見る。
((おぉ‥‥あの瞳は一体どうなっているのだ?
不思議な瞳だ‥‥フワフワと色を変える‥‥
あぁ‥‥吸い込まれてしまう‥‥))
アルの視線を受けて先・現王は全てを忘れてアルの瞳に囚われてしまう。
「?」ジッ
ボーーーッと見つめて来るだけの先・現王に、アルの瞳に疑問の色が浮かぶ。
「‥‥ハッ! あ、ああ!
もちろん、それは分かっている!」
「‥‥そッ、そうとも!
だが‥‥王太子は‥‥次期王となる者は王家の血を継いでいなければならない!」
ドギマギとしてしまった先・現王‥‥
現王は小さく息を吐いた後、不思議な少年の少し後ろの左右に立つ息子達を見る。
「ゴホン‥‥幸い、しっかりと我々の‥‥王家の血を継いだ優秀な‥‥」
「この二人は私のものだ」
!!!
時が止まったのかと錯覚するような時間がしばらく流れる。
国王の話を遮り凛と響いたアルの声。
静かで、揺るぎない意志を伝える声。
ようやっと、先・現王の焦点がアルに合う。
それを待っていたかのようにアルが口を開く。
「返さないよ」
そう言って二人を見据えるアル。
そう、彼はこれを言っておきたかった。
愛する二人への執着心からではない。
怒っているのだ。
(二人とも、両陛下を恨んでいない。
だが私は、許せない。
最も弱く、最も寂しく、最も辛く、最も愛が必要だった時に捨て置いた冷酷。
小さかった頃の二人の孤独と苦しみに喘ぐ絶望の日々を想うと、決して許すことは出来ない!)
フワフワと色を変えていた瞳は燃える様な青で色を止め、二人の王を貫く。
圧 倒‥‥!
「「‥‥ッ!」」
二人の王の中枢がグニャリと揺らぐ。
魂の記憶――
いや、記憶と呼べるほどハッキリしてはいないが、ハッキリと認識できない記憶による感情が溢れ出してくる。
『あぁ‥‥逆らえない‥‥だって、この御方は‥‥』
『この御方は』何だろう?
分からない‥‥分からないのに‥‥
「‥‥なッ、何だこれは!?
私達に、何か術を掛けたのかッ!?」
何故か溢れ出てくる涙に驚き、先王が絞り出すような声で問う。
「‥‥へぇ、
思い出すんだね‥‥
面白い‥‥」
そう言うアルの瞳はフワリと優しく色を変え、その表情にも優しさが浮かぶ。
「「‥‥ハゥッ!?」」
先・現王は首から上を真っ赤に染め、ドキドキする心臓に戸惑い、止まらない涙に困惑するばかり‥‥
モジモジする乙女の様な主の姿に、側近達の頭もようやく回り始める。
『え~と、私達は何を見せられているんだ?
まさか、主が恋に‥‥しかも、もしかして初恋に落ちる瞬間か‥‥?』
いたずらにソワソワキュンキュンして時間を費やしてしまえば、自分達まで
『遊んでる暇は無いよ?』
とアル殿に叱られてしまうかもしれない‥‥
そんなどこか甘やかな危機感から、国王陛下は至極真面目な面持ちで口を開く。
「ゴホッ‥‥実は違和感はありました。
父上、フォマルハウトも‥‥つまり‥‥」
「うむ、王家の血を継いでいないということだ‥‥
フォマルハウトの母親は北宮の王妃の実家の侯爵家と関りが深い‥‥
以前より侯爵家は禁術とされる古代魔術を収集しているという噂があった。
‥‥ッ、私は一体いつから術を掛けられていたのかッ‥‥
術を解かれた今なら、確信をもって言える。
フォマルハウトは私の子ではない!
フォマルハウトの母親に忠誠を誓い、常に側に侍っていた騎士‥‥
フッ‥‥今思えばソックリだったあの騎士の子だったのだ‥‥」
『私だって深刻な問題に直面し辛いながらも全力で取り組んでいるぞッ』
――的な空気を醸しながら先王陛下が苦悩の表情を浮かべ、続ける。
「そして現・王太子はフォマルハウトの子‥‥王家の血を継いでいない‥‥」
「父上、王太子を変えねばなりませんね!
(元々そのつもりであったが。
うん、コレに関しては案外思い通りの展開かもしれん)
‥‥ここへ王太子を呼べ!」
「王太子は今、カペラ嬢とお楽しみ中だよ」
側近が返事をする前にアルが告げる。
「「なッ!? こんな時にッ!?」」
先・現王はけしからんと眉間にシワを寄せる。
「私達が会場に入ったのと同時に消えたからね。
まだ母親の醜聞を知らないはずだよ。
‥‥可哀想にね。
彼も王弟も出生に関しては被害者だ」
そう言ってアルが先・現王を交互に見る。
((おぉ‥‥あの瞳は一体どうなっているのだ?
不思議な瞳だ‥‥フワフワと色を変える‥‥
あぁ‥‥吸い込まれてしまう‥‥))
アルの視線を受けて先・現王は全てを忘れてアルの瞳に囚われてしまう。
「?」ジッ
ボーーーッと見つめて来るだけの先・現王に、アルの瞳に疑問の色が浮かぶ。
「‥‥ハッ! あ、ああ!
もちろん、それは分かっている!」
「‥‥そッ、そうとも!
だが‥‥王太子は‥‥次期王となる者は王家の血を継いでいなければならない!」
ドギマギとしてしまった先・現王‥‥
現王は小さく息を吐いた後、不思議な少年の少し後ろの左右に立つ息子達を見る。
「ゴホン‥‥幸い、しっかりと我々の‥‥王家の血を継いだ優秀な‥‥」
「この二人は私のものだ」
!!!
時が止まったのかと錯覚するような時間がしばらく流れる。
国王の話を遮り凛と響いたアルの声。
静かで、揺るぎない意志を伝える声。
ようやっと、先・現王の焦点がアルに合う。
それを待っていたかのようにアルが口を開く。
「返さないよ」
そう言って二人を見据えるアル。
そう、彼はこれを言っておきたかった。
愛する二人への執着心からではない。
怒っているのだ。
(二人とも、両陛下を恨んでいない。
だが私は、許せない。
最も弱く、最も寂しく、最も辛く、最も愛が必要だった時に捨て置いた冷酷。
小さかった頃の二人の孤独と苦しみに喘ぐ絶望の日々を想うと、決して許すことは出来ない!)
フワフワと色を変えていた瞳は燃える様な青で色を止め、二人の王を貫く。
圧 倒‥‥!
「「‥‥ッ!」」
二人の王の中枢がグニャリと揺らぐ。
魂の記憶――
いや、記憶と呼べるほどハッキリしてはいないが、ハッキリと認識できない記憶による感情が溢れ出してくる。
『あぁ‥‥逆らえない‥‥だって、この御方は‥‥』
『この御方は』何だろう?
分からない‥‥分からないのに‥‥
「‥‥なッ、何だこれは!?
私達に、何か術を掛けたのかッ!?」
何故か溢れ出てくる涙に驚き、先王が絞り出すような声で問う。
「‥‥へぇ、
思い出すんだね‥‥
面白い‥‥」
そう言うアルの瞳はフワリと優しく色を変え、その表情にも優しさが浮かぶ。
「「‥‥ハゥッ!?」」
先・現王は首から上を真っ赤に染め、ドキドキする心臓に戸惑い、止まらない涙に困惑するばかり‥‥
モジモジする乙女の様な主の姿に、側近達の頭もようやく回り始める。
『え~と、私達は何を見せられているんだ?
まさか、主が恋に‥‥しかも、もしかして初恋に落ちる瞬間か‥‥?』
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