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第四章
14 船内王家の控室にて
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「どうする‥‥毒杯を呷らせるか‥‥」
「生温いのでは? 公開処刑しか無いかと‥‥」
額を突き合わせるようにして血生臭い話をする国王陛下と先王陛下。
仲良し父子である。
国王陛下は20年前まだ一才の息子二人を臣籍降下させる事を父に命じられた時も、
『父上の仰る事に間違いはない』
と泣く泣くではあるが素直に従った。
まだ自身が若かった事と、当時国王であった父への盲目的な敬愛が理由だ。
国王となり、経験を積んだ今でも、多少目減りはしたものの、父への敬愛の念は消えていない。
先王もまた、そんな息子を信頼し愛している。
そんな彼等は20年前に王家から追い出してしまった二人‥‥
今となっては優秀で見目麗しく、類まれなカリスマ性まで持つ二人‥‥
先王の赤眼黒髪を引き継ぐプロキオン公爵、デネブ・プロキオンと、
現王の金眼赤髪を引き継ぐエリダヌス伯爵、シリウス・エリダヌスに対して、狂おしいほど執着している。
利用価値の高さを抜きにしても、無条件に可愛くてしょうがないのだ。
王族らしからぬ感情に、本人達は気付いていない様だが‥‥
ニセモノ占い師に唆され手放してしまった二人を、何とかして取り戻したい。
王家にも、自分達の元へも。
今日の豪華船夜会の第一の目的は、そんな二人の王籍復帰。
そして第二の目的は、そんな二人をタラし込み、自分達から遠ざけている元凶である『アル』という外国出身平民の品定め――からの処分。
と言っても、『毒杯』だの『公開処刑』だのはアルに関する相談ではない。
控室で三人を待っている間に、会場警備担当の宮廷騎士達が報告を上げた。
『北宮の王妃と男爵夫人二名が自分達のこれまでの悪事を喋り続けている』
『悪事の内容は耳を塞ぎたくなる程極悪非道で、現在捜査中のもの、過去に自殺や事故と判断されたもの、無罪だった者が罪をきせられ既に処刑済みのものなど、大変重大な罪と量である』
『それぞれ姉や妹の命を奪った、など家族に対する罪も多い』
『退屈しのぎを目的に拷問死させた下級貴族・平民の数は夥しく、正確な数字すらわからない』
『そもそもこんな事になっているのは、プロキオン卿達に怪しげな魔道具で害をなそうとしたが、誤って自分達が魔道具の餌食になり、自白剤を浴びた為で‥‥』
「「何ぃッ!?
かわいいデネブやシリウスを狙っての事だっただとッ!?」」
「父上、これは公開拷問処刑が妥当では!?」
「王都のはずれにある処刑場に吊るして被害に遭った平民やその遺族に復讐の機会を与える必要もあろうな!」
「「正式な刑の決定まで、男爵夫人二名は地下牢へ放り込んでおくように!」」
現・先王陛下が報告する警備の者達にそう告げる。
当然、宮廷騎士達は疑問を持つ。
もう一人‥‥最も罪深い者への言及が無いのは?
「へ、陛下?
北宮の王妃に関しては‥‥
やはり男爵夫人達と同様に、地下牢へ‥‥」
「もちろ‥‥いや‥‥?
北宮の王妃は王太子の母である?
彼女を処罰するわけにはい‥‥いかぬ‥」
先王陛下が突如目を虚ろにしてそんな事を言う。
現王陛下もコクコクと頷くばかり‥‥
「‥ッ、し、しかしッ!
怪しげな魔道具は北宮の王妃の手に‥‥
首謀者は北宮の王妃ですのにッ‥‥」
宮廷騎士達は必死に国王陛下に訴えるが‥‥
「ほッ‥北宮の王妃を裁くわけにはいか‥‥ぬ?‥‥ぬッ
そん‥‥そんな事より、重罪人男爵夫人二名だッ‥‥」
現・先王陛下の様子がおかしい?
立ち止まったり、天を仰いだり、俯いたり、態度が明らかに変だ。
言っている事はもっと変で、明らかに重罪の北宮の王妃を庇っている‥‥
二代に渡って賢王と称えられて来た陛下達が何故‥‥
宮廷騎士達は思わず側近達の様子を窺うと‥‥
側近達には初めての事ではないのだろう、という雰囲気だが‥‥
側近達も何故?という戸惑いは隠せない。
側近達にも理解出来ない現・先王陛下がいる。
そしてそれは初めての事ではない‥‥
船内だというのに決して狭くない王家用の控室の空気は重く濁る。
「‥フゥン‥なるほどね。
お二方はどうしても北宮の王妃を裁けないんだね‥‥」
不意にその声が‥‥
どうしようもないほど淀んだ空気を一瞬で浄化する声が響いた。
「生温いのでは? 公開処刑しか無いかと‥‥」
額を突き合わせるようにして血生臭い話をする国王陛下と先王陛下。
仲良し父子である。
国王陛下は20年前まだ一才の息子二人を臣籍降下させる事を父に命じられた時も、
『父上の仰る事に間違いはない』
と泣く泣くではあるが素直に従った。
まだ自身が若かった事と、当時国王であった父への盲目的な敬愛が理由だ。
国王となり、経験を積んだ今でも、多少目減りはしたものの、父への敬愛の念は消えていない。
先王もまた、そんな息子を信頼し愛している。
そんな彼等は20年前に王家から追い出してしまった二人‥‥
今となっては優秀で見目麗しく、類まれなカリスマ性まで持つ二人‥‥
先王の赤眼黒髪を引き継ぐプロキオン公爵、デネブ・プロキオンと、
現王の金眼赤髪を引き継ぐエリダヌス伯爵、シリウス・エリダヌスに対して、狂おしいほど執着している。
利用価値の高さを抜きにしても、無条件に可愛くてしょうがないのだ。
王族らしからぬ感情に、本人達は気付いていない様だが‥‥
ニセモノ占い師に唆され手放してしまった二人を、何とかして取り戻したい。
王家にも、自分達の元へも。
今日の豪華船夜会の第一の目的は、そんな二人の王籍復帰。
そして第二の目的は、そんな二人をタラし込み、自分達から遠ざけている元凶である『アル』という外国出身平民の品定め――からの処分。
と言っても、『毒杯』だの『公開処刑』だのはアルに関する相談ではない。
控室で三人を待っている間に、会場警備担当の宮廷騎士達が報告を上げた。
『北宮の王妃と男爵夫人二名が自分達のこれまでの悪事を喋り続けている』
『悪事の内容は耳を塞ぎたくなる程極悪非道で、現在捜査中のもの、過去に自殺や事故と判断されたもの、無罪だった者が罪をきせられ既に処刑済みのものなど、大変重大な罪と量である』
『それぞれ姉や妹の命を奪った、など家族に対する罪も多い』
『退屈しのぎを目的に拷問死させた下級貴族・平民の数は夥しく、正確な数字すらわからない』
『そもそもこんな事になっているのは、プロキオン卿達に怪しげな魔道具で害をなそうとしたが、誤って自分達が魔道具の餌食になり、自白剤を浴びた為で‥‥』
「「何ぃッ!?
かわいいデネブやシリウスを狙っての事だっただとッ!?」」
「父上、これは公開拷問処刑が妥当では!?」
「王都のはずれにある処刑場に吊るして被害に遭った平民やその遺族に復讐の機会を与える必要もあろうな!」
「「正式な刑の決定まで、男爵夫人二名は地下牢へ放り込んでおくように!」」
現・先王陛下が報告する警備の者達にそう告げる。
当然、宮廷騎士達は疑問を持つ。
もう一人‥‥最も罪深い者への言及が無いのは?
「へ、陛下?
北宮の王妃に関しては‥‥
やはり男爵夫人達と同様に、地下牢へ‥‥」
「もちろ‥‥いや‥‥?
北宮の王妃は王太子の母である?
彼女を処罰するわけにはい‥‥いかぬ‥」
先王陛下が突如目を虚ろにしてそんな事を言う。
現王陛下もコクコクと頷くばかり‥‥
「‥ッ、し、しかしッ!
怪しげな魔道具は北宮の王妃の手に‥‥
首謀者は北宮の王妃ですのにッ‥‥」
宮廷騎士達は必死に国王陛下に訴えるが‥‥
「ほッ‥北宮の王妃を裁くわけにはいか‥‥ぬ?‥‥ぬッ
そん‥‥そんな事より、重罪人男爵夫人二名だッ‥‥」
現・先王陛下の様子がおかしい?
立ち止まったり、天を仰いだり、俯いたり、態度が明らかに変だ。
言っている事はもっと変で、明らかに重罪の北宮の王妃を庇っている‥‥
二代に渡って賢王と称えられて来た陛下達が何故‥‥
宮廷騎士達は思わず側近達の様子を窺うと‥‥
側近達には初めての事ではないのだろう、という雰囲気だが‥‥
側近達も何故?という戸惑いは隠せない。
側近達にも理解出来ない現・先王陛下がいる。
そしてそれは初めての事ではない‥‥
船内だというのに決して狭くない王家用の控室の空気は重く濁る。
「‥フゥン‥なるほどね。
お二方はどうしても北宮の王妃を裁けないんだね‥‥」
不意にその声が‥‥
どうしようもないほど淀んだ空気を一瞬で浄化する声が響いた。
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