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第四章
12 古代魔道具、毒扇! 3
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ところで、北宮の王妃は何故失敗したのか?
扇を開く速度‥‥振り返るタイミング‥‥
全てが完璧だった。
もちろん、扇が裏表だったわけでもない。
それは、僅か一秒の事。
北宮の王妃は完璧なタイミングで振り返った。
そして丁度目の前に立ち止まったアルを見た。
カチ‥カチ‥カチ‥と慎重に開いて来た扇もあと最後の一開き。
そのままの速度で最後の一開きをすれば良かったのだが‥‥
北宮の王妃は一秒間、固まった。
アルの瞳―――
普段からフワリフワリと不規則に色を変化させるその瞳が‥‥
アルが北宮の王妃を見据えた時、その瞳は明るい海色から金、そして真紅へ。
シュワッと色を変えたのだ。
‥‥‥見惚れずに済む者がいるだろうか?
北宮の王妃も時が止まり、その瞳に囚われた。
最後の一開きは無意識、強く掴んでいた扇から力を失った手が離れようとする際に引っ張られただけ。
だが最後の一開きまで、一秒間あれば十分だった。
「△☆●◎○☆」
アルが発したその言葉で、扇に施されていた魔術の一部が書き換えられ、黒霧を噴射する向きを真逆に変えた。
「術式は星の言葉で構築されていたからね」
事もなげにアルは言うが‥‥
星の言葉‥‥祈りの様な響きを持つその言葉は、存在すら知らない人が殆どだ。
「‥‥確かアルの前世様が、アルの体に傷と共に絡み付けられていた黒い魔力を読み解いた時も、その言葉を使っていたな‥‥」
「アルは前世様と融合した今では、自在にその星の言葉が使えるのか‥‥」
公爵と伯爵が納得し、アルが自分の内側と対面するかのようにぼんやりとする。
三人の犯罪者達は宮廷騎士達に拘束され、会場の外へ連行されていった。
その間もずっとドヤ顔で自分達の悪事を喋り続けながら。
彼等を追う様に数名の招待客が会場から消えたが、それに気付く者はいなかった。
アル達を取り囲む高位貴族達は、話しかけたいのだが勇気が出ない。
これまで貴族社会をしたたかに生き抜いて来た彼等。
自家の利になる事ならば苦手な事も不本意な事も全て笑顔でこなして来た強者達。
そんな彼等でも二の足を踏んでしまうのは、三人が放つ異次元のオーラ‥‥
あまりにも畏れ多くて、話し掛けるなんてとても出来ないのだ。
三人を取り囲む大きな輪‥‥その外側で、先王の使いの者がオロオロしている。
三人の到着を聞いた先王と現王は、まずは控室で彼等と対峙しようと決めた。
どうやら予想以上に人目を引きつけてしまう彼等‥‥
折り返しを過ぎた夜会の残り時間を考えると、ゆったり構える余裕は無い。
夜会の第一の目的は、皆が予想する王太子の婚約発表ではない。
プロキオン卿とエリダヌス卿の王籍復帰。
何ヶ月も前から先王と現王が計画して来た、20年も前からの悲願である。
この重大発表を、本人達に一言も断り無しに行う事は憚られる。
嫌われたくない‥‥
『目立たぬ様に三人を控室へ。 急げよ』
と命令された先王の側近はキレる寸前。
(その一挙手一投足を皆が見守っているというのに、目立たぬ様になど絶対ムリ!
クッ‥‥こんな事なら、今日は休めば良かった‥‥
今から体調不良になって倒れ‥‥)
「兄上、真っ青ですよ?
体調でも悪いのですか?」
「あッ‥‥お前、もう受付業務は終わったのか?」
王弟にアルのメモ紙メッセージを届けた受付責任者エリート文官は、先王の側近の年子の弟である。
「実は‥‥廃王子様達とお連れ様を目立たぬ様に王家の控室へご案内せよとの命を受けているのだが‥‥近付く事すら出来ないんだ‥‥」
「えッ‥‥目立たぬ様に?
それはムリでしょう‥‥
困りましたね‥‥アッ!?」
エリート文官の心臓が跳ねる。
自分が見つめる先の中心、美しい人の美しい瞳がフワリと自分に向けられたからだった‥‥
扇を開く速度‥‥振り返るタイミング‥‥
全てが完璧だった。
もちろん、扇が裏表だったわけでもない。
それは、僅か一秒の事。
北宮の王妃は完璧なタイミングで振り返った。
そして丁度目の前に立ち止まったアルを見た。
カチ‥カチ‥カチ‥と慎重に開いて来た扇もあと最後の一開き。
そのままの速度で最後の一開きをすれば良かったのだが‥‥
北宮の王妃は一秒間、固まった。
アルの瞳―――
普段からフワリフワリと不規則に色を変化させるその瞳が‥‥
アルが北宮の王妃を見据えた時、その瞳は明るい海色から金、そして真紅へ。
シュワッと色を変えたのだ。
‥‥‥見惚れずに済む者がいるだろうか?
北宮の王妃も時が止まり、その瞳に囚われた。
最後の一開きは無意識、強く掴んでいた扇から力を失った手が離れようとする際に引っ張られただけ。
だが最後の一開きまで、一秒間あれば十分だった。
「△☆●◎○☆」
アルが発したその言葉で、扇に施されていた魔術の一部が書き換えられ、黒霧を噴射する向きを真逆に変えた。
「術式は星の言葉で構築されていたからね」
事もなげにアルは言うが‥‥
星の言葉‥‥祈りの様な響きを持つその言葉は、存在すら知らない人が殆どだ。
「‥‥確かアルの前世様が、アルの体に傷と共に絡み付けられていた黒い魔力を読み解いた時も、その言葉を使っていたな‥‥」
「アルは前世様と融合した今では、自在にその星の言葉が使えるのか‥‥」
公爵と伯爵が納得し、アルが自分の内側と対面するかのようにぼんやりとする。
三人の犯罪者達は宮廷騎士達に拘束され、会場の外へ連行されていった。
その間もずっとドヤ顔で自分達の悪事を喋り続けながら。
彼等を追う様に数名の招待客が会場から消えたが、それに気付く者はいなかった。
アル達を取り囲む高位貴族達は、話しかけたいのだが勇気が出ない。
これまで貴族社会をしたたかに生き抜いて来た彼等。
自家の利になる事ならば苦手な事も不本意な事も全て笑顔でこなして来た強者達。
そんな彼等でも二の足を踏んでしまうのは、三人が放つ異次元のオーラ‥‥
あまりにも畏れ多くて、話し掛けるなんてとても出来ないのだ。
三人を取り囲む大きな輪‥‥その外側で、先王の使いの者がオロオロしている。
三人の到着を聞いた先王と現王は、まずは控室で彼等と対峙しようと決めた。
どうやら予想以上に人目を引きつけてしまう彼等‥‥
折り返しを過ぎた夜会の残り時間を考えると、ゆったり構える余裕は無い。
夜会の第一の目的は、皆が予想する王太子の婚約発表ではない。
プロキオン卿とエリダヌス卿の王籍復帰。
何ヶ月も前から先王と現王が計画して来た、20年も前からの悲願である。
この重大発表を、本人達に一言も断り無しに行う事は憚られる。
嫌われたくない‥‥
『目立たぬ様に三人を控室へ。 急げよ』
と命令された先王の側近はキレる寸前。
(その一挙手一投足を皆が見守っているというのに、目立たぬ様になど絶対ムリ!
クッ‥‥こんな事なら、今日は休めば良かった‥‥
今から体調不良になって倒れ‥‥)
「兄上、真っ青ですよ?
体調でも悪いのですか?」
「あッ‥‥お前、もう受付業務は終わったのか?」
王弟にアルのメモ紙メッセージを届けた受付責任者エリート文官は、先王の側近の年子の弟である。
「実は‥‥廃王子様達とお連れ様を目立たぬ様に王家の控室へご案内せよとの命を受けているのだが‥‥近付く事すら出来ないんだ‥‥」
「えッ‥‥目立たぬ様に?
それはムリでしょう‥‥
困りましたね‥‥アッ!?」
エリート文官の心臓が跳ねる。
自分が見つめる先の中心、美しい人の美しい瞳がフワリと自分に向けられたからだった‥‥
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