191 / 217
第四章
08 ボートの中で
しおりを挟む
「ところで、私達を引っ張り出したかったのは誰?
やはり国王陛下達?」
「えッ!?
わ、私に話しかけ‥‥う、うむ!
ん?‥‥‥あぁ~~、そう、そう言えば‥‥」
ここは巨大船に向かうボートの中。
マリーナから巨大船までは僅か10分程度で着く。
貴賓室でゴチャゴチャしている間に他の招待客は皆巨大船に向かった。
なので、ボートに乗船しているのはアル、プロキオン卿、エリダヌス卿、王弟殿下だけだ。
その他は乗組員や護衛騎士、給仕係、受付作業が終了した文官などが乗っている。
このボートは先程王弟が巨大船より乗って来た王家専用ボートで、30人乗りのボートよりも小さいが、豪華な造りになっている。
ラグジュアリーな設えのキャビンにはゆったり座れるふかふかソファ。
そこにゆるりと座り優雅に足を組んだアルが不意にその質問をフォマルハウトに投げたのだ。
チラリと投げられた視線は無感情であったが、フォマルハウトの心臓は跳ね、全身に力が漲って来るのを感じる。
「こっ、国王陛下が北宮の王妃にそう要求したのだ。
王太子の婚約を許可する条件として。
きっと、プロキオン卿やエリダヌス卿に会いたかったんだろう。
最近二人が寄り付かなくなったと先王陛下も嘆いていた様だし‥‥」
フォマルハウトはアルに質問されたのが嬉しくて、言わなくていい事まで答える。
「‥‥ふうん、二人が寄り付かなくなった元凶として私は呼ばれたわけだね‥‥」
「「「ハッ!?」」」
「「何ッ!? そうなのか!?」」
廃王子達が王弟殿下に鋭い声で質問する。
「えッ‥‥い、いや、そこまで考えていなかった‥‥
言われてみれば、アル殿まで呼ぶというのは‥‥
だけどそんな、元凶だなどとは‥‥」
そこについては何も考えていなかったフォマルハウトは言葉に詰まる。
誰にともなくアルは言葉を続ける。
「例えば立派に成長した廃王子達を王族に戻したいと思ったら。
王太子を見目麗しく優秀で魔力量が桁違いの廃王子達に変更したいと思ったら。
廃王子達の身辺をキレイにしたいと思うよね。
そうなると私は唯一にして最大の邪魔な存在という事になる。
利用できるか、粛清対象にするか、見極める為に私は呼ばれたのだろうね」
バッ!
見目麗しく優秀で魔力量が桁違いの男達が立ち上がる。
「「アルッ!
私は王族に戻らない!
王太子になどならない!
少しでもアルを排除する気配を感じたら、国を捨てるッ!!」」
「わ、私だって、アル殿を危険に晒したいわけがないッ!
そんな心配があるなら、このまま引き返そう!
北宮の王妃との取引の対価を払わない事になってしまうが、構わない!
何よりもアル殿が大切だ!」
「北宮の王妃との取引‥‥それはその不穏な魔術の事?
魔界空間を切り取った状態で保つなんて、高度とかいうレベルじゃない。
使用される魔力量だって半端じゃないはず。
自分の魔力の供与無しにそんな魔術を使うのは危険だよ」
「えッ‥‥いや、それは‥‥
(だがそれを使わなければ私はその男達に勝てない‥‥!)
とっ、兎に角、引き返そう!
おいッ! 誰か船長に船を引き返すように‥‥」
「引き返さなくていいよ。
大切な息子さん達と仲良くさせて頂いているのだからご挨拶したいと思ってる」
「「アル!
そんな必要無い!」」
「私に有る。
‥‥着いた様だね。
ホラ、降りるよ」
そう言ってアルは船の乗降口へ向かう。
男達はアルに従うしかない。
アルはボートを降りる前にフォマルハウトへ振り返る。
「あなたの前世の事は知らない。
でも、今世のあなたは悪い人ではないようだね。
だけど、前世に引っ張られて今世の自分を見失っている様だ。
前世の影響を受けるのは当然だけど‥‥
今世の人生は今世のあなたのものだ。
あなたは今世の、あなた自身の人生を生きるべきだと思う」
そう言いながら、アルの瞳は哀し気な色を湛える。
アルを見詰める目の前の大男はただギラギラと欲望を深めていっている。
アルの声がその耳に届いているとは思えない。
アルと対峙すればするほど、今世のフォマルハウトは欲深く凶暴な前世に飲み込まれてしまう様である。
「‥‥ッ、」
「「‥‥アル、行こう。
何を言っても無駄な様だ」」
愛する二人に促され、アルはボートを降り、パーティー会場へと歩き出す。
三人の後ろ姿を凝視しながら、大男は呟く。
「美しい人‥‥愛しい人‥‥憎らしい人‥‥!
今世こそ、絶対あなたを手に入れるッ!
体も、魂も、全て私の色に染めるのだ!」
欲望に濡れたその顔には狂気に色を失くした眼がギラギラと凶暴な光を放つ。
愛とは真逆の、ケダモノ。
繊細で、真面目で、不器用な大男は‥‥今世のフォマルハウトは、もうどこにもいない‥‥
やはり国王陛下達?」
「えッ!?
わ、私に話しかけ‥‥う、うむ!
ん?‥‥‥あぁ~~、そう、そう言えば‥‥」
ここは巨大船に向かうボートの中。
マリーナから巨大船までは僅か10分程度で着く。
貴賓室でゴチャゴチャしている間に他の招待客は皆巨大船に向かった。
なので、ボートに乗船しているのはアル、プロキオン卿、エリダヌス卿、王弟殿下だけだ。
その他は乗組員や護衛騎士、給仕係、受付作業が終了した文官などが乗っている。
このボートは先程王弟が巨大船より乗って来た王家専用ボートで、30人乗りのボートよりも小さいが、豪華な造りになっている。
ラグジュアリーな設えのキャビンにはゆったり座れるふかふかソファ。
そこにゆるりと座り優雅に足を組んだアルが不意にその質問をフォマルハウトに投げたのだ。
チラリと投げられた視線は無感情であったが、フォマルハウトの心臓は跳ね、全身に力が漲って来るのを感じる。
「こっ、国王陛下が北宮の王妃にそう要求したのだ。
王太子の婚約を許可する条件として。
きっと、プロキオン卿やエリダヌス卿に会いたかったんだろう。
最近二人が寄り付かなくなったと先王陛下も嘆いていた様だし‥‥」
フォマルハウトはアルに質問されたのが嬉しくて、言わなくていい事まで答える。
「‥‥ふうん、二人が寄り付かなくなった元凶として私は呼ばれたわけだね‥‥」
「「「ハッ!?」」」
「「何ッ!? そうなのか!?」」
廃王子達が王弟殿下に鋭い声で質問する。
「えッ‥‥い、いや、そこまで考えていなかった‥‥
言われてみれば、アル殿まで呼ぶというのは‥‥
だけどそんな、元凶だなどとは‥‥」
そこについては何も考えていなかったフォマルハウトは言葉に詰まる。
誰にともなくアルは言葉を続ける。
「例えば立派に成長した廃王子達を王族に戻したいと思ったら。
王太子を見目麗しく優秀で魔力量が桁違いの廃王子達に変更したいと思ったら。
廃王子達の身辺をキレイにしたいと思うよね。
そうなると私は唯一にして最大の邪魔な存在という事になる。
利用できるか、粛清対象にするか、見極める為に私は呼ばれたのだろうね」
バッ!
見目麗しく優秀で魔力量が桁違いの男達が立ち上がる。
「「アルッ!
私は王族に戻らない!
王太子になどならない!
少しでもアルを排除する気配を感じたら、国を捨てるッ!!」」
「わ、私だって、アル殿を危険に晒したいわけがないッ!
そんな心配があるなら、このまま引き返そう!
北宮の王妃との取引の対価を払わない事になってしまうが、構わない!
何よりもアル殿が大切だ!」
「北宮の王妃との取引‥‥それはその不穏な魔術の事?
魔界空間を切り取った状態で保つなんて、高度とかいうレベルじゃない。
使用される魔力量だって半端じゃないはず。
自分の魔力の供与無しにそんな魔術を使うのは危険だよ」
「えッ‥‥いや、それは‥‥
(だがそれを使わなければ私はその男達に勝てない‥‥!)
とっ、兎に角、引き返そう!
おいッ! 誰か船長に船を引き返すように‥‥」
「引き返さなくていいよ。
大切な息子さん達と仲良くさせて頂いているのだからご挨拶したいと思ってる」
「「アル!
そんな必要無い!」」
「私に有る。
‥‥着いた様だね。
ホラ、降りるよ」
そう言ってアルは船の乗降口へ向かう。
男達はアルに従うしかない。
アルはボートを降りる前にフォマルハウトへ振り返る。
「あなたの前世の事は知らない。
でも、今世のあなたは悪い人ではないようだね。
だけど、前世に引っ張られて今世の自分を見失っている様だ。
前世の影響を受けるのは当然だけど‥‥
今世の人生は今世のあなたのものだ。
あなたは今世の、あなた自身の人生を生きるべきだと思う」
そう言いながら、アルの瞳は哀し気な色を湛える。
アルを見詰める目の前の大男はただギラギラと欲望を深めていっている。
アルの声がその耳に届いているとは思えない。
アルと対峙すればするほど、今世のフォマルハウトは欲深く凶暴な前世に飲み込まれてしまう様である。
「‥‥ッ、」
「「‥‥アル、行こう。
何を言っても無駄な様だ」」
愛する二人に促され、アルはボートを降り、パーティー会場へと歩き出す。
三人の後ろ姿を凝視しながら、大男は呟く。
「美しい人‥‥愛しい人‥‥憎らしい人‥‥!
今世こそ、絶対あなたを手に入れるッ!
体も、魂も、全て私の色に染めるのだ!」
欲望に濡れたその顔には狂気に色を失くした眼がギラギラと凶暴な光を放つ。
愛とは真逆の、ケダモノ。
繊細で、真面目で、不器用な大男は‥‥今世のフォマルハウトは、もうどこにもいない‥‥
1
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。
天海みつき
BL
何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。
自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる