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第四章

08 ボートの中で

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「ところで、私達を引っ張り出したかったのは誰?
やはり国王陛下達?」


「えッ!?
わ、私に話しかけ‥‥う、うむ!
ん?‥‥‥あぁ~~、そう、そう言えば‥‥」



ここは巨大船に向かうボートの中。

マリーナから巨大船までは僅か10分程度で着く。

貴賓室でゴチャゴチャしている間に他の招待客は皆巨大船に向かった。

なので、ボートに乗船しているのはアル、プロキオン卿、エリダヌス卿、王弟殿下だけだ。

その他は乗組員や護衛騎士、給仕係、受付作業が終了した文官などが乗っている。


このボートは先程王弟が巨大船より乗って来た王家専用ボートで、30人乗りのボートよりも小さいが、豪華な造りになっている。

ラグジュアリーなしつらえのキャビンにはゆったり座れるふかふかソファ。

そこにゆるりと座り優雅に足を組んだアルが不意にその質問をフォマルハウトに投げたのだ。

チラリと投げられた視線は無感情であったが、フォマルハウトの心臓は跳ね、全身に力がみなぎって来るのを感じる。



「こっ、国王陛下が北宮の王妃にそう要求したのだ。
王太子の婚約を許可する条件として。
きっと、プロキオン卿やエリダヌス卿に会いたかったんだろう。
最近二人が寄り付かなくなったと先王陛下も嘆いていた様だし‥‥」



フォマルハウトはアルに質問されたのが嬉しくて、言わなくていい事まで答える。



「‥‥ふうん、二人が寄り付かなくなった元凶として私は呼ばれたわけだね‥‥」


「「「ハッ!?」」」


「「何ッ!? そうなのか!?」」



廃王子達が王弟殿下に鋭い声で質問する。



「えッ‥‥い、いや、そこまで考えていなかった‥‥
言われてみれば、アル殿まで呼ぶというのは‥‥
だけどそんな、元凶だなどとは‥‥」



そこについては何も考えていなかったフォマルハウトは言葉に詰まる。

誰にともなくアルは言葉を続ける。



「例えば立派に成長した廃王子達を王族に戻したいと思ったら。
王太子を見目麗しく優秀で魔力量が桁違いの廃王子達に変更したいと思ったら。
廃王子達の身辺をキレイにしたいと思うよね。
そうなると私は唯一にして最大の邪魔な存在という事になる。
利用できるか、粛清対象にするか、見極める為に私は呼ばれたのだろうね」



バッ!



見目麗しく優秀で魔力量が桁違いの男達が立ち上がる。



「「アルッ!
私は王族に戻らない!
王太子になどならない!
少しでもアルを排除する気配を感じたら、国を捨てるッ!!」」


「わ、私だって、アル殿を危険に晒したいわけがないッ!
そんな心配があるなら、このまま引き返そう!
北宮の王妃との取引の対価を払わない事になってしまうが、構わない!
何よりもアル殿が大切だ!」


「北宮の王妃との取引‥‥それはその不穏な魔術の事?
魔界空間を切り取った状態で保つなんて、高度とかいうレベルじゃない。
使用される魔力量だって半端じゃないはず。
自分の魔力の供与無しにそんな魔術を使うのは危険だよ」


「えッ‥‥いや、それは‥‥
(だがそれを使わなければ私はその男達に勝てない‥‥!)
とっ、兎に角、引き返そう!
おいッ! 誰か船長に船を引き返すように‥‥」


「引き返さなくていいよ。
大切な息子さん達と仲良くさせて頂いているのだからご挨拶したいと思ってる」


「「アル!
そんな必要無い!」」


「私に有る。
‥‥着いた様だね。
ホラ、降りるよ」



そう言ってアルは船の乗降口へ向かう。

男達はアルに従うしかない。

アルはボートを降りる前にフォマルハウトへ振り返る。



「あなたの前世の事は知らない。
でも、今世のあなたは悪い人ではないようだね。
だけど、前世に引っ張られて今世の自分を見失っている様だ。
前世の影響を受けるのは当然だけど‥‥
今世の人生は今世のあなたのものだ。
あなたは今世の、あなた自身の人生を生きるべきだと思う」



そう言いながら、アルの瞳は哀し気な色を湛える。

アルを見詰める目の前の大男はただギラギラと欲望を深めていっている。

アルの声がその耳に届いているとは思えない。

アルと対峙すればするほど、今世のフォマルハウトは欲深く凶暴な前世に飲み込まれてしまう様である。



「‥‥ッ、」


「「‥‥アル、行こう。
何を言っても無駄な様だ」」



愛する二人に促され、アルはボートを降り、パーティー会場へと歩き出す。

三人の後ろ姿を凝視しながら、大男は呟く。



「美しい人‥‥愛しい人‥‥憎らしい人‥‥!
今世こそ、絶対あなたを手に入れるッ!
体も、魂も、全て私の色に染めるのだ!」



欲望に濡れたその顔には狂気に色を失くした眼がギラギラと凶暴な光を放つ。

愛とは真逆の、ケダモノ。



繊細で、真面目で、不器用な大男は‥‥今世のフォマルハウトは、もうどこにもいない‥‥
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