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第三章

21 取引 1

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北宮の王妃はイライラしていた。


王太子の婚約の許しを得ようと主王宮へ陛下を訪ねたのはもう三日前。

話の途中で陛下は『急用が出来たから保留だ。追って連絡する』と告げた。



「あれからもう三日よ!?
何で何も連絡ないのよ!?」



まさか忘れてんじゃないでしょうね!?

大切な王太子がやっと婚約したいと言って来たのに反応薄過ぎでしょ!

これがシリウスやデネブなら、きっとバカみたいに大喜びするくせに!


クッ‥‥悔しいッ!

王太子なのよ!?

何で‥‥ッ

キィィィィッ



「北宮の王妃陛下、国王陛下よりお手紙が届きました」



執事が手紙を乗せたトレーを手にし、恭しく報告する。



「はッ‥‥あ、来たッ!? ソレ!?」



待ちに待った陛下からの連絡。

手紙というのが不満だけど、今はそれを言ってる場合じゃない!

トレーからむしり取る様に手紙を手にし、封を切る。



「何で!? 何でこうなるの!?
何で王太子が婚約するのに条件を出されなきゃいけないのよッ!?
しかもこんな条件、無理に決まってるじゃない!」



愛想の無い手紙を睨みつけながら、思わず声を荒げる。

何なのよッ!?

この手紙!



『二十日後に予定している船上での夜会に、以下の三名を出席させよ。

プロキオン公爵 デネブ・プロキオン
エリダヌス伯爵 シリウス・エリダヌス
プロキオン公爵が後見している青年 アル(外国出身・平民扱い)


三名の出席をもって王太子の婚約を許可する。
必ず三名揃って出席させるように』



何なの!?

この素っ気無いを通り越した、手紙の体裁無視のただの走り書きはッ!?

いえ、現実逃避している場合じゃないわね。

もっと最悪なのは内容よね!!



「私は何度も何度もあの二人の命を狙っているのよ!?
私に夜会に来るよう言われたら、逆に絶対来ないわよッ
じゃあ他の誰かに言わせるとしても‥‥
あの二人に何か言える立場って陛下か先王陛下だけじゃない!
大体、陛下が一言『来い』って言えば済む話‥‥
じゃないのか‥‥
確かエリダヌス卿は陛下からのお茶だのお散歩だの乗馬だの何だのの誘いを撥ねつけまくってるって話だものね。
どんだけ不敬なのよ!?
プロキオン卿もよッ!
遠目にしか見てないけど、それでも分かる美丈夫っぷり‥‥って今はソレは置いといて!
遠目にしか見てないけど、何を考えているのか一切分からない微笑、佇まい‥‥
なのに遠目でも分かるくらい私の事をゴミを見る様な目で見るっていう器用さもあったりする!
あ~~~ッ、ムカツクッ
どうしたらいいのよッ!?
どうすればあの制御不能な廃王子達を船上夜会に呼べるのようッ!?」


「その仕事、この私が任されようか?」



えッ!?
‥‥ハッ!

侵入者!?



「だッ、誰ッ!?
勝手に私の宮へ侵入するとはッ‥‥
あッ‥‥あなた‥
何であなたがここにッ!?」



なッ‥‥何て事!?

さっきまでいた執事も侍女も護衛騎士もいない‥‥

勝手に王妃の宮へ入り込み人払いまでするとは‥‥



「‥‥随分と乱暴な訪問ですこと‥‥
そんなヤンチャな性格だったかしら?
‥‥フォマルハウト王弟殿下?」
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