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第三章

16 その男が美少年愛好家になった理由

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類まれなる美貌を持ちながら、驕る事なく控えめで礼儀正しく、清廉なオーラを纏うという奇跡の美少年がいるらしい。


その噂は、アッという間に業界内を駆け抜けた。

業界‥‥美少年業界である。



私、王弟フォマルハウトも美少年愛好家である。

私は女性と性交が出来ない。

少年の頃の恐怖体験のせいなのか、元からなのかは分からない。

普通に会話したりダンスしたりは問題ないので、大丈夫だろうと思っていたが‥‥


心の問題を全て乗り越えたと思っていた20才過ぎの頃。

普段は大人しい婚約者がベッドへ誘って来た。

もう結婚間近だったし、彼女は美しく魅力的だった。

顔を真っ赤にして恥じらいながら誘ってきた彼女をいじらしいと思った。


『愛しています』


と言われたが、自分の中で『それは違う』と思った。

だから言葉は返さなかったが、ランプを消し、口付けをした。


手順通りプロセスを進めるも特に興奮も感動も無かった。

幸いな事に体は反応したので、後は挿入するばかり。

その前にもう少し場を温めようと彼女の足を大きく開き顔を近づけた瞬間―――


『オエッ、臭ッ、オエエエエ~~~~~ッ』


そう叫んでゲエゲエ吐いてしまった。

吐くものが無くなるまで吐いた後気絶してしまったらしい。

目を覚ました時室内は清潔に掃除されていたが彼女はもういなかった。


申し訳ない事をした―――大丈夫だと思っていた―――乗り越えてなどいなかった―――思い出さない様にする術を身につけていただけだった―――何も、何一つ‥‥



13才のあの時―――

恐怖と嫌悪――何も見たくなかった、何の情報も入れたくなかった。

ギュッと目を閉じたが、臭い―――醜悪な女の醜悪な臭いは防げなかった。


膣液臭なのだろうか‥‥婚約者の股もあの女と同じ臭いがした。

女の股がみなあの臭いなら、性交は不可能だ‥‥


『私は王族なのに、子孫を残す事が出来ない‥‥
魔力も少ないし、何の役にも立たない‥‥』


実は子孫は、多分一人いる。

だが絶対に自分の子だと認めるわけにはいかない。

認めたくもない。


婚約者が去った後、男達が群がって来た。

が、どうやら私はゲイでもないらしい。

男に対して欲情する事は出来なかった。



もういい。

自分は仕事に一生すべてを捧げよう。

国が戦争になった時の為に‥‥

いや、そもそも戦争になどならないように、最強の軍を作り上げる―――

周辺国が戦意を削がれ逃げ出すほどの圧倒的な軍で国を、民を守るのだ。



仕事に没頭し始めた頃―――

友人に美少年バーなる所へ連れて行かれた。

子供に男相手の給仕をさせるとは何と悪趣味な‥‥

嫌悪感を抱いていたにも拘らず、美少年達を見た時、心が躍ってしまった。


『似ている‥‥‥』


なぜそう思ったのか、誰に似ているのか分からないまま三人ほど連れ帰った。

性の対象にしようとは考えていなかったが、ただ側に置きたかった。

だが、少年達の方が巧みに私を導いた。


本来強い私の性欲は、美少年達を抱く事で発散された。

‥‥相変わらず特に興奮も感動も無かったが‥‥‥


それからもう15年が過ぎようとしている。




美少年愛好家と認知された私の耳へもその噂は届いた。

右から左へ聞き流そうとしたが、その美少年の特徴が引っかかった。


虹色に輝く白銀の長い髪‥‥‥


そう言えば、私が気に入る美少年は皆その特徴に近い‥‥

さすがに『虹色に輝く』は想像すら出来ないが、色素の薄い長い髪に不思議と心惹かれてきた。


‥‥こんな噂は眉唾物だ。

そう思うのに胸がザワついて何も手につかない。

呼吸すら忘れがちだ。



馬鹿らしい。

どうせ無駄足になるだろう。

だが――――


私は美少年の館 ”ドルチェ ”の予約をとった。
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