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第二章

28 或る料理人の独白 その6

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俺の人生をかけて磨き上げて来た隠し玉、オーニギーリを主にぶつけてみる!

そして主の笑顔と ”美味しい ”を引き出してみせるッ!



そんな決意に密かに燃えていた今日。

夕刻‥‥いや、ちょうど夜になった頃。

屋敷のメイドが静かにザワめき出した。

主が客人を伴って帰って来たらしい。



え? 馬車はどこに? ま、まさか‥‥

森に棲み付いている翼竜‥‥アレに主と共に乗って来たのか!?

あの狂った眼をした‥‥いや、間違いなく狂っている翼竜に!?


俺は心がザワザワするのを持て余し、厨房を出て広い屋敷の廊下を彷徨う。

はっ‥‥翼竜の世話をしている男がいる。

‥‥訊いてみるか‥‥



「なぁ、主に客人があるのかい?
もしかして、翼竜に乗って‥‥オ、オイッ!
どうした!? おめぇ、目がまん丸じゃねえか!?」



男はこれ以上ねえってくれえ、目を見開いていやがる!

オイ、目ン玉飛び出ッちまうぞ!?

そう言ったら虚ろな感じでこっちを向いた。

信じられねぇものを見たと、その眼が言っている!

何だ!? 何を見たってんだよ!?

何をブツブツ言っていやがる!?



フエタ‥‥イロチガイ‥‥アカイノ、フエタ‥‥



‥‥‥‥はぁ!?



ダ‥‥ダメだ、埒が明かねえ‥‥ん?

メイドが歩いて来る‥‥訊いてみるか‥‥



「なぁ、主に客人が‥‥オ、オイッ!
どうした!? おめぇ、顔が真っ赤じゃねえか!?」



ドォーーーン!

「ぉわぁッ!?」

ビターーーン!



ェ‥‥な‥‥何が起こった!?

何かに壁に突き飛ばされ‥‥メイド軍団!? 



「どうだったのよ!?
黒髪の貴公子様と精霊王子様はッ!?」

「ちょ、あ‥‥ヨダレ! ヨダレたれてる!
鼻血! 鼻血も出てるッ!」

「はぁッ!? んなッ、何ですってぇ!?」

「精霊王子様がグイグイ来た、ですってぇ!?」

「微笑んで手を握ってくれた、ですってぇ!?」

「まさか、あんた夢でも見‥‥‥」



メイド達はまだ騒いでいるが、俺は大急ぎで厨房へ引き返した。


いつも上品なこの屋敷のメイド達に欲望に濡れた顔を晒させザワつかせている客人‥‥”黒髪の貴公子様と精霊王子様 ”


多分‥‥いや、絶対間違いねえ!

あの、師匠を旅立たせた、美しくも食欲ゼロの二人に違いねえ!

この時間に来訪したって事は、主は夕食をふるまうはず‥‥


グッ!


俺は両手をグーにして、顔を上げる。


勝負だッ!


俺は、オーニギーリで、あの三人を笑顔にするッ!

『美味い』と言わせて見せるるるるるッッ



俺は、人生の全てをかけて、オーニギーリの準備に取り掛かった‥‥
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