上 下
72 / 73

72.フワリ、風が輝く

しおりを挟む
フワリ・・・


海からの風が二人を包む。
合図されたかの様に、あれんが唇を離す。


「・・ッ、あれん・・!」
もっと・・永遠にでもキスしていたい悠人が、不満気な声を上げる。


「俺、寝てる間に、悠人の両親、探して会って来たんだ!」
早く言いたい、とばかりに、早口で一気に言うあれん。 ニコニコしている。


「・・!? え、俺の・・亡くなった?」


「うん。 探すの大変だった。 でも、見つけて、許しをもらった。」


「・・・・・・」 悠人は困惑顔であれんを見つめる。


「悠人も俺の母さんに、言ってくれたんだろ?『再プロポーズしてOKをもらえたら、あれんを俺にください。』って。 だから俺もさ、ちゃんとしたくて。
『悠人とずっと一緒に居ていいですか?』って聞いたんだ。」


「あ・・おぉ、・・・うん・・」


あれんは悠人の困惑の反応に気付かず、
「で、『いい』って言ってもらえた!」とニコニコ。


はっ・・! 悠人は気付く。 OKか!? OKだろ!? OKだな?!!
俺とずっと一緒にって・・・プロポーズOKって事だよな!! それで、俺の両親に、許しをもらったって・・・

11日間寝てる間に、そうゆう夢をみてくれたんだな!?
何て・・何て可愛いんだ!! 誠実で、優しいんだ!!

あれんの話を“夢を見てた”と解釈する悠人だが、あれんの次の言葉で総毛立つ。


「『ユージーンは実は寂しがりやだから、迷惑掛けるかもしれないけど、よろしくお願いしますね。』って言ってくれたんだよ!」 


「ユージーン・・・!!?」
それは、誰も知らない、両親と悠人だけの、秘密の呼び名。
他に誰もいない、3人だけの時に、両親はその名で悠人を呼んだ。 
叔父さんも祖父母も、本当に3人以外誰も知らない・・悠人自身、忘れていた・・・ 

「・・その、二人は、俺を“ユージーン”って?」 震える声で訊ねる悠人。


「うん、“家族だけの暗号名”なんだって? お父さんは“JJ”で、お母さんが何と“桜”って・・・俺の母さんの“梅”と何かつながってる気がして嬉しいよな。
・・・悠人? 大丈夫?」


「・・本当に・・二人に、会ったんだな・・そんな、不思議な事って・・」
信じられない・・だけど現実・・悠人の心はサワサワしている・・


「自分で言ってたじゃん、“二人とも魂がつながっているから、いつも一緒だから”って。 だから探せたし、話せた。 ・・フフ、自分で言ってて、半信半疑だった?大丈夫、本当にちゃんと繋がってるよ。」


「!!!」 悠人は真っ赤になる。
そうだ・・実際は、半信半疑どころか、殆ど信じてなかった・・俺は、そんなに、両親にとって大切な存在だとは思えなかったから・・


「・・・おいで?」
不意にあれんが悠人に手を広げてフワリと微笑む。 戸惑い、あれんを見つめる悠人。 動けない。 あれんの方から近付き、悠人をやさしく抱きしめる。
泣きたくなる様な、あたたかさ・・・魂が、魂に包まれている、そんな感じ・・


「・・本当はね、悠人のお父さんとお母さんは、こんな風にしたかったんだって。
でも、悠人のお父さんが、自分の心の弱さは、自分の両親が優し過ぎたからだと考えて、悠人には強く育って欲しくて、敢えて我慢して厳しく接してしまった、って。
たった5年しか一緒に居られないと知っていれば、もっとちゃんと“愛してる”って、伝えたのに、って。」


「!!!・・そ、・・今更・・・」想いが溢れて、言葉がうまく出ない悠人。


「あれ? 素直じゃない、悪い子だね?」悠人の髪を撫でながら、あれんが言う。


「・・ごめん。 すごく嬉しい。 愛されていたって、思える日が来るなんて・・」悠人はすぐに素直になる。 あれんに抱きしめられながら髪を撫でられいるのだから、素直になるに決まってる。


「うん、いい子。 何かご褒美あげる。 何がいい?」


何って・・・


「3、2、1。 はい、終了! 残念、悠人君、時間切れです!」
そう言って体を離し、波打ち際を駆け出すあれん。


え!? は!? 何っ!? 「ぁ、あれんっ!? ちょ・・」


「時間は有限なのだよ! 悠人君!! ハハッ・・」
あれんが走りながら叫ぶ。 た、楽しそうって・・・!?


「・・クッ・・」悠人も追いかける。 鬼の形相である。 すぐに捕まえてやる!
捕まえたら、メチャメチャにキスして、そして・・・っ


だけどあれんは捕まらない。 手を伸ばしても、あとちょっとの所でスルリとかわされてしまう。 そうして楽しそうに逃げ続ける。 何度も何度も。 一生、捕まえられないんじゃないか・・悠人はそんな不安に襲われる。 


「・・あれんっ!!」普通じゃない声音に、あれんが立ち止まり、振り向く。
その体に抱きつき、さらに強く抱きしめる悠人。


「・・ッ、痛・・ゆ、悠人? どうした? ・・怒った?」

「ハァッハァッハァッハァッハァッハァッ・・・キス、」

 
「うん、・・キスしたい?」と訊くあれん。


「・・したくない・・」と答える悠人。


「・・・・・・」


「・・されたい。 ご褒美、くれるって言っただろ。 時間切れは認めない。」


「・・フフ、」
ゾクゾク・クラクラ・ザ・妖艶な微笑みを浮かべるあれん。


「・・仰せのままに・・我がきみ。」


喜びに震える唇に、愛で膨らんだ唇が重なる・・・





風が、輝く――――――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

処理中です...