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60.・・いえ、違うわ・・

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「出ろっ!! オラ、手間掛けさせんじゃねぇよっ!! クソが!!」


泉 優子は、タクシーの後部座席で、薬で眠らされている孫のあれんにしがみついている。 郷里 トモヤは、乱暴にその腕を掴むと、荷物を放る様に道に投げ捨てる。


「あれん様にああ言われたら仕方ない・・お前を助けてやる・・」
忌々し気に吐き捨てる郷里。


郷里はあれんの願いを受け入れ、山道からこの舗装された一般道まで戻り、優子を解放したのだ。 山道から先は郷里家の私有地になるので、人通り、車通りが一切無いが、ここならたまに人も車も通るし、少し歩けば民家が数軒あり、助けを求める事が可能だ。


「あれんをっ!! あれんを返してっ!! そんないい子に、優しい子に、乱暴しないでっ・・」


必死に懇願する優子をゴミを見る目で見ながら、郷里は


「乱暴なんかしない、するワケ無い! 愛しまくるだけだよ! サラ様ではダメだったけど、あれん様には、もう・・側に居るだけで堪んないんだよね・・・」


そう言いながら車内のあれんを見て、ひぇっひぇっひぇっと肩をゆすって笑う郷里。あまりにも下卑た笑いに嫌悪しながら、優子は郷里が勃起してるのを見て、郷里の目的にやっと気付く。 この男は、あれんを・・・!!


「・・やっ・・やめて!! あれんに、そんな事、させない!! 何でもする!! 何でもするから、あれんを返して!! やめてやめて!! お願い・・」


優子の必死な叫びも、ゴミの騒音とばかりに無視し、足に縋り付いて来る優子を蹴り飛ばした後、タクシーに乗り込む郷里。 タクシーのドアを閉める直前、意外にも静かな口調で言う。


「まだ僕を知らないあれん様にとって、僕は得体の知れない、恐い男だと思うよ?
そんな男に薬を盛られて・・あ、盛ったのはあんただけどね、で、何されるか分からない、そんな状態、状況でもあれん様はあんたの事だけ思って、あんたの無事だけを僕に必死に頼んだ・・・。 あんたはどう?
そんな年になってもまだ自分の事ばかり考えて守って・・・だから簡単に僕に騙された・・そんなクソに、あれん様を渡せない。 これからは僕があれん様を幸せにする。 分かった?
分かったら変に騒がず、あれん様に与えてもらった余生を静かに生きるんだね。
あ、ちなみに警察に通報したって、ママが簡単に握りつぶせるから無駄だからね!」

言い終わるとタクシーは猛スピードで山道を走り去っていく。
その道を凝視し続けながら、優子は震えが止まらない。


『ばーちゃん・・を・・傷・・つけない・・で、・・安全・・に・・家に帰・・して・・お・・、お願いッ・・お・・願・・い・・』


郷里に騙されていたとはいえ、あれんをめた自分の為に、必死に郷里に懇願したあれんの姿・・声・・。 あの子は、ずっと、そうだった・・私を、1度も責めた事がなかった・・あの時・・サラが初めて狂った様に私を責めたあの時ですら・・・『ばーちゃん、大丈夫だよ・・全部、大丈夫だからね・・』そう言って、私を許してくれた・・・それなのに、わ、私は・・・っ


そうして動けないまま、どれだけ時間が過ぎたのだろう。1時間の様でもあるし、数分の様でもある。
郷里があれんを連れ走り去った山道から車の音がする。 あのタクシーのようだ。


はっ・・


(郷里は車を乗りかえると、言っていた・・つまり、今、タクシーでこちらへ向かって来ているのは、郷里が私を殺させるために用意してた男達・・! あっ・・恐い!殺される! 拷問される!!)


優子は急ぎ低木に隠れる。・・が、
「・・いえ、違うわ・・」と呟き・・・


タクシーの中には男が2人。
運転している方の男はゴキゲンで、後部座席で腕組みしてる男はしかめっ面をして、時折舌打ちを繰り返している。


「なぁんだよ? そんなにあの汚れ仕事が無くなったのが不満なのか? 何もしねぇで金は約束通りくれるってんだ、儲けモンじゃねえか?」


運転している方が軽い口調でもう一人に言う。 言われた男は無言だ。 この男は、今回のこの久々の汚れ仕事を心から楽しみにしていた。 女をいたぶった揚げ句に殺し、捨てる・・。 ゾクゾクする。 この男は、女の悲鳴で性的快感を得るのだ。


(私だって、好きでこんな風になったんじゃない。 生まれつきなのか何なのかも分からない。 妻も娘もいる。 ・・だけど、欲しくなる・・そうなったら、もう、どうしようもない・・発散するまでは、仕事も手につかなくなる・・仕方ないのだ。)

男は裕福な家庭、優しい両親、祖父母、兄と姉に可愛がられて何不自由なく育った。ルックスも良い方で、家庭の裕福さもあり、随分と女性にモテた。 明るく、話し上手で、面白く、リーダーシップも兼ね備えた、完璧と言っていい男だ。
だが、どうする事も出来ない性癖があった。 女が恐怖におののき上げる悲鳴・・・ソレだけが男を興奮させ、絶頂へと誘う事が出来る唯一なのだ。


「・・君だって、年配とは言え、美しい女性を凌辱する事を楽しみにしていた様だった・・私の思い違いだったのかな?」


「まぁまぁ、写真は美人だったけど、いわゆる“奇跡の1枚”じゃねぇの? ババァはババァだよ。 そんな事より、いい店教えてやろうか? お上品な変態エリートさんよ?」


この2人は同級生同士。 片やドロップアウト組、片やエリートコース一直線組、性格も正反対だが、学生の頃から2人で秘密のおぞましい悪さを繰り返してきた仲だ。 互いに歪んだ友情を感じている。


「・・いい店? まがい物はまがい物だよ。 本物にはかなわない・・それより、少し足を延ばして、F市まで出れば、家出少女が手に入る・・」


その醜悪な提案の途中で、それを遮る様に運転している方が叫ぶ。


「オイ、何だアレ? 女だ! 女が立ってる・・まさか、例のババァか!?」


山道から一般道へ出る道を塞ぐように小柄な女性が立っている。
顔面蒼白で、ブルブルと震えている。 まさに、泉 優子その人である。


「オイオイ、どういうつもりだ!? まさか、犯られる為に俺達を待ってたのか!? 笑える! あの女も変態かよ!? ・・・何だよ、スゲー美人じゃん、写真なんかより・・全然若えし! マジ極上品だぜ!? こいつはいいや!!」


「・・ああ・・いいね・・そそる・・・彼女の恐怖で泣き叫ぶ声・・いい!!」


男達はタクシーから勢い良く飛び降り、欲望に醜く顔を歪ませ、舌なめずりして優子に向かって来る。


優子は恐怖でガタガタと震えている。
震えているが、両手をグッと結び、顔を上げ・・・


・・・男達を
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