上 下
59 / 73

59.事実

しおりを挟む
(・・・何だかボーっとする・・)


(学校前からタクシーに乗り込み、どれぐらいだろうか・・・そんな事も分からないって・・・変・・・だよな?)


祖母・優子に頼まれ、行先も分からないままタクシーで学校を出たあれん。
タクシーは1度町に入り、町を抜けて、山道に入ってから随分走ってる気がする。 道も大分悪くなってきていて、ガタガタと振動が激しくなってきてる。


(・・コレ、タクシー代いくら掛かっちゃうんだろ? ウチってそんな余裕ないよなぁ・・大丈夫かなぁ・・・)


あれんが体調の異変より、タクシー代を気にしていると、


「あれん? 大丈夫かい?」
ばーちゃんが心配してくれる。 良かった・・ばーちゃんは随分落ち着いたみたい。

「俺、・・何か・・変・・なんだ・・けど・・」


「ああ、それは、さっき飲んだスムージーに入れた薬のせいだよ! 心配しないで! あれんが楽になる薬だって!」


「??! ・・え? 薬って、何・・」


「あれん、やっぱり郷里君は素晴らしい人だよ! 最高の提案をしてくれて、最高のお医者さんも用意してくれてるんだって! 今からそこへ行って、あれんを女の子に変えてもらう手術をしてくれるんだって! そしたら、もう二度と泉家に命を狙われる事はないんだよ!!」


「・・な・・」
郷里!? あれんは薬でボンヤリしてる頭でも、その名には戦慄する。
(ばーちゃん、何で・・危険な男だから関わっちゃいけないって、あれ程頼んだのに・・)


キキィッ! その時、突然タクシーが止まる。 そして・・


「ひゃーーっはははは!! ひぃーーーっひひひ!! きはぁーーーっはは!!」
常軌を逸したようなけたたましい笑い声が車内に響き渡り、運転手が振り返り、帽子を投げ捨て、優子に向かって怒鳴りつける。


「はぁぁ!? あれん様に手術? 性転換!? するワケ無いっしょ!? 本っっ当脳ミソ腐ってんじゃない!?? このクッソばばぁがっ!!」


「・・・!?」 あまりの事に優子は頭が真っ白になる。


「どっ・・どうしたの!? 郷里君!? 私、ちゃんとあなたに言われた通り、やりましたよ? そうすれば、あれんを女の子にしてくれるって約束・・」


「だぁ~~かぁ~~らぁ~~!! あれん様は今のままがもう、最高傑作なのに、何で女なんかにしなきゃいけないワケさ!? 完璧な美にわざわざ傷をつけるとか、おぞまし過ぎて、ぅひゃぁぅぅっ、ブルルッ寒気がするよ!! この痴れ者がっ!!」

「なっ・・、なに・・なっ・」


「あぁあぁ、泣きゃいいってか? ばばぁの涙に誰が同情するっての? 大体さ、僕は女なんか抱けないんだよね。 あれ程憧れたサラ様にだって勃たなかったんだから! せっかくさらって、服を脱がせて、さぁ、って時にやっと気づいたんだけどサ、・・だけど、それは、あれん様に出会って、愛し合う為だって、今では良かったって思ってるんだ。くぅっふふふふふ、くふっ、くんっ・・はぁ、はぁ、さ、急がなきゃね、あれん様っ!!」


「あ、あんた、騙したんだねっ!! 本当は、サラを拉致監禁したのはあんたの方だったんだね!! ああ、あれんはそう言ってくれてたのに、私は・・!」


「ふふん、今頃、かよ!? ばばぁさ、何で僕を信用したか教えてあげるよ。
『あなたは悪くない、正しい。』――僕がそう言った瞬間、サッと表情が変わって、僕を神様を見る様な眼で見たんだ。 分かる? 自分を肯定してくれる、聞きたい事を言ってくれる、それだけで、あんたを憎んでるこの僕を妄信したんだよ!!」


「・・・・・・!!!」


優子は思い出した。 確かにそうだった。 泉家からも、瑛子さん達からも、・・・晩年のサラからも、否定され続けて来た・・・だから、『そうじゃない、あなたは正しい』と言われ・・・


「・・わ、私は・・何て愚かな・・・」


「あ、だよね~!! だからぁ、あんたには罰を与えるよ! もう少し行くと、車の交換の為に車と男達が待ってる。 その男達に、あんたの処刑を依頼しておいたからぁ! あぁ、簡単に死ねるとか思わないでよ? クソばばぁ! 僕の大切なあれん様をクソガキ・吉田に差し出した罪は万死に値するんだから! 男達に穴って穴を犯されて、散々なぶられて、ゴミみたいに捨てられりゃいい! ソレだって手ぬるいけど、時間が無いから・・はっ!?」


「・・ばー・・ちゃん・・を・・」
あれんは既に朦朧としている状態で、運転席に手をかけ、何とか体を起こしながら、必死に言葉を絞り出す。


「・・あぁっ! あれん様! もう、そんな状態で無理しないでっ! 意識を保つ事すら不可能な状態なんだから! そういう薬なんだから! 無理しないでっ・・」


あれんは諦めない。
閉じよう閉じようとする重い瞼を必死に開き、郷里の眼を


「ばーちゃん・・を・・傷・・つけない・・で、・・安全・・に・・家に帰・・して・・お・・、お願いッ・・お・・願・・い・・」

そこまで言うと、もう自身の体を保てず、崩れ落ちた・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

君に出会わなければ、知らなくて良かったのに

和泉奏
BL
美形優等生×金髪イケメン一匹狼

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...