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48.困った彼女

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「半月ぐらい前だったかな・・・」

大したことないと思っていたから、それ程記憶が鮮明ではない・・・


「朝、学校へ行く途中で、深海が忘れ物に気付いた。 深海は前の晩ウチに泊まってて、一緒に登校する途中だった。 もう駅が近かったから、すぐに陸城達と合流するだろうって事で、珍しく忘れ物を取りに俺と離れてウチに戻ったんだ。 だから、駅までの短い間、俺は一人になった。」


「・・ンまぁっ、深海ったら、たとえ短い間でも、あれん君を一人にするなんてっ・・あの子、護衛の意味をまるで理解してないのね! 再教育だわ!!」

深海の母親・美依子さんがほぼ悲鳴に近い声を上げる。


「深海は友達です! 護衛じゃないので、再教育とかやめて下さい。」

口では『違う』と言いながら、やっぱりゴリラズの態度は、母親の影響が強いと思わざるを得ない・・・


「・・でもっ・・」 「まぁまぁ、美依子、今は・・ね?」 「そうよ、落ち着いて」 「うむ、再教育なら俺がやろう・・」 (大人達、ゴチャゴチャしてる…)


「あれん、続きを。」 (吉田君、スキっとしてる!(ハート目))


「・・あ、うん。 ええと、駅前で、俺の後ろを歩いてた人が転んだんだ。 すぐに起き上がらずに震えている様だったから、心配になって声をかけたんだけど、今思えば様子が変だったかな・・・と。」


「「「「「変って?」」」」」


「何かブルブル震えて挙動不審な感じで俺の事やたら褒めた後、どう考えても駅に向かう道だったのに、反対方向に走り去った・・・」


「それ、危なかったかもな・・」 吉田君が蒼ざめながら言う。


「俺が、狙われたって事? その男が郷里だったと? そんな、そういう意味で危険な感じはしなかったけど・・」


「あれんに危害を加えようと近付いたものの、あれんを見て、魅了されてしまった・・どうもあれんは、自分に魅了された人間に対する警戒心だけ働かないから、危険を察知できなかった――ってところじゃないか・・」


「「「「あぁ~~~~、」」」」 大人達から“それだ!”的な声。
(いやいや、俺に魅了って・・・無いでしょ!)


「泉一族のアレね・・」 「そうそう、アレだよ。」 「「アレよね~~。」」


「アレって何ですか?」 吉田君が間違いないタイミングで訊く。


「あれん君は、自分の事どう思ってる?」 田中氏が俺に尋ねる。


「うっ・・酷な質問ですね。 見ての通り、残念高2男子ですけど・・」


「こういう事だよ、お師匠様。 泉一族の知恵として、カクカクシカジカ。」


・・確か断られていたのに吉田君を勝手に“お師匠様”呼びしてる・・・さすがゴリラズの父・・行動が似すぎている。
それに、“泉一族の知恵”って、何を言ってるんだか・・え? 吉田君、何? その腑に落ちた!!的な顔。


「・・“泉一族の強力な暗示”によって、あれんは自分の魅力を全く無自覚。
その流れで、他人があれんに魅力を感じてる事実も無視する・・よっぽど注意を払ってないと、実際に襲われるまで相手の欲望に気付けない。
これじゃ危険すぎる・・・暗示を解く方法は無いんですかね・・」


「泉一族の中に、暗示に長けた“術者”がいて、その人にかけられたと思う。
サラはそんな事させなかったはずだから、優子さんが、あれん君を引き取った時に、恐らく。 本来暗示は、物心つく前にかけるらしいけど、あれん君は、サラが亡くなった頃、虚ろな状態だったから、“物心つく前”の状態に近かった・・・それで暗示が強くかかってしまったんじゃないかしら・・・」


「暗示を解けるのは暗示をかけた“術者”しかいないと思う・・・て事は、まぁ、無理、不可能って事よね・・・」


「ばーちゃんは、俺にそんな事・・・」

しない・・・とは言い切れない・・ばーちゃんは、こうだと一度思い込んでしまうと、絶対に譲らない・・・暗示をかけるのが正しいと思ってしまえば、迷うことなくかけるだろう・・・


「はっ・・・そうだ! ばーちゃんに注意しなきゃ! 郷里は危険な男だから、会わない様にって! 吉田君、電話借りていい? 俺、スマホ持って来てないんだ。」


昼、ゴリラズとノンちゃんが寝てる間に、俺は家から制服とか衣類とか、必要なものを持って来ていた。 だけどスマホは、持ってるとゴリラズに俺の居場所を突き止められてしまうから、昨日もそうしたように、あえて置いて来たのだった。


「ああ、そうだな。 早く連絡しておいた方がいい!」


吉田君にも促され、俺はばーちゃんに危険を知らせる為、電話を掛ける。







泉 優子・・・彼女はあるマンションの一室の前で足を止めた。 丁度その時、スマホが電話を知らせる。 一瞬無視しようと思ったが、孫のあれんからの様な気がするので、取り敢えず出る。


「もしもし? あぁ、やっぱりあれんね。 そう、吉田君ちからなのね。
うふふ、どう? 吉田君は優しくしてくれる? 仲良くするのよ?
ばーちゃん、応援してるからね! うん、・・・うん?・・・
え・・・ 何言ってるの? 何で彼の事知ってるの? いずれ会わせるつもりだったけど、まだ話してなかったはず・・何言ってるのよ、バカバカしい! 彼は、サラを助けてくれた・・逆よ! あぁ、良いわ、この話は後でじっくり話しましょ。 ばーちゃん、今、外なんだよ。 用事があってね。 うん、うん、分かった。 会わないよ、うん。 はい、はい、じゃぁね、吉田君によろしくね!」


電話を切った後、泉 優子はフゥ――ッとため息をつく。 ・・・全く!
瑛子さん達の仕業ね・・あれんは素直だから、すぐに彼女等に騙されてしまう・・

“彼は危険だから絶対に会うな”だなんて・・! でも、大丈夫。 私がちゃぁんと説明してあげるから! 彼はサラの恩人・・・誤解が解ければ、あれんだってきっと彼に会いたいと思うはず! それに、今日はもう約束しちゃってるんだから、会わないわけにはいかないんだよ・・


そんな風に考えてると、目の前のマンションの扉がカチャリと開く。


泉 優子は、まるでやっと会えた恋人にでも会えたかのように、顔一杯に喜びを広げる。 「あら、ごめんなさい。 ちょっと電話に出ていたものだから・・」


「いいえ、さぁ、どうぞ。 お待ちしていましたよ、優子さん。」


「ええ、お邪魔します!」


泉 優子は、孫・あれんの必死の忠告を無視し、郷里 トモヤのマンションの一室にイソイソと入っていく・・・
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