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6 そういえ話

110 お義父様におねだり 2

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ソルと入れ違いになってしまった皇帝。

ガックリ肩を落とす。


「ああ~~~父上の所でしたか…
姿が見えないから先ずジョーカー王国を捜して次にハート公国‥」

「お前もすっかり『瞬間移動』が巧みになったな…
…ゴホン、や、やはりあの言い伝えは本当だったという事か…」


テネブラエ公の頬を染めさせた『あの言い伝え』とは――

『金髪金眼の者と交われば古代人が持っていた魔法の力を手に出来る』

――というもの。

『古代人の先祖返り』と言われている皇帝だが、『魔法』を使えることは無かった。

暗闇でも目が見えるとか、洒落にないならないほど勘が鋭いとか、影響力が強いとかはあったが…

それが今では瞬間移動、回復魔法等ソルと同じ魔法が使える様になっているのだ。


「そのようです。
――ただ、俺だからかもしれません。
彼女と肌を合わせる時、互いの魔力が互いの中をグルグルと駆け巡るのです。
もともと魔力の無い者ではそうはいかないでしょう」

「‥ほほう。
互いの魔力が互いの中をグルグルと駆け巡る…それはどんな心地がするのだ?」

「………」


片手で顔を覆い無言の息子にテネブラエ公は心配そうに声を掛ける。


「ルーメン?」

「…とんッッッでもないです。
狂いそうなほど気持ち良すぎ‥」

「ああいい!
聞くんじゃなかった!
お前も答えるな!
ホラもう帰れ!
会議があるんじゃないのか?」

「‥アそうでした。
では戻り‥」

「ちょっと待て!
…ソル姫にお前たちの子供の名付け親になる様言われたのだが…
お前はいいのか?」

「父上…はい。
ソルにそう提案された時は驚きましたが…
生まれてくる子にとって父上が唯一の祖父なのです。
父上にとっても初孫…
俺も父上に頼みたいと思います」

「‥‥だ、だが、名前は大切だ…
適当に付けるわけにはいかんだろう…
色々調べたりしたくてもここには大きな図書館など無いし…」


モジモジする父に皇帝は軽く答える。


「図書館ならカード宮殿に世界一のがあるじゃないですか。
という訳でカード宮殿に父上をお連れしますから、好きなだけ図書館で調べ物してください」

「‥え‥」
〈カッ〉


一瞬光に包まれたと思ったら、テネブラエ公はもう本に囲まれている。


「…うわッ!?
ここはカード宮殿内図書館か!
『北の離宮』の庭園に居たはずなのに‥」

「実は『モフモフの森の城』を父上が住める様に整えてあるんです。
ここからも近いし、そこを拠点に何日でも気が済むまで図書館に入り浸ってください」

「ルーメン…まさか私をカード宮殿に呼び戻す為に名付けの話を?」

「偶然ですよ…」

「そうか、有り難う。
実は助かった。
カード皇帝第一子の名付けだからな。
この図書館を大いに活用させてもらおう」

「その手では手伝いの者が要るでしょう。
適任者を寄こします」

「助かる!‥何から何まで有り難う」


皇帝は柔らかに微笑み図書室を後にする。

暫く後、手伝いにやって来たのはかつての側近――テネブラエ公が皇帝であった頃側近を務めていた者である。

真面目で実直な彼は事ある毎にスート王と対立した挙句、無実の罪を着せられ帝国領外へ追放されていた。


「ボヌス!‥おぉ!」

「覚えていてくださって光栄です。
腕は…大変お労しいことです」

「ああいや、ちょっと不便なだけで痛みやらは無いのだ。
それより、謝らせてくれ!‥私はスート王に騙されお前を追放してしまった…
申し訳ないッ!」

「そんな!‥顔をお上げください!
私は追放はされましたが、現皇帝陛下に色々取り計らっていただいて、つつがなく過ごして参りました」

「ルーメンが…
そうか、良かった…ああそうだった、ルーメンは『ボヌスは無実だ』と強く訴えていたっけ…あの頃ルーメンはまだ10代であったが、さすがに優秀なことだ」

「はい!‥大変に優秀な御方です!」

「私の息子なんだ♪」

「エ‥あ、はい」


いや、勿論存じ上げておりますが…??

…とポカンとするボヌスの目に映るのは息子が褒められてただただ嬉しそうなテネブラエ公。

あれ?‥この人誰に対しても血も涙も無い暴君だった人じゃなかったっけ?

そんな風に戸惑うボヌスも5分後にはテネブラエ公の為人を理解し、気持ちよく調べ物の手伝いをするのだった。


そうして1週間ほどが過ぎ、テネブラエ公は口に筆を銜え、何度も何度も練習した後、特別に作らせた色紙に名前をしたためる。


(ソル姫が『生まれるのは男の子ですわ』と予言したから、男の子の名を…
…ソル姫やルーメンが気に入らなければ採用されなくてもいい…ウン…)


ブツブツと独り言つテネブラエ公の元へボヌスが駆け込んで来る。


「おッ‥お生まれになったそうです!」

「ん?‥何が?」

「何って‥もちろん皇帝陛下と皇后陛下の第一子ですよ!」

「な‥なに‥!?
で…では……くっ…」


テネブラエ公はその場でガクリと膝をついてしまう。

顔は色を失い、その瞳からは涙が零れ落ちそうである。


(いくら休むように言ってもソル姫は『元気だから』と公務で飛び回るのを止めなかった――もっと強く言えばよかった…本当なら10ヶ月以上母親のお腹の中にいなければいけないのに、たった6か月ほどで生まれてしまっては……
可哀想に……)


テネブラエ公は遂にポロポロと涙を零し、体を震わせる。

ボヌスは興奮したまま叫ぶように続ける。


「はい!
元気な皇子殿下だそうです!
やはり皇后陛下の予言通り…男子名を考えておいて良かったですね!」

「えッ‥げ‥元気?‥無事なのかッ!?」

「はい!‥かなりの早産ですので随分とお小さいらしいですがお元気だそうで!」

「おぉ!‥
おぉぉぉぉッ‥!」


絶望の涙が歓喜の涙に変わり色の戻った頬を濡らす。


「良かった…!!
だが、油断してはならんッ‥赤子は弱いのだ‥さっきまで笑っていたのに…すやすやと眠っていたのに…気付いたら息が無かったという事もあるのだから!」


テネブラエ公の言葉を聞いてボヌスはハッと思い出す。

テネブラエ公は側妃が産んだ4人もの子を赤子のうちに失くしてしまっていた。

何とか成長出来たのは正妃――前皇后が産んだ現皇帝ルーメン・ルーナエ陛下だけだったのだ。

そのルーメン・ルーナエ陛下も子供の頃は体が弱く床に臥しがちだった…

その事を思い出したボヌスも何度も大きく頷いて同意する。


「そうですね!
何と言っても6か月ほどでお生まれになってしまったのです!
帝国中の医術師を集めて24時間体制で皇子殿下をお守りしなくては‥」

「あら、そんな事しなくても大丈夫よ?」


ボヌスの声を遮る様に響く美しい声にテネブラエ公とボヌスはギョッとする。

声のするドア方向をギ、ギ、ギと恐る恐る振り返る二人は、予想通りの声の主が立っていたにもかかわらず度肝を抜かれる――
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