上 下
105 / 117
5 皇帝は求婚を無かったことにされる

104 その男、半裸

しおりを挟む
目を開けていられない程眩しかった金色の光が淡く落ち着いた――

と思ったら?

『光の神殿』はとんでもないことになっている!?

壁と天井と床の素材であるガラスが消えている。

白い円柱状の柱も1本も残っていない。

神殿を構成していた全てが吹っ飛んで、吹きさらしの野原になってしまっている。

『跡形もない』とはこのこと。

幸い、床で伸びていた神殿騎士たちは吹き飛ばされていない。

建物だけが消失し、人的被害はゼロの様だ。


――が、


「えッ!?えッ!?」
「何コレここドコ?」
「ハッ皇帝陛‥」
「皇‥帝‥陛‥下?」

「「「「!?」」」」

「「「「‥き」」」」


きゃぁあぁあぁ~~ッ


先程の『春の庭園』での突発的局地的災害級異常気象発生時にも気丈にも声を上げなかった4公女が絶叫する!

どうやら、『春の庭園』にいた全員が、ここ『光の神殿』跡地(?)へソルと共に瞬間移動して来た様である。


「見てはなりませんッカリー様ッ」
「ダリア様ッ身を乗り出さないでくださいッ」
「ちょ‥姫様ッ口元!ヨダレッ」
「ペルシクム様ッお気を確かにッ」


だが、4公女とその侍女たちがわぁわぁ言っているのは瞬間移動が理由ではない。

瞬間移動なんてありえない事が自分の身に起こった――そんな事が吹っ飛ぶほどの目の前の状況に騒いでいるのである。

端的に言えば。

目の前の皇帝陛下が半裸なのである…

しかも。

下半身が!

白藤色のシャツに藤紫の室内着をふわりと羽織ったいかにも『セレブの休日』的なラフで素敵な上半身。

丸出しの下半身。


美貌の処女軍団(*オクサリス除く)である4公女がパニックになるのは当然の事であろう。

しかも。


「ハッ‥ソル姫!?」
グインッ!!


「「「「ひッ」」」」


ひゃぁあぁあぁ~~ッ


「はッ!?なッ!?」
「まぁッ…まぁぁぁ」
「スッ‥スゴイわ‥」
「皇‥帝‥陛‥下ッ」

「「「「姫様見てはなりません~~~ッ」」」」


ソルに気付いた皇帝のイチモツが大ッきくなっちゃったことで女性たちのパニックが最高潮に達する!

そんな『男体の神秘』に大騒ぎの女性達に神官長が我に返り――


「何故‥どうやって‥
いえ、とにかく今は一刻も早くこの神殿からお離れください!
あなた方はこの神殿に居てはいけない、許されていない方々です!
さあ、こちらへ‥
‥あ‥の?」


誰も一歩も動こうとしない…


「ちょ‥レディたち‥
ああッ、ダメだ!
パニックながらも皆陛下のスゴいアレに目が釘付けだッ!
‥たく女性は‥
ならば男性たち!
君達は宮廷騎士だね?
女性達を連れて今すぐこの神聖なる神殿から…オイ、君たち!?」


宮廷騎士達は茫然自失…微動だにしない…出来ない…

彼等は皇帝に憧れ、皇帝を守る為に近衛騎士になるのが目標の若者たち。

とは言え高い能力を要求される近衛騎士にはなかなかなれず。

憧れの陛下とは話すなどもってのほか、間近にその姿を見ることも叶わず、遥か遠くにその姿を垣間見るだけでも幸せ――な現状。

今目の前、ありえない距離に陛下がおわし、しかもありえないお姿なのである。

繊細で気品に溢れた美しく整った顔に神秘的に輝く銀眼銀髪が光を集めて――どんな絵師にもその神秘的で尊い素晴らしさを表現しきれないであろう上半身。

猛々し過ぎる下半身。

今、ソル姫と見つめ合い、目を見開き微動だにしない皇帝陛下はまるで彫像の様であるが、その下半身がそれを完全否定している‥‥

そんな状況が理解できない者、憧れを強くする者、立ったまま気絶している者――

いずれにしろ宮廷騎士達は完全停止状態に陥っている。


――大体、神官長はいまだに『神殿』と言っているが、もはや湖の真ん中の小島なのだから、『離れろ』と言われても困るだけであろう。


ソルは――

彫像っぽい男の熱い生身の息吹を目の当たりにしながら、やはり完全停止状態…

その心中はというと…


(えぇと…何が起こったのかしら…集中しすぎて意識が飛んでしまったみたいね…

瞬間移動…私よね…こんな事初めてだわ…しかもあの場に居た全員を巻き込んで…

変ね…体内に『力』は感じてもこんな風には使えなかったのに…

昨日、記憶が戻ってからよね…

そうだわ、記憶を失う前――少しずつ分かり始めていた『力の使い方』…

それを思い出したのよね…

あの頃…30年前は『力の使い方』は分かっても『力』自体がそれ程ではなかった。

あの後、記憶を失くした後も何度も何度も死にかけた事で『力』が強くなってしまったのかしら――)


…どうやら思考は現実逃避中の様だ…


「‥ッ、こんな時でも君に反応してしまう」

「‥ハッ‥」


漸く時を動かす皇帝にソルも『今じゃない思考』を止めるが、皇帝の下半身が理解不能で言葉を発することが出来ない。

8才で修道院に入ったソルは、幼い頃に『子供向け閨教育』を受けただけなので、性に関する知識が壊滅的なのだ――


「そんな死にそうな顔をしなくていい…
大丈夫、コレは――」

「‥アッ、何を!?
‥駄目ッ!」


ソルの叫びを無視して、皇帝は握っていた短刀を己のイチモツへと振り下ろす――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

処理中です...