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4 戦い

67 おやすみのキス

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扉まで6メートルほど残したところでソルが足を止める。

扉の真ん前まで送る心算でいた皇帝は不思議に思うが。


「お送り下さいましてありがとうございます」

とソルが言うので、


「ああ、‥では明日」

と短い返事を返す。

ソルに夢中な皇帝は言いたい事は山ほど…気の利いた愛の言葉を連ねたいのが本音だが何をどう言っていいのか分からない…結果、冷淡にも聞こえる返事となる。


「え?」とソル。

「ん?」と皇帝。


くすっ‥


ソルが笑うので、皇帝の心臓が跳ねる。


「『おやすみ』の挨拶を頂いてませんわ」

「え?…………………
あ、ああ、おやす‥」

スルリと細く白いものが皇帝の首に伸びる。

しなやかに首に回されたそれがソルの腕だとぼんやり気付く皇帝。

ソルのドレスは所謂ローブ・デコルテで、肩から胸の上部まで露出したドレスだが、ドレスの上に薄手のマントを着ている為、その肌は隠されていた。

ソルの肌を他の誰にも見せたくなくて皇帝が衣裳係にそのように注文をつけ、衣裳係は『折角の魅力を隠すなんてどうかしている』と思いながらも苦肉の策で急遽マントを拵えたのだ。

だが、ソルが手を皇帝の首に回す事でマントが左右に開き、隠れていた腕も首から胸までの肌も露わになり、皇帝はその輝く素肌に眼を射られる。


「まぁ素敵…月が見えますのね」


廊下の天井の一部が硝子になっていて、昼は日光が、夜は月光が差し込むのだ。


「子供の頃、月光のもと宝探しをしましたね…わたくしが隠して、ルー様が探す…覚えていて?」


耳を刺激する気持ちの良い声が何を言っているのか判断するのが難しい。

キラキラ輝きを放ちながら蕩ける様な金の瞳に至近距離から見つめられている。

判断力が鈍らない男がいるワケが無い。


『ルー様』とは俺の事だな…


「ああ、覚えている…俺はいつも見つけられなかった」

「今なら見つけられますわ」

「‥ッッ!?!」


客室の前で並ぶ7名の侍女と客室を守る女性騎士4名と皇帝の側近2名と近衛騎士3名はハッとしてうっかりジーッと見た後、真っ赤になって顔を伏せる。

行った――

ジョーカー王女殿下から行った――

皇帝陛下の唇にご自分の唇を重ねて、開いて――

皇帝陛下が何かに動じているのを見た事無いが、今まさにメチャメチャ動じて翻弄されて夢中に――骨抜きになっている!

側近と近衛騎士達はレア過ぎる皇帝の姿に涙目で感動する。


ああ、あつい!

廊下の温度も湿度も一気に上がって、汗ばむ様な…

皇帝陛下に春が来られたのだ!

季節も正に春――とは言えまだ夜になると肌寒いこの季節にここだけ春爛漫だ!


側近と近衛騎士達を熱くさせながら美し過ぎる二人の濃密で濃厚で蕩ける様なキス――そのままベッドインしない方がおかしいくらい熱いキスはしばらく続いた後――

ソルが唇を離してスッと皇帝から数歩離れる。

真っ赤な顔で呆けた様にソルを見つめる皇帝。

やはり真っ赤に頬を染めたソルが言う。


「あの…失礼致しました…『おやすみのキス』なんて初めてで勝手が分からず…お気を悪くされてなければ良いのですが」

「‥ん‥」

「お送り下さいましてありがとうございます」

「‥ん‥」

「では、失礼致します…おやすみなさいませ」


何とか持ち直した侍女達が恭しく客室のドアを開け、ソルが入って行く。

侍女達がその後に続き、ドアがパタンと閉まり、いまだ真っ赤な顔の女性騎士達が客室を守る為にドアの前に並ぶ――

と同時に、突如皇帝が走り出す!

「付いて来い!」

側近と近衛騎士達の耳に低い声が聞こえた時は既に皇帝は廊下の突き当りの階段を降り始めており――

慌てて皇帝の後を追う側近と近衛騎士達!

突然の意味不明の行動――

皇帝に何が起こったのか分からない。

足がバカ速くて追いかけるのに必死だ。

どうやら皇帝は月光城へ向かっている様だが――


え、狂った!?
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