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2 四花繚乱
55 父娘の相談 2
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イキシアは宮廷騎士によってカード宮殿敷地内の牢に投獄されたが、ハート公国が引き取って、罪人としてハート公国へ移送中である。
ハート公国に着けば投獄の後極刑となる。
「父親と話せる様取り計らってある」
「お父様は身に覚えがない事なのですね?」
「当たり前だ。
あれの父親は庭師だ。
ビックリするほどよく似ているぞ。
あれの母親は夫との子を何故か私の子だと言い出した。
その頃から臥せる様になったというから、病の症状の一つかも知れん。
その妄言を何故娘は信じたのか。
母親の様子がおかしい事も、父親に自分がソックリな事も明白だったのに」
「そう思いたかったのでは?
君主の隠し子である方が庭師の娘であるよりあの異様に高いプライドを満足させたのでしょう――お父様、本当にそのメイドとは何も無かったのね?」
「私の好みは分かっているだろう?
妄言を言い出した時に1度会ってみたが酩酊していても手を出す事はしないと断言できる――それほど私の好みとは真逆だった」
ハート公王の好みは奔放でグラマラスな美女だ。
でも、そうなると――
「あの御方――お、お母様だってお父様の好みとは違うわよね…」
「――彼女は…唯一なんだ…出会った瞬間そう分かった――好みとかそういうのは超越した存在っていうか――唯一の特別っていうか‥」
「お父様…わたくし、今ならお父様のそのお気持ち、理解出来ます。
だから、頑張ります。
皇帝陛下に選んで頂けるように頑張ります」
「え?…何で皇帝陛下の話に?――いや、何でもいい、姫がやる気になってくれるのはありがたい事だ」
「では、わたくしはギリギリまでドレスを頑張って晩餐会場に向かいますのでこれで失礼します」
「ああ、私は先に晩餐会場に向かうとしよう」
この時、二人ともハート公妃の事は何一つ心配していなかった。
彼女は始終立派な佇まい、態度、様子で、謁見前の広間でも出しゃばる事無く、かと言って無口でもなく、感じよく他公王家との会話に入り、何ならさり気なく盛り上げてもくれていた。
晩餐会でも同様に目立つ事無く悪目立ちもせず恙なくその場に居てくれるだろうと当たり前に信じる事が出来ていたのだ――
そして今――
その彼女がいない――
「彼女は…誰だったというんだ…」
コン、コン、コン
ハート公王の力ない呟きに重なる様に。
晩餐会場に入る前の待合室――の奥の小部屋の扉がノックされる。
床の1点を見つめていた父・ハート公王と、顎に指をあてて俯き不安気に瞳を揺らしていた娘・ハート公女はハッとして顔を上げる。
「失礼致します。
大変お待たせ致しました。
どうぞ晩餐会場に御移動お願い致します」
ドアの所でそう声を掛ける案内の者にペルシクムは駆け寄る。
「待って、まだ母が」
そう訴えるペルシクムに、案内の者は表情を変えずに言葉を継ぐ。
「彼の御方から『ご心配無く』との御言付けをお預かりしております」
ハート公国に着けば投獄の後極刑となる。
「父親と話せる様取り計らってある」
「お父様は身に覚えがない事なのですね?」
「当たり前だ。
あれの父親は庭師だ。
ビックリするほどよく似ているぞ。
あれの母親は夫との子を何故か私の子だと言い出した。
その頃から臥せる様になったというから、病の症状の一つかも知れん。
その妄言を何故娘は信じたのか。
母親の様子がおかしい事も、父親に自分がソックリな事も明白だったのに」
「そう思いたかったのでは?
君主の隠し子である方が庭師の娘であるよりあの異様に高いプライドを満足させたのでしょう――お父様、本当にそのメイドとは何も無かったのね?」
「私の好みは分かっているだろう?
妄言を言い出した時に1度会ってみたが酩酊していても手を出す事はしないと断言できる――それほど私の好みとは真逆だった」
ハート公王の好みは奔放でグラマラスな美女だ。
でも、そうなると――
「あの御方――お、お母様だってお父様の好みとは違うわよね…」
「――彼女は…唯一なんだ…出会った瞬間そう分かった――好みとかそういうのは超越した存在っていうか――唯一の特別っていうか‥」
「お父様…わたくし、今ならお父様のそのお気持ち、理解出来ます。
だから、頑張ります。
皇帝陛下に選んで頂けるように頑張ります」
「え?…何で皇帝陛下の話に?――いや、何でもいい、姫がやる気になってくれるのはありがたい事だ」
「では、わたくしはギリギリまでドレスを頑張って晩餐会場に向かいますのでこれで失礼します」
「ああ、私は先に晩餐会場に向かうとしよう」
この時、二人ともハート公妃の事は何一つ心配していなかった。
彼女は始終立派な佇まい、態度、様子で、謁見前の広間でも出しゃばる事無く、かと言って無口でもなく、感じよく他公王家との会話に入り、何ならさり気なく盛り上げてもくれていた。
晩餐会でも同様に目立つ事無く悪目立ちもせず恙なくその場に居てくれるだろうと当たり前に信じる事が出来ていたのだ――
そして今――
その彼女がいない――
「彼女は…誰だったというんだ…」
コン、コン、コン
ハート公王の力ない呟きに重なる様に。
晩餐会場に入る前の待合室――の奥の小部屋の扉がノックされる。
床の1点を見つめていた父・ハート公王と、顎に指をあてて俯き不安気に瞳を揺らしていた娘・ハート公女はハッとして顔を上げる。
「失礼致します。
大変お待たせ致しました。
どうぞ晩餐会場に御移動お願い致します」
ドアの所でそう声を掛ける案内の者にペルシクムは駆け寄る。
「待って、まだ母が」
そう訴えるペルシクムに、案内の者は表情を変えずに言葉を継ぐ。
「彼の御方から『ご心配無く』との御言付けをお預かりしております」
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