上 下
40 / 117
2 四花繚乱

39 30年越しの

しおりを挟む
「‥会いたかった‥!
ソル姫――あぁ!」


皇帝は絶句する。

謁見の時はベールを被っていた為、その姿を見ることは出来なかった。

ただ、凛とした立ち姿、纏う空気で『彼女に間違いない』と確信したのだった。

今、ソルはベールを被っていない。

『月光の間』への近道――薄暗く細い秘密の通路でどこかに引っかけてしまい、考えてみればベールを被る必要もないのでそのまま置いて来たのだ。

ベールを外したソルは、女神の様に美しく尊い姿である。


「俺と同い年だなんて信じられない…!
まるで魔法の様だ…
記憶の中の美しい少女がそのまま成長し、一番美しい時のまま時間を止めてしまったかのようだ」

「まぁ?――そのお言葉、そのままお返し致しますわ。
銀の髪に銀の瞳は魔法を使えたという古代人の王の先祖返りのお姿ですわね。
陛下こそ、魔法を御使いね?」

「それを言うなら金の髪に金の瞳だって古代人の王の先祖返りだ。
――なるほど、君は30年前俺に魔法を掛けたのだな?
だから俺は周りに嗤われ心配され呆れられても君しか考えられなかったんだ」

「30年前のわたくしは、魔法なんて使えませんでしたわ」

「これが魔法でなくて何と言う?
ホラ、今もどんどん強く――抗えない…永遠に解けない魔法だ。
無自覚でこんな魔法を使うなんて君は呆れるほど危険な女性だ」

「き、危険‥」

「あ、いや、言葉が違うか‥うぅ‥」


皇帝は言葉を詰まらせる。

心の準備は出来ていたはずなのに、いざソルを目の前にすると幼き日の自分に――

上手く気持ちを伝えられない不器用な少年に戻ってしまう…


(臆病者!‥逃げてはいけない、彼女を捜すのに尽力し彼女の魅力に命を散らした『影』に顔向け出来ない――不器用でも、みっともなくても気持ちを伝えねばならない)


皇帝はソルが好きすぎて逆に彼女から目を逸らしてしまいそうな自分を叱咤し、震える唇を開く。


「‥相変わらず君の圧倒的な魅力は俺を口下手に、不器用な男にしてしまう。
30年、君を忘れた事は無いのに嬉し過ぎて頭が真っ白になってしまっている。
伝えるすべは言葉しかないのにどう言えば伝えられるのか分からない。
言葉の無力さに――いや、自分の無能さに委縮するしかない」

「ルー‥カード皇帝陛下、わたくしは充分ありがたいと思っております。
こうして会って下さっただけで充分ですわ」

「結婚して欲しい」


ソルの足元に跪きその手を取ったままだった皇帝。

ソルの手に額を当て、声を絞り出す。


「―――え…」

「心臓が煩すぎて思考できないからド直球で行く。
結婚して欲しい」


『結婚して欲しい』?――2度言われてもソルには信じられない――だって…


「あの、わたくし‥」

「30年前、君に恋をした。
――あの賭けを覚えているね?
君が手紙に書いてくれた――
『君の8才の誕生日に、君が喜ぶプレゼントを贈る。
そのプレゼントが気に入ったら俺の願いを叶えてほしい』という」

「…気に入らなかったら、月をクッキーにしてわたくしに下さるのでしたね」

「賭けはまだ決着していない。
君は誕生日前日に攫われてしまったから」

「ええ、月のクッキーを食べ損ねたままです」

「――うん、決めつけているね。
だが、俺にも自信がある。
30年間大切にとっておいた君への誕生日プレゼントは――ああ、丁度帰って来た」

「え?‥帰って?
――ハッ‥まさかッ」


窓の外に視線を向けた皇帝。

その視線を追い掛けたソルはその美しい目を見開いた――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

処理中です...