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2 四花繚乱
31 ハート公女ペルシクム 1
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カード帝国宮殿の見事な庭園を歩くのはハート公女ペルシクム。
皇帝との謁見が終わり一度『西の城』に入ったものの頭が真っ白で。
父公王は大喜びで大興奮してるし自分も興奮しているのかお茶もお菓子も喉を通らないし――
とにかく風にあたって気持ちを落ち着けようと『カード宮殿滞在のしおり』に『いつでも出入り自由』と書いてあった庭園を散歩しようと『西の城』を出て来たのだ。
庭園を吹き抜ける風は微かに花の香りを纏い涼やかで心地いいがペルシクムの熱った頬を冷やすには至らない。
(ビックリ、した…
あんなに美しい御方が存在するなんて…!
噂に聞いていた銀眼銀髪があんなにも神秘的で美しい光を放つなんて…
背も高くスラリとしてしかも逞しく魅力的。
『38才のオジサン』だなんてとんでもない!
若々しく輝きながらも『若者』には無い威厳もあって…
とにかくご立派で尊くて――あぁ、信じられない!
あの美しい御方が…)
「…本当なんですか?
皇帝陛下が姫様に駆け寄ろうとして近衛騎士に止められたって。
まるで信じられないんですけど」
ペルシクムの2メートル後方から不貞腐れた様な声を出したのはペルシクムの専属侍女であるイキシア。
ペルシクムより3才年上の19才で、7年前からペルシクムの専属メイドとして仕え、1年前に試験に合格し専属侍女となった。
母親は数年前に亡くなっているがやはりメイドだった。
侍女の不機嫌な声を聞いて高揚していたペルシクムの心が一気に冷える。
本当は一人で散歩したいのだが公女がそういうワケにもいかず、イキシアと護衛騎士の2名が後ろに控えているのを思い出して気が重くなる。
(何で不機嫌なのよ?
聞けば皇帝陛下があの様な態度に出られたのはわたくしに対してだけ。
わたくしにだけ興味を示されたのよ?
普通の侍女だったら喜ぶところじゃないかしら?
最初に通された大広間で他の公女達は侍女と姉妹か親友の様に親しくしていた。
冷え冷えとしているのはわたくしとわたくしの侍女達だけ。
特にイキシアにはいつも思う。
まるでわたくしを憎んでいる様だと…)
「本当に決まってるじゃないですか!
皇帝陛下は姫様に一目惚れなさったんですよ!
きっと皇帝陛下は姫様を選ばれます!
ハート公国にとってこんなに嬉しい事はありません!」
普段口をきいた事も無い護衛騎士が興奮してイキシアに捲し立てる。
(そう…それが普通の態度よ…なのにどうしてイキシアは…)
「だって…皇帝陛下は38才でいらっしゃるんでしょう?
姫様は16才で…しかも年齢よりずっと幼いご様子ですからね。
女性としてではなく、何か可愛い動物とかに対する興味?を持たれただけかと」
(――ッッ!)
嫌な――
本当に嫌な痛いところをつく…
実はペルシクム本人もその可能性は考えていた。
だから手放しで喜ばない様自分に言い聞かせているのだが、それでも嬉しさが込み上げてフワフワしていたのに――
「‥イキシア、お前はわたくしが幸せになるのが許せない様ね?
わたくし、何かお前にしてしまったのかしら?
もしそうなら、今すぐ専属侍女をやめてくれて構わないのよ?」
「――はぁッ?」
イキシアが不快を滲ませた驚きの声を上げる。
いつも何を言っても黙っているペルシクムが突然言い返して来たのだ。
しかも強めに。
「‥まぁッ!
いつもは言葉を話せないのかと思うくらい寡黙でいらっしゃるのに…
随分と強気におなりですのね?
もう皇后陛下になられた御積もりなのかしら?」
頭に血が上ったイキシア。
自分の周りに居る女子――他の侍女達に対する様に強い口調で言い返す。
睨みながらこんな風に言えば、彼女達はメソメソと泣き出し謝って来るのだ。
だが…
皇帝との謁見が終わり一度『西の城』に入ったものの頭が真っ白で。
父公王は大喜びで大興奮してるし自分も興奮しているのかお茶もお菓子も喉を通らないし――
とにかく風にあたって気持ちを落ち着けようと『カード宮殿滞在のしおり』に『いつでも出入り自由』と書いてあった庭園を散歩しようと『西の城』を出て来たのだ。
庭園を吹き抜ける風は微かに花の香りを纏い涼やかで心地いいがペルシクムの熱った頬を冷やすには至らない。
(ビックリ、した…
あんなに美しい御方が存在するなんて…!
噂に聞いていた銀眼銀髪があんなにも神秘的で美しい光を放つなんて…
背も高くスラリとしてしかも逞しく魅力的。
『38才のオジサン』だなんてとんでもない!
若々しく輝きながらも『若者』には無い威厳もあって…
とにかくご立派で尊くて――あぁ、信じられない!
あの美しい御方が…)
「…本当なんですか?
皇帝陛下が姫様に駆け寄ろうとして近衛騎士に止められたって。
まるで信じられないんですけど」
ペルシクムの2メートル後方から不貞腐れた様な声を出したのはペルシクムの専属侍女であるイキシア。
ペルシクムより3才年上の19才で、7年前からペルシクムの専属メイドとして仕え、1年前に試験に合格し専属侍女となった。
母親は数年前に亡くなっているがやはりメイドだった。
侍女の不機嫌な声を聞いて高揚していたペルシクムの心が一気に冷える。
本当は一人で散歩したいのだが公女がそういうワケにもいかず、イキシアと護衛騎士の2名が後ろに控えているのを思い出して気が重くなる。
(何で不機嫌なのよ?
聞けば皇帝陛下があの様な態度に出られたのはわたくしに対してだけ。
わたくしにだけ興味を示されたのよ?
普通の侍女だったら喜ぶところじゃないかしら?
最初に通された大広間で他の公女達は侍女と姉妹か親友の様に親しくしていた。
冷え冷えとしているのはわたくしとわたくしの侍女達だけ。
特にイキシアにはいつも思う。
まるでわたくしを憎んでいる様だと…)
「本当に決まってるじゃないですか!
皇帝陛下は姫様に一目惚れなさったんですよ!
きっと皇帝陛下は姫様を選ばれます!
ハート公国にとってこんなに嬉しい事はありません!」
普段口をきいた事も無い護衛騎士が興奮してイキシアに捲し立てる。
(そう…それが普通の態度よ…なのにどうしてイキシアは…)
「だって…皇帝陛下は38才でいらっしゃるんでしょう?
姫様は16才で…しかも年齢よりずっと幼いご様子ですからね。
女性としてではなく、何か可愛い動物とかに対する興味?を持たれただけかと」
(――ッッ!)
嫌な――
本当に嫌な痛いところをつく…
実はペルシクム本人もその可能性は考えていた。
だから手放しで喜ばない様自分に言い聞かせているのだが、それでも嬉しさが込み上げてフワフワしていたのに――
「‥イキシア、お前はわたくしが幸せになるのが許せない様ね?
わたくし、何かお前にしてしまったのかしら?
もしそうなら、今すぐ専属侍女をやめてくれて構わないのよ?」
「――はぁッ?」
イキシアが不快を滲ませた驚きの声を上げる。
いつも何を言っても黙っているペルシクムが突然言い返して来たのだ。
しかも強めに。
「‥まぁッ!
いつもは言葉を話せないのかと思うくらい寡黙でいらっしゃるのに…
随分と強気におなりですのね?
もう皇后陛下になられた御積もりなのかしら?」
頭に血が上ったイキシア。
自分の周りに居る女子――他の侍女達に対する様に強い口調で言い返す。
睨みながらこんな風に言えば、彼女達はメソメソと泣き出し謝って来るのだ。
だが…
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