上 下
32 / 117
2 四花繚乱

31 ハート公女ペルシクム 1

しおりを挟む
カード帝国宮殿の見事な庭園を歩くのはハート公女ペルシクム。

皇帝との謁見が終わり一度『西の城』に入ったものの頭が真っ白で。

父公王は大喜びで大興奮してるし自分も興奮しているのかお茶もお菓子も喉を通らないし――

とにかく風にあたって気持ちを落ち着けようと『カード宮殿滞在のしおり』に『いつでも出入り自由』と書いてあった庭園を散歩しようと『西の城』を出て来たのだ。

庭園を吹き抜ける風は微かに花の香りを纏い涼やかで心地いいがペルシクムの熱った頬を冷やすには至らない。


(ビックリ、した…
あんなに美しい御方が存在するなんて…!
噂に聞いていた銀眼銀髪があんなにも神秘的で美しい光を放つなんて…
背も高くスラリとしてしかも逞しく魅力的。
『38才のオジサン』だなんてとんでもない!
若々しく輝きながらも『若者』には無い威厳もあって…
とにかくご立派で尊くて――あぁ、信じられない!
あの美しい御方が…)


「…本当なんですか?
皇帝陛下が姫様に駆け寄ろうとして近衛騎士に止められたって。
まるで信じられないんですけど」


ペルシクムの2メートル後方から不貞腐れた様な声を出したのはペルシクムの専属侍女であるイキシア。

ペルシクムより3才年上の19才で、7年前からペルシクムの専属メイドとして仕え、1年前に試験に合格し専属侍女となった。

母親は数年前に亡くなっているがやはりメイドだった。

侍女の不機嫌な声を聞いて高揚していたペルシクムの心が一気に冷える。

本当は一人で散歩したいのだが公女がそういうワケにもいかず、イキシアと護衛騎士の2名が後ろに控えているのを思い出して気が重くなる。


(何で不機嫌なのよ?
聞けば皇帝陛下があの様な態度に出られたのはわたくしに対してだけ。
わたくしにだけ興味を示されたのよ?
普通の侍女だったら喜ぶところじゃないかしら?
最初に通された大広間で他の公女達は侍女と姉妹か親友の様に親しくしていた。
冷え冷えとしているのはわたくしとわたくしの侍女達だけ。
特にイキシアにはいつも思う。
まるでわたくしを憎んでいる様だと…)


「本当に決まってるじゃないですか!
皇帝陛下は姫様に一目惚れなさったんですよ!
きっと皇帝陛下は姫様を選ばれます!
ハート公国にとってこんなに嬉しい事はありません!」


普段口をきいた事も無い護衛騎士が興奮してイキシアに捲し立てる。


(そう…それが普通の態度よ…なのにどうしてイキシアは…)


「だって…皇帝陛下は38才でいらっしゃるんでしょう?
姫様は16才で…しかも年齢よりずっと幼いご様子ですからね。
女性としてではなく、何か可愛い動物とかに対する興味?を持たれただけかと」


(――ッッ!)


嫌な――

本当に嫌な痛いところをつく…

実はペルシクム本人もその可能性は考えていた。

だから手放しで喜ばない様自分に言い聞かせているのだが、それでも嬉しさが込み上げてフワフワしていたのに――


「‥イキシア、お前はわたくしが幸せになるのが許せない様ね?
わたくし、何かお前にしてしまったのかしら?
もしそうなら、今すぐ専属侍女をやめてくれて構わないのよ?」

「――はぁッ?」


イキシアが不快を滲ませた驚きの声を上げる。

いつも何を言っても黙っているペルシクムが突然言い返して来たのだ。

しかも強めに。


「‥まぁッ!
いつもは言葉を話せないのかと思うくらい寡黙でいらっしゃるのに…
随分と強気におなりですのね?
もう皇后陛下になられた御積もりなのかしら?」


頭に血が上ったイキシア。

自分の周りに居る女子――他の侍女達に対する様に強い口調で言い返す。

睨みながらこんな風に言えば、彼女達はメソメソと泣き出し謝って来るのだ。

だが…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。 彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。 そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。 この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。 その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

処理中です...