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2 四花繚乱

23 スペード公女カリステプス 4

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「わたくし、18才の今まで恋が何なのかまるで想像もつかなかったのよ。
人を好きになるって事が、わたくしには実現不可能な事に思えていたの。
だって、みんな小さな頃に初恋を済ませるでしょ?
わたくしにはそれがなかったから、もしかして恋愛する為に大切な何かをお母様のお腹の中に忘れて生まれてしまったのかしらと――だからその分お母様は恋愛ばかりしているのじゃないかって本気で思っていたの。
でも…皇帝陛下のお姿を目にした瞬間から、わたくしは――
本当にこれが恋なら、わたくしはもう充分幸せ…
自分は不完全だから恋が出来ないのだとずっと思い悩んで来たのだもの。
恋が出来ただけで、わたくしは嬉しくて幸せなのよ」


そう言って瞳を伏せるカリステプスの熱った頬を一粒の涙が伝う。


「姫様…」


アマリリスは胸が締め付けられる。

主がクールな表情の下に隠していた今まで見せた事の無い表情…

心の内に秘めていた不安…

クールで優秀で、グルメやファッションよりも勉強が好きで話題のお芝居を見に行くより図書館に行きたがる――

年頃になっても恋愛にはまるでやる気を見せず『メンクサ』とボヤいて来た――

そんな公女の中に実は恋に憧れ不安に慄く少女が居たなんて――

私は一体、姫様の何を見て来たのかしらとアマリリスは自省する。

そして何としても主の初恋を成就させたいと願う。


「…ですが姫様、4人の公女の誰かが皇后となるのですよね?
姫様じゃなかったらあの3人のうちの誰かが皇帝陛下とラブラブに‥」
「イヤッ!!」

「…ですよね?
だったらやる気を出して下さい!
絶対勝つと覚悟を決めて下さい!
そうでなければあの3人に勝てるはずがありません!」

「そうね…
3人共美人でそれぞれ良さがあるわ…
‥と言ってもハート公国のペルシクム姫は無いんじゃないかしら。
クローバー公国のオクサリス姫と同じ16才だけど見た目が幼過ぎるわ。
若獅子の様に見えても皇帝陛下は38才。
顔だけ見ると10才位にしか見えないペルシクム姫は問題外よね」

「ですね。
申し訳ない事ですがペルシクム姫は除外でいいと思います。
となると敵はダイヤ公国のダリア姫とオクサリス姫。
ダリア姫は17才…
姫様がクール美人ならダリア姫はホット美人。
乗馬が趣味で時には騎士団に混じって剣術を楽しむそうですね。
どちらもなかなかの腕らしいです。
一方で経済問題に強くて自分で店を経営しているらしいです。
健康関連グッズを開発、販売してるとか…凄いですね」

「自分で店を?
名前貸しじゃないの?」

「ガッツリやっていて成功させてるらしいですよ。
侮れませんね…
とは言え、一番警戒しなければならないのはオクサリス姫かなぁと思います」

「‥あーーー、彼女」

「はい、一見ボ~~~ッとした不思議ちゃんキャラですが、男性受けはかなりいいと――ミステリアス系美人というヤツですね。
彼女に微笑まれた男性は魔法にかかった様に恋に落ちてしまうらしいですよ。
未婚既婚に拘わらず‥」

「こっわ!
何ソレ魔女?
16才よね!?
どうしましょうアマリ、わたくしあの二人に勝てる気がしないわ!
炎の様に情熱的な美女に捉えどころのない不思議美女…
男性が興味を持たないはずが無いわ…」

「いいえ姫様!
さっきも言いましたが、姫様が一番有利なのは変わりません!
皇帝陛下が選ぶのは『恋の相手』ではなく共に帝国を統べて行く『皇后』なのです!
一番に要求されるのは後継問題…速やかに妊娠出産出来る成熟した体。
次に求められるのは帝国を統べる皇帝陛下の隣りに立てるだけの知性と品格。
どれをとっても姫様が抜きん出ています!」

「‥そうなの?
根暗で勉強ばかりして来たわたくしが?
一番年上ではあるけど貧乳‥
あぁいえ、今はアマリの言葉を信じるわ!
縋らせてもらうわ!
あの美しく尊い御方の隣に立つ為に!」

「はい!姫様!」


スペード公国公女カリステプスが笑顔とやる気を取り戻した刹那!

その情報が舞い込んで来る。

他の公女達もほぼ同時にその情報を耳にして。


思いもよらない事態に4公女達は心を乱す事となる――
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