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1 「運命を… 動かしてみようか」
12 目玉男爵に売られた姉弟
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「違うわよ、あれは馬車の音。アス様は馬車は使われないわ」
馬の蹄が聞こえる度に窓に寄り、外を窺う弟に呆れた声を掛けるアザレア。
「全く…少しは落ち着きなさいよ。アス様は修道院のお務めを済ませてからいらっしゃるのだから、まだもう少し掛かるはずよ」
「そう言う姉上も何度お茶の為の湯を温め直す気ですか?」
弟レケンスが言う様に、アステリスカスの訪問にソワソワしているのはアザレアも同じこと。
修道院の孤児院を出てしまってからはアステリスカスがパトロールで酒処『ラルグス』に寄る時ぐらいしか会えない。
忙し過ぎるアステリスカスがアザレアの家を訪ねてくれる事など滅多にないのだ。
だから『姉の家で大切な相談がある』旨をアステリスカスに伝えたと言った弟には『でかした』と感謝し、頬を染めてお茶の準備を整え、今か今かとその到着を心待ちにしている。
アザレアとレケンス。
同じ色を持つ美しい姉弟がアステリスカスと出会ったのは今から16年前。
アザレア10才、レケンス9才の時だ。
伯爵家の四女、三男であった二人は、賭け事に嵌った伯爵夫妻が作った莫大な借金返済の為に売られ、怪しげな研究所の様な所に連れられて来た。
地下を広く掘った空間だと思われるそこは異様な世界だった。
広い空間の奥に鉄製の大きなベッドが据えらえており、そこに寝かされている女性は両手両足をベルトでベッドに拘束されている。
ベッドから少し離れた所に顔を両手で覆い蹲る人たちがいて――
呻き声、薬品と生臭さが混じった異臭。
「やめてやめてッいやぁッい‥ぎゃぁぁぁぁぁーーー…」
ベッドに拘束された女性は変な器具を持った男に両目とも目玉をくり抜かれてしまった。
アザレアとレケンスはそれを目の前で見せられた。
女性の――そして女性同様目をくり抜かれたのであろう蹲る人たちの獣の様な呻き声が響いている。
あまりの悲惨さ恐ろしさに、目を覆い耳を塞ぎたくても姉弟は両手を後ろ手に縛られており茫然と立ち尽くすしかない。
『お前たちの忌々しい眼が初めて役に立った』『そうね、こんなに高値で売れるなんて』――両親からの最後の言葉…
売られた者が何をされるのか――両親は知っていて自分たちを売ったのだ。
きょうだいの中でアザレアとレケンスだけが美しい色(鴇色の髪に赤紫の瞳)、そして整った容姿だった。
平凡顔の両親は何故か美しい容姿に恵まれた二人を激しく憎み、差別した。
虐待に耐えながら姉弟は出来るだけ早く家を出ようと、アザレアは侍女になる為の勉強を、レケンスは騎士になる為の鍛錬を積んでいたが、自ら家を出るには早すぎる段階で売られてしまったのだ。
悪魔としか言えない両親と、『自分たちは愛されているから大丈夫』と優越感に歪んだ笑い顔で連れ去られる二人を見ていた兄姉。
世界中で二人ぼっちな姉弟に『次は君達だよ…赤紫かぁ…いいね、奇麗だね』と。
幼い二人に嬉々として言い放った年齢不詳の整った顔の男は通称『目玉男爵』。
目玉に狂い目玉コレクションに命を懸ける目玉収集家。
気に入った目玉を見つければ相手が誰であろうと誘拐してでも奪う極悪人。
ベッドに縛り付けられそうになった姉アザレアを庇おうとした弟レケンスは代わりにベッドに縛り付けられてしまった。
『やめて!レケンスを離して!わたくしの目玉をあげるからレケンスに手を出さないでッ!』
『心配しなくたって弟の後に君の目玉も頂くよ~♪』
レケンスはそんな会話を耳にしながら、恐怖と絶望で半分気絶した状態で目に変な液体を入れられそうになった時、出入り口の方角が騒がしくなった。
カン、カンと激しく争う剣の音と『娘はどこだ!?』『妻を返せ!』などの怒号が近づいて来る。
妻や娘を誘拐された男たちが結束して目玉男爵のアジトを襲撃して来たらしい。
どんどん大きくなる騒ぎに目玉男爵が焦りの色を見せる。
『オイ、大丈夫なんだろうな!?『マレフィクス』は優秀だというから大金を払って用心棒として雇っているんだぞ』と、近くにいる頬に傷のある男に目玉男爵が叫ぶ。
頬に傷のある男が余裕で『当たり前だ』と返そうと口を開けた瞬間、出入り口の扉が吹き飛び、剣で争う集団がドッと雪崩れ込んで来た。
『チッ、クソが!』
頬に傷のある男が剣を抜き、出入り口へ向かう。
相当数の手下を配置したのに、騎士でもない男達に突破されここまで攻め込まれるとは!
『クソッ、急いでこの赤紫の美しい目を取り出さなければッ』
『待て!』
『‥ハッ!?』
『――この金眼が欲しくない?』
金眼と言われて目玉男爵はすんでの所で手を止める。
それに出入り口からこの施術場所まで結構あるのに意外と声が近い?
大勢の男達がまだ扉付近で用心棒たちと剣を交えているのに、もう近くまで来ている者がいる!?
目玉男爵がバッと振り返れば、フードを目深に被った男が用心棒達と闘いながらも凄い速さで近付いて来る。
『く、来るなッ神聖な行為の邪魔をするなッ!‥確かに金眼は珍しいが、その分最初の頃集中的に集めたからもうたくさん持ってる!…ハッ!?』
周りの用心棒達を倒したその人は、目深に被っていたフードを僅かに上にずらし、そのあまりにも美しい金色の瞳を晒した。
『みッ自ら光を放つ輝く金眼、だとッ!?』
自ら光を放つ輝く金眼を持つのは世界でアステリスカスただ一人。
ちなみにやはり世界に一人だけの金髪はキッチリ纏めてフードの中に隠している。
そう、『フードの男』はアステリスカスが修道院を抜け出して活動する時の変装した姿なのだ。
目玉男爵は驚きのあまり一度体が伸び上がり、その後ガタガタと震え出す。
『あぁぁッ‥美しいッこの世のものとは思えないほどにッ…奇跡ッ
ほ、欲しいッ欲しい欲しい欲しい欲しい‥』
『用心棒達を去らせなさい』
一体何人いるのだか、倒しても倒してもしつこく襲ってくる用心棒達を剣ごとなぎ倒し、アステリスカスは命令する。
『‥ハッ‥お、女!?男の格好‥いや、どちらでもいい、目玉に性別などない‥
エッ!?キャァァァァァ~~~ッ!?』
目玉男爵が金切り声を上げる。
アステリスカスが短刀をサッと取り出し、自分の美しい金眼を刺したからだ。
『何やってんの、何を‥ばかぁッ狂人ッあぁ~~ッ美しい金眼がぁぁぁ~~ッ‥』
(狂人に狂人と言われたくない)
アステリスカスは痛みに口を引き結びながらそう思うのだった――
馬の蹄が聞こえる度に窓に寄り、外を窺う弟に呆れた声を掛けるアザレア。
「全く…少しは落ち着きなさいよ。アス様は修道院のお務めを済ませてからいらっしゃるのだから、まだもう少し掛かるはずよ」
「そう言う姉上も何度お茶の為の湯を温め直す気ですか?」
弟レケンスが言う様に、アステリスカスの訪問にソワソワしているのはアザレアも同じこと。
修道院の孤児院を出てしまってからはアステリスカスがパトロールで酒処『ラルグス』に寄る時ぐらいしか会えない。
忙し過ぎるアステリスカスがアザレアの家を訪ねてくれる事など滅多にないのだ。
だから『姉の家で大切な相談がある』旨をアステリスカスに伝えたと言った弟には『でかした』と感謝し、頬を染めてお茶の準備を整え、今か今かとその到着を心待ちにしている。
アザレアとレケンス。
同じ色を持つ美しい姉弟がアステリスカスと出会ったのは今から16年前。
アザレア10才、レケンス9才の時だ。
伯爵家の四女、三男であった二人は、賭け事に嵌った伯爵夫妻が作った莫大な借金返済の為に売られ、怪しげな研究所の様な所に連れられて来た。
地下を広く掘った空間だと思われるそこは異様な世界だった。
広い空間の奥に鉄製の大きなベッドが据えらえており、そこに寝かされている女性は両手両足をベルトでベッドに拘束されている。
ベッドから少し離れた所に顔を両手で覆い蹲る人たちがいて――
呻き声、薬品と生臭さが混じった異臭。
「やめてやめてッいやぁッい‥ぎゃぁぁぁぁぁーーー…」
ベッドに拘束された女性は変な器具を持った男に両目とも目玉をくり抜かれてしまった。
アザレアとレケンスはそれを目の前で見せられた。
女性の――そして女性同様目をくり抜かれたのであろう蹲る人たちの獣の様な呻き声が響いている。
あまりの悲惨さ恐ろしさに、目を覆い耳を塞ぎたくても姉弟は両手を後ろ手に縛られており茫然と立ち尽くすしかない。
『お前たちの忌々しい眼が初めて役に立った』『そうね、こんなに高値で売れるなんて』――両親からの最後の言葉…
売られた者が何をされるのか――両親は知っていて自分たちを売ったのだ。
きょうだいの中でアザレアとレケンスだけが美しい色(鴇色の髪に赤紫の瞳)、そして整った容姿だった。
平凡顔の両親は何故か美しい容姿に恵まれた二人を激しく憎み、差別した。
虐待に耐えながら姉弟は出来るだけ早く家を出ようと、アザレアは侍女になる為の勉強を、レケンスは騎士になる為の鍛錬を積んでいたが、自ら家を出るには早すぎる段階で売られてしまったのだ。
悪魔としか言えない両親と、『自分たちは愛されているから大丈夫』と優越感に歪んだ笑い顔で連れ去られる二人を見ていた兄姉。
世界中で二人ぼっちな姉弟に『次は君達だよ…赤紫かぁ…いいね、奇麗だね』と。
幼い二人に嬉々として言い放った年齢不詳の整った顔の男は通称『目玉男爵』。
目玉に狂い目玉コレクションに命を懸ける目玉収集家。
気に入った目玉を見つければ相手が誰であろうと誘拐してでも奪う極悪人。
ベッドに縛り付けられそうになった姉アザレアを庇おうとした弟レケンスは代わりにベッドに縛り付けられてしまった。
『やめて!レケンスを離して!わたくしの目玉をあげるからレケンスに手を出さないでッ!』
『心配しなくたって弟の後に君の目玉も頂くよ~♪』
レケンスはそんな会話を耳にしながら、恐怖と絶望で半分気絶した状態で目に変な液体を入れられそうになった時、出入り口の方角が騒がしくなった。
カン、カンと激しく争う剣の音と『娘はどこだ!?』『妻を返せ!』などの怒号が近づいて来る。
妻や娘を誘拐された男たちが結束して目玉男爵のアジトを襲撃して来たらしい。
どんどん大きくなる騒ぎに目玉男爵が焦りの色を見せる。
『オイ、大丈夫なんだろうな!?『マレフィクス』は優秀だというから大金を払って用心棒として雇っているんだぞ』と、近くにいる頬に傷のある男に目玉男爵が叫ぶ。
頬に傷のある男が余裕で『当たり前だ』と返そうと口を開けた瞬間、出入り口の扉が吹き飛び、剣で争う集団がドッと雪崩れ込んで来た。
『チッ、クソが!』
頬に傷のある男が剣を抜き、出入り口へ向かう。
相当数の手下を配置したのに、騎士でもない男達に突破されここまで攻め込まれるとは!
『クソッ、急いでこの赤紫の美しい目を取り出さなければッ』
『待て!』
『‥ハッ!?』
『――この金眼が欲しくない?』
金眼と言われて目玉男爵はすんでの所で手を止める。
それに出入り口からこの施術場所まで結構あるのに意外と声が近い?
大勢の男達がまだ扉付近で用心棒たちと剣を交えているのに、もう近くまで来ている者がいる!?
目玉男爵がバッと振り返れば、フードを目深に被った男が用心棒達と闘いながらも凄い速さで近付いて来る。
『く、来るなッ神聖な行為の邪魔をするなッ!‥確かに金眼は珍しいが、その分最初の頃集中的に集めたからもうたくさん持ってる!…ハッ!?』
周りの用心棒達を倒したその人は、目深に被っていたフードを僅かに上にずらし、そのあまりにも美しい金色の瞳を晒した。
『みッ自ら光を放つ輝く金眼、だとッ!?』
自ら光を放つ輝く金眼を持つのは世界でアステリスカスただ一人。
ちなみにやはり世界に一人だけの金髪はキッチリ纏めてフードの中に隠している。
そう、『フードの男』はアステリスカスが修道院を抜け出して活動する時の変装した姿なのだ。
目玉男爵は驚きのあまり一度体が伸び上がり、その後ガタガタと震え出す。
『あぁぁッ‥美しいッこの世のものとは思えないほどにッ…奇跡ッ
ほ、欲しいッ欲しい欲しい欲しい欲しい‥』
『用心棒達を去らせなさい』
一体何人いるのだか、倒しても倒してもしつこく襲ってくる用心棒達を剣ごとなぎ倒し、アステリスカスは命令する。
『‥ハッ‥お、女!?男の格好‥いや、どちらでもいい、目玉に性別などない‥
エッ!?キャァァァァァ~~~ッ!?』
目玉男爵が金切り声を上げる。
アステリスカスが短刀をサッと取り出し、自分の美しい金眼を刺したからだ。
『何やってんの、何を‥ばかぁッ狂人ッあぁ~~ッ美しい金眼がぁぁぁ~~ッ‥』
(狂人に狂人と言われたくない)
アステリスカスは痛みに口を引き結びながらそう思うのだった――
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