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第三章

3の50 シーブルーの記憶

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新婦シレーヌの耳元で、新郎レイのスウィート過ぎる囁き美声は続ける。



「こんな大切な事を‥‥
生涯の宝を忘れていたなんて!
君が何度も失敗しながらも諦めずに海底にまで来てくれた事。
何かを口移ししてくれて、体が楽になって行った事‥‥
あれは空気‥‥
『空気の実』?
だったのか‥‥
あんなに深い海の底で、君は、生命線である空気を‥‥
私に命そのものを与えてくれたんだな‥‥」



そう言ってレイはシレーヌの瞳を見つめる。

その瞳の美しさにシレーヌは目眩を感じる。

シーブルーはキラキラと潤んでいて‥‥あ。


その瞳、

あの海。


シレーヌ自身も忘れていたあの時の不思議な感覚、

シーブルーの記憶が浮上して来る。



「あの時は、ただただ必死で。
‥‥そう、海の底が光っていて。
そこに私の王が居ると分かった。
必ず助けると向かった。
一瞬だって諦めなかった。
『空気の実』を渡す事に何の躊躇いもなかった。
あなただけが大切だった。
だって私の王だもの!
ああ‥‥私は、あの時既に恋に落ちていたのですね」



レイは目を見開いて、感極まって震える声で問う。



「私が王なら、君は女神だ!
王は女神に永遠の愛を誓おう!
シレーヌ、私の女神!
君がくれた幸せを、どうすれば返せる?」



既にポ~~ッとしていたシレーヌは、愛する彼の熱を感じて、その熱をうつされて、もう立っている事も出来なくなりそうッ!



「‥あの、じゃあ、
お嫁さんにして下さい!」



それを聞いてポカンとするレイ。

え~~と‥‥

聞き間違い?



「‥‥君はもう私の妻だよ?」

「‥‥ハッ!
そうでした!
だったら、充分です!
私、充分幸せです!」



そう言って輝くように笑った妻を夫は堪らず抱きしめる。

妻も夫を抱き締め、二人は強く抱きしめ合う。



何と言う素晴らしい二人なんだろう‥‥

目の前で起きた奇跡。

ゴブリンが人間になるという信じられない光景を目の当たりにした来賓達は、皆一様に時が止まった様に固まっていたが‥‥

抱擁し合う二人を見て、堰を切った様に、



ゥオオオオ~~~!



低音から高音への歓声を上げ、席から立ち上がると、骨折する勢いで拍手を送る!

おぉ、あのゴブリン新郎はブルーフィンの至宝、第一王子のレイ殿下だったのか!

可愛いベビーピンクのゴブリン新婦はまるで女神の様に神々しく神秘的な美しさ!



何という奇跡!

何という喜び!



感極まった人々は、涙を流しながら感嘆の声を上げ、拍手で二人を祝福する。

レイとシレーヌの結婚式は、予想に反して、とんでもなく盛り上がっている!



だが、一人、ワナワナと怒りに震える者がいる。

その口から、禍々まがまがしい声が発せられる。



「‥‥ふざけんじゃないわよ‥‥」
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