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第三章

3の14 名案

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聖女は赤く変化した目で第二王子フラットの目を捕らえ最大出力で魅了を掛け続ける。

やがて‥‥



「グッ‥‥うぅッ‥‥
止めろッ
私を支配など‥‥
ウッッ‥‥」



抵抗していたフラットがガクリと肩を落とし、その目が虚ろになる。


(ハァ、ハァ、
やっと、掛かった!
前よりさらに掛かり辛くなってる‥‥
レイ様に至っては全然かからないし‥‥
前から感じていた通り、王族には魅了は掛かり辛いのかしら?
でも、まぁいいわ。
掛かったんだから)

聖女マーリンの赤く変化していた目が元の金色に戻る。

それでもまだ頭はカッカしており、冷静とは程遠い。

そんな状態で『名案を思いついた』といやらしく口角を上げる。



「第二王子殿下、3ヶ月後に、立太子式のご予定ですわね!
その時に、このゴブリンたちの結婚式を致しましょう!
国内外の高位貴族が集まるその祝いの式の前座として!
良い事ですわ!
我が国はゴブリンを差別していないとアピール出来ましょう!」

「そ‥‥の‥時は、わ、私と‥シレーヌ‥婚‥約式‥‥予定して‥‥」

「よろしいですわねッ!?
第二王子殿下ッ!」

「ウッ‥‥ヌゥッ‥‥
クッ‥‥‥‥ッ‥‥‥
わ‥‥か‥った‥‥」



魅了にかかりながらも抵抗しようとした第二王子だったが、聖女マーリンにギロリと見られれば、頭の中が真っ白になり、言いなりにならざるを得ない。

聖女マーリンはツカツカと裏門に集まって来ていた人だかりの前まで行くと、



「聞いたであろう!
3ヶ月後のブルーフィン王国王太子の立太子式の日に!
あそこにいるゴブリンたちの結婚式を行う!
これは、聖女である私の命令――神命である!」



空を抱くように両手を上げ、高らかに宣言した。







「‥‥どういう事だ?
聖女マーリン」



国王陛下の低い声が主宮殿の奥まった場所にある私的な応接室の床を這う。

人払いされた部屋にいるのはソファにドッカと座る国王陛下。

その隣に無表情を貼り付けた王妃陛下。

聖女マーリンは向かい側のソファにフワリと腰かけている。

聖女の隣には俯いた第二王子フラットが力なく座っている。


昼間、聖女マーリンが独断で立太子式の前にゴブリンの結婚式を行う事を宣言したのを受けて、国王が説明を求めているところである。

今は夕刻。

神命の発令を宣言した時から数時間経過しており、聖女は落ち着いている。

落ち着いてはいるものの、心の中には依然として嵐が吹き荒れており、厳しい空気を放つ両陛下を前にしても、ビビる余裕すら無い。

それでもこの場を何とか切り抜けなければならない事は理解しており、伏せていた目を上げると、恭しく爆弾を落とす。



「畏れながら、先ずは両陛下にご報告申し上げます。
実は、新郎のゴブリンは第一王子殿下でございます」
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