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第三章

3の12 聖女、パニックになる

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「クックック‥‥
『何故?』って顔してるけど、それこそ『何故?』
ねぇ、第二王子殿下?
あなた、モーレイの恋心、気付いてなかったの?
モーレイがあなたに抱かれまくったのは、あなたを愛しているから‥」

「‥なッ、黙れ!
シレーヌ姫に変な事を聞かせるな!
シレーヌ姫、君と出会う前の事だから!
君と出会ってからは私は誰とも関係していない!」

「あら‥‥その薄ピンクの幼児ゴブリンがあなたが熱愛する人魚姫なワケ?
確かもうすぐ成人する女性だったはずよね?
ゴブリンに変身する際、幼児に後退‥‥」

「ちッ、ちやッ、赤やんやないでちゅ!
口の中のこうじょう‥‥構‥造、が変わって喋い辛いだけいぇ、頭が子供に戻ったんじゃないでちゅ!」



手をパタパタさせながら必死に伝えるゴブリン・シレーヌ。


(‥‥何よ!?
レイ様ったら何でそんな優しい顔で薄ピンクゴブリンを見るの??
‥‥第二王子もだわ?
私にも他の人達にもクールな表情しか見せなかったレイ様と、冷酷な第二王子に揃って穏やかで優しい表情をさせるなんて‥‥!?
薄ピンクは何か術を使ってる訳でもないのに、何が起きているの!?
一体、何だというのよ!?)


聖女マーリンは、『可愛い』を感じる事が出来ない。

いや、『可愛い』と感じるポイントが大衆とズレている。

赤ん坊や幼児を見ても、動物を見ても、リボンやフリルを見ても『可愛い』と感じた事は無い。

魔女の娘だからではなく、『可愛い』の感性が違う人はたまにいる。



「コホン!
第二王子殿下、モーレイは愛するあなたを手に入れる為、邪魔な人魚姫をどうしても排除したかったのよ!
だから『妖しの沼の魔女』を誘導し、人間に戻る為の下準備‥‥
殿下がキスする前に魔法をかけさせたの。
残念ねぇ、人魚姫?
誰もが魅了されてしまう程の美貌だったと聞くわ。
まぁ、私ほどではないでしょうけど‥‥」

「シレーヌ姫は今でも変わらず美しい!」



途中からゴブリン・シレーヌに顔を向けて意地悪に話し続ける聖女マーリンを遮る様にゴブリン・レイが言い放つ。



「ひゃっ!?
わわ‥‥しょんにゃ、ひゃあぁぁぁ」



ベビーピンクの肌を真っ赤に染め上げて照れるゴブリン・シレーヌ。

ローズレッドの瞳をキラキラさせて嬉しさが溢れている。

そんな薄ピンクのゴブリンに優しい瞳で微笑むスモークブルーのゴブリン。


ブチッ!


何かが切れた。

聖女の頭の中はパニック状態になる。

嫉妬心が爆発しているのだが‥‥

生まれて初めて自分の中に湧き上がり荒れ狂う嵐のような感情‥‥

そんなモノに何の耐性も無く、それが嫉妬である事すら判断できない。


聖女マーリンはこれまでの人生の中で嫉妬というものをした事が無かった。

自分は常に誰よりも一番 ”上 ”だと認識しており、嫉妬する必要が無かった。

自分と同じ顔をしている魔女マレットに対しても、自分の髪と目の色の方が数段魅力的だと優越感しか感じた事が無い。

モーレイは相手にするまでも無い。

ただでさえこの世で一番魅力的な自分。

さらに3年前には先代魔女の死により『魅了』の能力も引き継いだ。

第一王子は相手にしてくれないが、焦らなくても自分に勝てる者などいない。

そのうち自分に落ちるだろうと余裕でその日を待っていた。

それなのに、今、目の前で起こっている事は一体何なのだ!?
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