上 下
87 / 155
第二章

2の22 ファースト・ラブ 2

しおりを挟む
ゴブリンの表情に気付く事無く、フェアリーピンクの唇は踊る様に続ける。



「その御方を安全な場所にお連れして、私はまた海に潜ろうとしたんです。
そうしたら、
『もう行ってはいけない!
君はもうフラフラだ!
行けば君は波に飲まれて、もう戻れないだろう。
後は他の人に任せて、君は自分の体を休めなさい!』
って‥‥」



遠くを見る様に宙を見つめていた潤んだローズレッドの瞳が、不意にゴブリンを――ゴブリンのシーブルーの瞳を捉える。



「‥‥ッッ」



魂を鷲掴みにされたような感覚に、思わず息が止まるゴブリン。

少女はフワリと柔らかく微笑んで恥ずかしそうに俯くと、少し震える声で謝る。



「不躾に、すみません。
どうしても、その瞳に囚われてしまいます。
キラキラと輝いて、ラメールの海の様に美しいのですもの。
本当に、あの御方とそっくり‥‥」



ゴブリンは、知らず胸に手を当てる。

心臓が、高鳴っている――

というか―――



‥‥泣きそうだ。




「その御方がせっかく注意して下さったのに、
私は頭の中が『助けなきゃ助けなきゃ』になっちゃっていたから、
『大丈夫です、私、泳ぎは得意なのです』
と答えて、海に向かおうとしたんです。
そうしたら、あの‥‥
えと‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥?」



何故か言い淀む少女にゴブリンは逸らせていた視線を戻す。

何か、話したくないなら話さなくていい。

そう言おうとしたところで、少女が消え入りそうな声で続ける。



「あの、突然、腕を掴まれて、フワッと‥‥だ、抱き上げられて‥‥」



俯いている少女の顔が更に赤くなる。



「そ、そ、そのまま建物の奥の救護室まで運ばれて‥‥
だ、だ、抱き上げられたままで、」



耳も、首まで真っ赤に染まってしまっている。

少女は恥じらいを深めるも、嬉しそうにも見えて。

手で口を押さえたゴブリンもまた、赤面している。



「コ、コホン、私は、男の人にそんな風にされたのは初めてで。
ビックリしてしまって固まったまま運ばれている途中で、
『君が無事でなければ、私は君に助けられた事を後悔するだろう。
君が君自身を大切にしないのであれば、命懸けで救助してくれた君の崇高さも、諦めた命を救われた奇跡も、私の中で苦しみとなって痛み続けるだけだ』
って、恐い顔と声で言われて、私震えてしまって‥‥」

「す、すまなかった‥‥」

「え?」



思わず謝罪を口にしたゴブリンに、少女はキョトンとした顔を向ける。


(!! か、可愛い!
衝撃的な可愛さだ!!
コレが例のアレか‥)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

私は聖女じゃない?じゃあいったい、何ですか?

花月夜れん
恋愛
ボクは君を守る剣になる!私と猫耳王子の恋愛冒険譚。――最終章 ここはいったいどこ……? 突然、私、莉沙《リサ》は眩しい光に包まれ、気がつけば聖女召喚の魔法陣の上に落っこちていた。けれど、私は聖女じゃないらしい。私の前にもう呼び出された人がいるんだって。じゃあ、なんで私は喚ばれたの? 魔力はあるから魔女になれ? 元の世界に帰りたいと思っている時に、猫耳王子が私の前に現れた。えっと、私からいい匂いがする? そういえば、たまたま友達の猫にあげるためにマタタビ棒(お徳用10本入り)を持っていたんだった。その中から一本、彼にプレゼントすると、お返しに相棒になって帰る方法を探してくれるって! そこから始まる帰る方法を探す異世界冒険の旅路。 私は無事もとの世界に帰れるのか。彼がいるこの世界を選ぶのか。 普通の人リサと猫耳王子アリス、二人が出会って恋をする物語。 優しい物語をキミへ。 ――本編完結―― 外伝を少し追加します。(21,2,3~) 本編番外編投稿(21,3,20) この作品は小説家になろう様カクヨム様でも連載中です。 セルフレイティングは念のためです。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

琴姫の奏では紫雲を呼ぶ

山下真響
恋愛
仮想敵国の王子に恋する王女コトリは、望まぬ縁談を避けるために、身分を隠して楽師団へ入団。楽器演奏の力を武器に周囲を巻き込みながら、王の悪政でボロボロになった自国を一度潰してから立て直し、一途で両片思いな恋も実らせるお話です。 王家、社の神官、貴族、蜂起する村人、職人、楽師、隣国、様々な人物の思惑が絡み合う和風ファンタジー。 ★作中の楽器シェンシャンは架空のものです。 ★婚約破棄ものではありません。 ★日本の奈良時代的な文化です。 ★様々な立場や身分の人物達の思惑が交錯し、複雑な人間関係や、主人公カップル以外の恋愛もお楽しみいただけます。 ★二つの国の革命にまつわるお話で、娘から父親への復讐も含まれる予定です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...