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第二章

2の19 静かな決断

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王家の(愛妾の為の)離宮 ”湖の貴婦人 ”



大昔、第3代ブルーフィン王国国王が外遊の際に隣国の伯爵令嬢を見初めた。

伯爵令嬢には婚約者がいた為、ブルーフィン国王の愛を拒んだが、国王は無理矢理伯爵令嬢を連れ帰った。

国王は湖に囲まれた島に城を建て離宮とし、そこに伯爵令嬢を軟禁した。

いつまでも王を拒む令嬢が逃げられない様にだ。


それ以来、ワケ有りの(つまり逃げる恐れのある)王家の想い人が軟禁されるのに使われる事となっているのがこの離宮だ。

湖に映る白く美しい城は、これまでに軟禁された多くの美女の嘆きの様に儚げだ。

どんなに日照りの年でも美女達の涙で湖の水は枯れる事が無いと言われている。





月明かりの中、湖の先に建つ白い城をスモークブルーのゴブリンが見つめている。

夕方、第二王子フラットから逃れようと必死に抵抗する少女を見た。

第二王子が、命の恩人であるラメールの姫を攫って来て軟禁しているという噂を耳にし、駆け付けたところで、その場に出くわしたのだ。

すっかり理性を失くした様子のフラットに声を掛け、何とか場は治まったが‥‥


‥‥ッ、

痴れ者が‥‥!

命の恩人を‥‥

そうでなくても、少女を軟禁とは!

もう3年近くになるという。

という事は、助けられて直ぐという事ではないか!

何て事だ‥‥


見事に緘口令が敷かれていて、今まで隠されて来たというが――

色々信じられない。

ラメール王国から抗議は無いのか!?

ラメール王国もどうかしているな。


それにしても命を助けてくれた相手を苦しめるとは‥‥


あの少女を助けたい。

いや、助けなければならない!

だが今の自分は情けないほどに無力だ‥‥



決断、するか。

それしか、彼女を救う手立ては無い。

あの時、賭してくれた命を返すのだ。





「彼女は、美しい瞳をしていたな‥‥」



もう忘れていた。

嫌悪も蔑みも無い瞳なんて‥‥



「‥‥いや、あの時彼女は失神寸前の状態だった。
あの美しいローズレッドの瞳は私を映しながらも私を見てはいなかったのだろう。
だから、あのような濁りの無い透明な瞳をしていたのだ。
人間にとってゴブリンが如何におぞましい存在か、この3年で散々思い知らされて来たのに、勘違いするなんてどうかしている‥‥」

「‥‥あの、」

「‥‥どうした私。
美しい声の幻聴まで聞こえ出すとは‥‥
私の捻じれ過ぎた心は、セイレーンの歌声でも聴こうというのか‥‥」

「‥‥あのう、ゴブリンさんッ!
夕方、庭で助けて下さったゴブリンさんですよねッ!
よかった、お会いしたかったんです!
お礼が言いたくて‥‥
ありがとうございました!」



‥‥幻聴にしてはハッキリし過ぎている?
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