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第一章
1の56 シレーヌ姫は忖度しない
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「あッ‥‥、離し‥」
細い手首を遠慮なしに強く掴まれ、その痛みに身悶えるシレーヌ。
その姿はひどく蠱惑的で、思考の止まった第二王子は自分がシレーヌに痛みを与えている事に気付かない。
「離‥さない!
私は、君にッ‥‥」
「いけません、殿下!
シレーヌ姫の手首が折れてしまいますッ!」
「‥‥ッ!」
側近に耳打ちされ、反射的にシレーヌの手を離す第二王子。
無意識に彼女の手を掴んでいた己の手を見ながら、やっと自分が乱暴な態度を取っていた事に気付く。
シレーヌの顔を見れば、痛みにか恐怖にか青褪めている。
(‥‥ッ、違う!
君にそんな顔をさせたいんじゃないッ!)
「‥‥シレー‥」
「殿下、私は、殿下に好意を寄せられているとはとても思えません。
むしろ、憎まれているのではと‥‥」
「‥‥ッッ!」
「私は、何かモーレイ侯爵令嬢に失礼‥」
「アレは関係無い!
‥‥アレを連れて来たのが間違いだった。」
アレは出禁にする」
地を這う様な低い声で言った後、一瞬よろめき。
踵を返すと外へ向けて廊下を歩き出す第二王子。
混乱しているのだ。
たくさんの女性と遊んできた。
が、”恋 ”は初めてで。
(何て事だ‥‥
どうしたいかはハッキリしているのに。
どうしたらいいかがまるで分からない。
何て事だ‥‥)
その混乱する後ろ姿にシレーヌは叫ぶ。
「‥‥でしたら、もう殿下もいらっしゃらないで下さい!」
「‥ッ!」
「もしくは、私を追い出して下さい!」
「‥‥君は、私に命令出来る立場にない」
立ち止まったものの、振り返ることなく第二王子が言う。
「命令ではありません!
拒絶です!」
「拒絶は許さないッ!」
振り返り、声を荒げる第二王子。
その勢い、恐ろしさに、侍女たちは腰を抜かしてへたり込み、側近までもがビクリと体を揺らして後退る。
だが‥‥
「拒絶が許せないのなら、やはり私を追い出さなくては。
決して拒絶する事の無い人形でも置いておけばいいのです!」
「なに‥‥」
凛とした声で言い返すシレーヌ。
キラリと危険な光を目に宿した第二王子。
シレーヌに向かってカッカッと勢いよく歩き出す。
侍女たちはへたり込んだまま『ヒィ』と声を上げ顔を覆い、
『ああ、これはもうお止め出来ない』と側近は絶望する。
シレーヌ姫は大怪我を負う事になるだろう。
死ぬ事になるかもしれない‥‥
(なぜ、わざわざ殿下の神経を逆なでする様な事を‥‥
あぁ、シレーヌ姫はまだ殿下の恐ろしさを分かっていないのだ‥‥)
黙って立っていれば涼やかで美しい第二王子だが。
自分に逆らう者は決して許さない、冷酷で暴力的な王子としても恐れられているのだ。
側近は背中を冷たい汗が流れるのを感じながら思う。
(子供とはいえ、愚かすぎるぞ、シレーヌ姫!
何故大人しく従順に殿下の意に沿う様に振る舞えないのか‥‥
これほどに殿下の心を奪っておきながら、何故殿下を拒絶するのか‥‥
女性にだらしない部分も、暴力的な部分もあるが、そんなマイナス要素も忘れさせるほどに美しく優秀で魅力的な殿下。
殿下に想われて喜ばない女性などいないのに、なぜシレーヌ姫だけは違うんだ?
小さな島で王女としてチヤホヤ育ったのだろうが、ここはブルーフィン王国。
ブルーフィンの第二王子は逆らう者に容赦しないのだぞ‥‥)
細い手首を遠慮なしに強く掴まれ、その痛みに身悶えるシレーヌ。
その姿はひどく蠱惑的で、思考の止まった第二王子は自分がシレーヌに痛みを与えている事に気付かない。
「離‥さない!
私は、君にッ‥‥」
「いけません、殿下!
シレーヌ姫の手首が折れてしまいますッ!」
「‥‥ッ!」
側近に耳打ちされ、反射的にシレーヌの手を離す第二王子。
無意識に彼女の手を掴んでいた己の手を見ながら、やっと自分が乱暴な態度を取っていた事に気付く。
シレーヌの顔を見れば、痛みにか恐怖にか青褪めている。
(‥‥ッ、違う!
君にそんな顔をさせたいんじゃないッ!)
「‥‥シレー‥」
「殿下、私は、殿下に好意を寄せられているとはとても思えません。
むしろ、憎まれているのではと‥‥」
「‥‥ッッ!」
「私は、何かモーレイ侯爵令嬢に失礼‥」
「アレは関係無い!
‥‥アレを連れて来たのが間違いだった。」
アレは出禁にする」
地を這う様な低い声で言った後、一瞬よろめき。
踵を返すと外へ向けて廊下を歩き出す第二王子。
混乱しているのだ。
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(何て事だ‥‥
どうしたいかはハッキリしているのに。
どうしたらいいかがまるで分からない。
何て事だ‥‥)
その混乱する後ろ姿にシレーヌは叫ぶ。
「‥‥でしたら、もう殿下もいらっしゃらないで下さい!」
「‥ッ!」
「もしくは、私を追い出して下さい!」
「‥‥君は、私に命令出来る立場にない」
立ち止まったものの、振り返ることなく第二王子が言う。
「命令ではありません!
拒絶です!」
「拒絶は許さないッ!」
振り返り、声を荒げる第二王子。
その勢い、恐ろしさに、侍女たちは腰を抜かしてへたり込み、側近までもがビクリと体を揺らして後退る。
だが‥‥
「拒絶が許せないのなら、やはり私を追い出さなくては。
決して拒絶する事の無い人形でも置いておけばいいのです!」
「なに‥‥」
凛とした声で言い返すシレーヌ。
キラリと危険な光を目に宿した第二王子。
シレーヌに向かってカッカッと勢いよく歩き出す。
侍女たちはへたり込んだまま『ヒィ』と声を上げ顔を覆い、
『ああ、これはもうお止め出来ない』と側近は絶望する。
シレーヌ姫は大怪我を負う事になるだろう。
死ぬ事になるかもしれない‥‥
(なぜ、わざわざ殿下の神経を逆なでする様な事を‥‥
あぁ、シレーヌ姫はまだ殿下の恐ろしさを分かっていないのだ‥‥)
黙って立っていれば涼やかで美しい第二王子だが。
自分に逆らう者は決して許さない、冷酷で暴力的な王子としても恐れられているのだ。
側近は背中を冷たい汗が流れるのを感じながら思う。
(子供とはいえ、愚かすぎるぞ、シレーヌ姫!
何故大人しく従順に殿下の意に沿う様に振る舞えないのか‥‥
これほどに殿下の心を奪っておきながら、何故殿下を拒絶するのか‥‥
女性にだらしない部分も、暴力的な部分もあるが、そんなマイナス要素も忘れさせるほどに美しく優秀で魅力的な殿下。
殿下に想われて喜ばない女性などいないのに、なぜシレーヌ姫だけは違うんだ?
小さな島で王女としてチヤホヤ育ったのだろうが、ここはブルーフィン王国。
ブルーフィンの第二王子は逆らう者に容赦しないのだぞ‥‥)
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