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第一章

1の37 妖しの森の三つ子たち

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ザワザワ、ザワザワ

木々が騒めく。

木々のどこかに潜んでいるのは魔鳥達。

本当なら人間界にはいないはずの魔鳥達が歌い出す。


リュキャキャキャキャ
ウィララララ♪

お聞き お聞き
旅人よ
妖しの森のその奥の
妖しの沼に魔女が棲む

魔女の魅了に騙されて
一晩フリフリ腰振って
朝の光に照らされた
美女のはずのその姿
まるで化物いや化物

おいで おいで
少年よ
妖しの森で遊ぼうよ

ウィララララ♪
リュキャキャキャキャ





昼でも暗い『妖しの森』には魔女が棲む。

こんな不気味な森を訪ねるのはよっぽどの事情を持つ者だ。

そう、例えば彼女の様に。

今この森に入り、魔女の棲む家を訪ねているのは‥‥

腰まであるストレートの美しい銀髪と金色の瞳の美少女。

対する魔女は床まであるストレートの美しい黒髪と漆黒の瞳の美少女。

色違いの様に二人は同じ顔をしている。



「へへぇ、今や尊いご身分のマーリン猊下がわざわざこんな所までお越しとはね。
つまり意中の彼には先代から引き継いだ『魅了』も効かなかったワケだね。
まぁ、『魅了』って言っても、『相手に恋させる』んじゃなくて『相手に服従させる』、傀儡術の様なモンだからね。
王族には効き辛いのかもね。
それにしても早速頼みに来るなんて‥‥
ま、その為に先代を殺したんだから当然か」

「そうよ、彼を知って私は私になれた。
彼に恋したからこそ、自分を大事にしたいと思えた。
綺麗なまま、私を彼にあげたいと思ったの。
先代の道具として生き、死ぬのはおかしい事だと気付いたのよ。
先代は私を娘ではなく、只の道具としか見ていなかったのよね。
魔族から更なる魔力を賜る為の道具。
先代は私達‥‥私とモーレイを火王と氷王に貢物として差し出すつもりだった。
先代にとって子供は魔女の後継者であるマレット、あなただけだったのよね。
私達は三つ子だというのに‥‥」

「同じ事さ。
僕が魔力に一番適性があっただけだからね。
単に魔力を渡す入れ物としての認識‥‥道具である事は変わらないよ」

「変わるわよ!
貢物は一つの季節を火王、氷王に散々慰み者として嬲られた後、季節の終わりに生きたまま心臓を喰われるのよ!
‥‥あなたは後継として選ばれたのに、それでも先代が邪魔だったのね」

「先代はまだまだ何百年も生きるつもりだった‥‥
先代が生きている間、僕は奴隷‥‥性奴隷としてこき使われるだけだもの。
知らなかった?
僕は獣王に慰み者として30年間レンタルされる予定だったんだ。
30年間もあの獣王ケモノに引き裂かれ続けるなんて、貢物より悲惨だと思わない?」
          
「‥‥それは知らなかったわ。
あなたは一刻も早く魔力を引き継ぎたかっただけなのだと‥‥
あなたも特別ではなかったのね‥‥
先代は本当に自分しか愛してなかったのね。
私達は間違っていなかった。
結果、私達はイール侯爵家に正式に娘として発表させる事が出来たし、
あなたは魔力を、私は魅了を引き継げた。
何より自由を手に入れた。
お互い思惑通りというワケよ」

「モーレイの思惑は何なんだろうね?
あの子だけ、先代から何も引き継げなかった」

「あの子だけ私達と似ていない。
上手くできているものよね。
魔族としての適性はなかったものの、その代わりあの子は人間に‥‥
父親であるイール侯爵に似ているわ。
先代に魅了でかどわかされて、朦朧としたまま私達を作らされたイール侯爵に私達に対する愛情は無い。
でも自分に似ているモーレイにだけは多少愛情を持っている様よ。
あの子の狙いは第二王子。
イール侯爵家の力で自由に第二王子に侍り、想いを遂げている‥‥
充分、満足でしょう」



黒髪の美少女マレット、銀髪の美少女マーリン、そしてこの場にはいないが、ライラック色の髪にラズベリー色の瞳の美少女モーレイは三つ子。

先代魔女を母に、イール侯爵を父に生まれた見目麗しい少女達である。
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