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第一章

1の34 第一王子レイ殿下

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シレーヌが船でブルーフィン王国へ向け出港した頃から――

時は、4カ月ほど遡る。




ホゥ‥‥‥


王家主催の舞踏会。

あちこちで熱い溜息が漏れる。


人々の視線の先には優雅に令嬢をリードしてダンスする美少年。

美少年と言っても、スラリとした高身長で痩せ型だが筋肉質の体躯は、落ち着いた上品な態度と相まって堂々として威厳がある。

光り輝く太陽の様な金髪は短く凛々しく整えられているにもかかわらず、華やかでエレガント。

整った美しいフェイスに印象的なシーブルーの瞳。

深い海の青に神秘的な輝きを湛えた瞳は時にクール、時に華やか‥‥

人々は目を奪われずにはいられない。


誰よりも美しく、誰よりも優秀なブルーフィンの至宝。

もうすぐ王太子となる彼は‥‥


ブルーフィン王国第一王子‥‥レイ殿下。

太陽と海の祝福を受けたのであろう圧倒的な輝きを放つ王子。

誰もが認める次期国王。



「あぁ、レイ殿下と踊れるなんて羨ましいわ!
あの令嬢は何人目?」

「6人目だから‥‥
ラストよ。
悔しい、今回もバトルで勝てなかった!」



15才。

しかし彼にはいまだ婚約者どころか婚約者候補すらいない。

彼は恋愛に興味が無い。

というより、嫌悪感を持っている。

原因は国王陛下‥‥

父親だ。

勿論、国内外から『賢王』と崇められている父の事は尊敬しているし愛情もある。

ただ‥‥

父は大変な女好きなのだ。

母である正妃の他に第三側妃までいて、さらに遊びと割り切った関係の女性達が数えきれないぐらい、いる。

異常なのだ。
変態なのだ。

小さな頃から父の情事を何度も目撃した。

その度に表には出さないけれど確実に母は傷ついていた。


母を傷つけてまでやる事なのか?


女性に狂っている時の父は人間ですらない様に感じて、嫌悪感が募っていった。


自分もいずれは結婚し、子を儲けなければならない。

それは義務だ。

だが、自分は絶対父の様にはなりたくない。

自分が生涯で愛する女性はたった一人だ。

そう強く決意している。

だから当然婚約者選びは慎重になる。

今のところ、生涯を共にしたいと思える女性はいない。

まだ出会えていない。


”特別 ”がいない彼は、パーティーの際には6人だけダンスの相手を務める。

義務として。

と言っても、きちんと失礼の無い様に。


彼の婚約者の座を狙う者達は、自分をアピールする為に。

そんな大それた考えは無い者達は、一生の思い出として。


彼とダンスを踊りたい令嬢は毎回列をなし、熾烈なバトルの果てに、6人のラッキーガールだけが彼とダンスを踊れるのである。


今夜最後のラッキーガールは、今日初めて舞踏会に参加したにもかかわらずバトルに勝利した強者。

腰まであるストレートの美しい銀髪と金色の瞳の美少女、マーリン。

突然社交界に現れ令息達の視線を攫った令嬢はイール侯爵家の『親戚』だという。


この謎めいた美少女が、今後何年にも渡ってレイを苦しめる事になるとは、まだ当の本人ですら気付いていない――
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