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 第二王子の名義で始めた事業の内容は、私の考案した薬草の改良から始めました。

 父からは、グリード第二王子が公爵家に定期的に遊びに行くことを条件に、私の外出許可が降りました。ちなみに私が離宮にいるのは、研究のためと、離宮を独り占めにしたいと私が我が儘を言った事になっているそうです。解せぬ。

 ですが、これで晴れて半自由の身ですね。やりました。太陽の光を浴びまくりましょう。

 各領地にある薬草管理センターでは、我が公爵領から運ばれる薬草が種と鮮度や品質順に仕分けされます。薬草になるのは茎と葉の部分です。草の裏側に付いているのが種ですよ。植物名も薬草になっておりますが、前世で言うとオトギリソウに似ています。前世の世界のようにたくさん花を付けることはありませんし、種の付きかたも違いますね。

 茎と葉と種に仕分け、茎と葉は薬に加工して、必要な部署に届ける役割が薬草管理センターにはあるのです。

 薬草は自然に増えていく訳では無いので、薬草管理センターで種を収穫し、傷が在るものや、虫に齧られた種の仕分けもしますよ。

 さらに、ここでは薬に加工するのと同時に、研究も行われております。ホーエンハーム公爵家の女児は王家の血を引いていると平民でも知っている常識ですので、私が王都の薬草管理センターへの自由な出入りは邪険にされる事は無く、むしろ『植物知識』のおかげで歓迎されています。『植物知識』の下位スキル『薬草知識』持ちが多いので、上位スキル持ちは大歓迎なのですって。

 ここで研究している職員の中には、元冒険者やスキルに恵まれた農民と研究好きな貴族の次男以下がいます。皆さん優しくて、研究熱心です。差別もなく和気あいあいとしていますね。

 薬草管理センターの研究所に通うようになり、ガリガリだった私のために、皆さん美味しい食べ物を提供してくれて、私は子供らしいまるっこい体型を手に入れつつあります。子供に餌付けするのと同じでしょうか?

 彼等と研究する日々は、この先の私の人生でもきっと役に立つこと間違いなしでしょう!





 8歳になった私は、前世の記憶を取り戻す前よりもずっと成長できました。もちろん謎肉入りのスープは毎日出てきますが。一口飲んでは吐血して、奇跡の種を飲んで毒に慣らす日々です。いつからか、とうとう『毒軽減』が『毒耐性中』そして『毒無効』へと昇華いたしました。更に、『毒合成』という不穏なスキルも手に入りました。何故でしょうか?
 
 研究所で寝泊まりする日も多く、最近では久しぶりに離宮へと帰っても、忘れられた様に食事が出てこなくなりました。何せ、研究所で食糧を分けてもらい、外の露店で売られている串焼きなどの食べ物で、お腹一杯になって帰れますし、『毒無効』が手に入ったので、毒入りと分かっている料理を食べる必要性を感じませんから。ちなみに炭パンだと思っていたあのパンは愛人の娘が公爵家の厨房で勝手に料理して作っていた失敗作でした。ウゲェ。

 さらに月日が過ぎ、私は薬草の種の品種改良を繰り返して育てては収穫し、『薬草師』と『錬成師』の職員さんと回復薬造りを手伝います。ちなみに私にも主人公補正でしょうか。『錬成師』の上位『錬金術師』のスキルが増えておりました。

 私は、出来上がった回復薬を机に並べて、それぞれの瓶に効能と日付をつけています。緑色の髪をボサボサにした男性研究員が私の回復薬を手に取りました。彼の名前はヨウムさんです。

「やっぱり、今回造った回復薬のほうが効能が高いですね。お嬢様のは保存魔法も一緒にかけられているので、品質の劣化が起きないのは良いですね。速効性はもちろん在りませんが」

「速効性は別問題よね。性能が上がったのは良い事ですが。保存魔法のかかった回復薬は私一人で頑張っても1日100本が限度ですね。治験もしてみなければどの程度回復量があがり、保存が効くのかも分かりませんし」

「こっちのほうの臨床実験はどうしますか?」

 ヨウムさんが指差したのは、他の職員が造った回復薬ですね。効能だけが上がった従来の遅効性の回復薬です。

「まだ種の生産も追い付いて無いのよ? 臨床実験を始めても大丈夫かしら?」

「そこはお嬢様、臨床実験は速い方が良いでしょうよ。種は今のところお嬢様しか造り出せませんから、種が採れる量はこの際諦めても良いのでは?」

「では、今ある分の薬を冒険者ギルドと一般市民用の治療院へと持っていって。治験は多いに越したこと無いわ」

「了解」

「お嬢様~。回復薬の使用期間はどうするぅ~?」

 ぐるぐる眼鏡にぶかぶかの白い医療服を着込んだ女性が駆け寄ってきて、私は頭をナデナデされてます。彼女はギゼラさんです。私が薬を作る時の助手さんですね。

「日時を書いた箱に閉まって、定期的に確認して、劣化状態の確認を繰り返しましょう」

「はーい」

「お嬢様、さっき言ってた速効性の話ですが、薬草に使われる植物はもともと量産に向いて無かったのを、シルヴィア様のおかげで量産出きるようになったんじゃ無かったですっけ? 元来の種から改良し直すって手も有りますよ」

 シルヴィアとは、私のお母様のお名前です。

「うーん……。やっぱり『シード改良』だけじゃ限界があるわよね。『シード継承』も使ってみるしかないかなぁ」

「なんすかそれ?」

「私のスキルです」

 今更ではございますが、『シード継承』とは、種の性能を別の種に移す事ができる性能です。『シード改良』と違うのは、『シード改良』では、種本来の性質を変えずに生産量や育ちやすさ、種の数等を変更する性能でした。他にも育ったときの性質の底上げですね。『シード継承』は全く別の植物の種からその植物由来の性質を文字通り継承させる事ができるのです。

 と言うわけで、量産できる既存の種で薬草の種と相性の良い種を探す所から始めなければなりません。これがめっちゃ大変でした。





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