6 / 18
5
しおりを挟む第二王子の名義で始めた事業の内容は、私の考案した薬草の改良から始めました。
父からは、グリード第二王子が公爵家に定期的に遊びに行くことを条件に、私の外出許可が降りました。ちなみに私が離宮にいるのは、研究のためと、離宮を独り占めにしたいと私が我が儘を言った事になっているそうです。解せぬ。
ですが、これで晴れて半自由の身ですね。やりました。太陽の光を浴びまくりましょう。
各領地にある薬草管理センターでは、我が公爵領から運ばれる薬草が種と鮮度や品質順に仕分けされます。薬草になるのは茎と葉の部分です。草の裏側に付いているのが種ですよ。植物名も薬草になっておりますが、前世で言うとオトギリソウに似ています。前世の世界のようにたくさん花を付けることはありませんし、種の付きかたも違いますね。
茎と葉と種に仕分け、茎と葉は薬に加工して、必要な部署に届ける役割が薬草管理センターにはあるのです。
薬草は自然に増えていく訳では無いので、薬草管理センターで種を収穫し、傷が在るものや、虫に齧られた種の仕分けもしますよ。
さらに、ここでは薬に加工するのと同時に、研究も行われております。ホーエンハーム公爵家の女児は王家の血を引いていると平民でも知っている常識ですので、私が王都の薬草管理センターへの自由な出入りは邪険にされる事は無く、むしろ『植物知識』のおかげで歓迎されています。『植物知識』の下位スキル『薬草知識』持ちが多いので、上位スキル持ちは大歓迎なのですって。
ここで研究している職員の中には、元冒険者やスキルに恵まれた農民と研究好きな貴族の次男以下がいます。皆さん優しくて、研究熱心です。差別もなく和気あいあいとしていますね。
薬草管理センターの研究所に通うようになり、ガリガリだった私のために、皆さん美味しい食べ物を提供してくれて、私は子供らしいまるっこい体型を手に入れつつあります。子供に餌付けするのと同じでしょうか?
彼等と研究する日々は、この先の私の人生でもきっと役に立つこと間違いなしでしょう!
★
8歳になった私は、前世の記憶を取り戻す前よりもずっと成長できました。もちろん謎肉入りのスープは毎日出てきますが。一口飲んでは吐血して、奇跡の種を飲んで毒に慣らす日々です。いつからか、とうとう『毒軽減』が『毒耐性中』そして『毒無効』へと昇華いたしました。更に、『毒合成』という不穏なスキルも手に入りました。何故でしょうか?
研究所で寝泊まりする日も多く、最近では久しぶりに離宮へと帰っても、忘れられた様に食事が出てこなくなりました。何せ、研究所で食糧を分けてもらい、外の露店で売られている串焼きなどの食べ物で、お腹一杯になって帰れますし、『毒無効』が手に入ったので、毒入りと分かっている料理を食べる必要性を感じませんから。ちなみに炭パンだと思っていたあのパンは愛人の娘が公爵家の厨房で勝手に料理して作っていた失敗作でした。ウゲェ。
さらに月日が過ぎ、私は薬草の種の品種改良を繰り返して育てては収穫し、『薬草師』と『錬成師』の職員さんと回復薬造りを手伝います。ちなみに私にも主人公補正でしょうか。『錬成師』の上位『錬金術師』のスキルが増えておりました。
私は、出来上がった回復薬を机に並べて、それぞれの瓶に効能と日付をつけています。緑色の髪をボサボサにした男性研究員が私の回復薬を手に取りました。彼の名前はヨウムさんです。
「やっぱり、今回造った回復薬のほうが効能が高いですね。お嬢様のは保存魔法も一緒にかけられているので、品質の劣化が起きないのは良いですね。速効性はもちろん在りませんが」
「速効性は別問題よね。性能が上がったのは良い事ですが。保存魔法のかかった回復薬は私一人で頑張っても1日100本が限度ですね。治験もしてみなければどの程度回復量があがり、保存が効くのかも分かりませんし」
「こっちのほうの臨床実験はどうしますか?」
ヨウムさんが指差したのは、他の職員が造った回復薬ですね。効能だけが上がった従来の遅効性の回復薬です。
「まだ種の生産も追い付いて無いのよ? 臨床実験を始めても大丈夫かしら?」
「そこはお嬢様、臨床実験は速い方が良いでしょうよ。種は今のところお嬢様しか造り出せませんから、種が採れる量はこの際諦めても良いのでは?」
「では、今ある分の薬を冒険者ギルドと一般市民用の治療院へと持っていって。治験は多いに越したこと無いわ」
「了解」
「お嬢様~。回復薬の使用期間はどうするぅ~?」
ぐるぐる眼鏡にぶかぶかの白い医療服を着込んだ女性が駆け寄ってきて、私は頭をナデナデされてます。彼女はギゼラさんです。私が薬を作る時の助手さんですね。
「日時を書いた箱に閉まって、定期的に確認して、劣化状態の確認を繰り返しましょう」
「はーい」
「お嬢様、さっき言ってた速効性の話ですが、薬草に使われる植物はもともと量産に向いて無かったのを、シルヴィア様のおかげで量産出きるようになったんじゃ無かったですっけ? 元来の種から改良し直すって手も有りますよ」
シルヴィアとは、私のお母様のお名前です。
「うーん……。やっぱり『シード改良』だけじゃ限界があるわよね。『シード継承』も使ってみるしかないかなぁ」
「なんすかそれ?」
「私のスキルです」
今更ではございますが、『シード継承』とは、種の性能を別の種に移す事ができる性能です。『シード改良』と違うのは、『シード改良』では、種本来の性質を変えずに生産量や育ちやすさ、種の数等を変更する性能でした。他にも育ったときの性質の底上げですね。『シード継承』は全く別の植物の種からその植物由来の性質を文字通り継承させる事ができるのです。
と言うわけで、量産できる既存の種で薬草の種と相性の良い種を探す所から始めなければなりません。これがめっちゃ大変でした。
1
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました
hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。
家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。
ざまぁ要素あり。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる