上 下
3 / 4
婚約破棄

もう大丈夫ですから

しおりを挟む
  レティシアは唇を噛みうつむいた。
視線がこちらに集中する中、ミランダ嬢が声を上げた。

  「殿下。婚約破棄すればいいんじゃないですか?だってレティシアも言ってますし」

  勝ち誇ったようにわたくしを見てくるミランダにレティシアだけでなくその場にいる人全員が呆れていた。
そうとは知らないミランダは甘えるようにレイモンドを見つめている。腕まで絡めて。

  それに対してレイモンドは何も言わずずっとこちらを見ている。
そしてやっとレティシアに声をかけた。

  「レティシア。君は自分が何を言っているのかわかっているのか?」
  「もちろんです」
  「もちろん……普通は目上の相手に自ら婚約破棄はできない。それを知ってか?」
  「ええ。ですが、殿下。正しく言うとできないではなくやらない、のです。
どんな目に合うかわかりませんので」

  すると殿下はなにかを言いかけて噤んだ。

  「ではよろしいでしょうか?3日以内にこちらから王室へ書類をお送りしますので殿下はそれに印を押すだけです。
これで綺麗さっぱりと別れられますね」

  にっこりと笑顔でそう告げると彼は明らかに傷ついた表情になった。

  後ろ髪を引かれつつ知らんぷりをしたレティシアは回れ右をして去る。
すると後ろで「キャッ」と言う悲鳴が起こり後ろを振り返るとミランダ嬢がよろけていた。

  考えられることは一つ。レイモンドがミランダを振り払った……
浮気相手とも言える方の肩を持つのは嫌ですが幸せになってもらうためにもここは言っておくべきでしょう。

  「殿下。今のは紳士がレディーになさることですか?」
  
  すると小さな声でレイモンドが呟く。

  「本当はこんなことしたくなかった。……君だけなのに……」

  何をおっしゃっているのか聞き取れませんでしたがあまりにも注目を浴びているのでここは引いた方が良さそうですね。
  わたくしは殿下の耳元で囁いた。「明後日、王宮で話し合いましょう。両親とともに登城するので」というと彼は希望を見つけたような表情へとなった。

  「では、失礼します。」

  夜会が開催されてから30分も経たないうちに会場を後にした。
相変わらず注目されながらだったが。

***

  話し合い当日。念には念にと念入りに準備をしていると両親が顔を出した。
父はモリソン公爵で国の宰相を務める権力者です。この国が安泰なのも父のおかげといってもいいでしょう。
ここまでだと冷酷な権力者だと思われますが家族である母とわたくしには甘々なのです。

  「レティシア。よかったのか?」
  「あんなに殿下のことを慕っていたのに……」

  確かにわたくしは殿下を慕っておりましたわ。これから先、支えたかったしお守りしたかったです。
でも……夫婦とはそれだけでは成り立たないのです。というより思うのです。
片方だけ愛を捧げ乞いているのに見返りがなければ心が折れるのではないか……と。

  実際に今のわたくしがそうですから。
殿下を慕って支えようと努力してきたのに殿下は他の令嬢たちと懇意になさっておられました。
他の令嬢には眩しい笑顔を向けるのにわたくしにはずっと無表情で。

  それを思い出すと涙が出てきそうです。今ではこれが何の涙かわかります。
この涙はきっと、悲しい涙なのではなく悔しい涙なのだと。

  わたしの泣きそうな顔を見た両親は「あのバカにレティシアはやらん」と息巻いておりなんだかおかしくて笑ってしまいました。
  
  お父様、ありがとうございます。でも、もう大丈夫ですから。
わたくし今日のために色々と準備してきたのですから。






 
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

縦ロール悪女は黒髪ボブ令嬢になって愛される

瀬名 翠
恋愛
そこにいるだけで『悪女』と怖がられる公爵令嬢・エルフリーデ。 とある夜会で、婚約者たちが自分の容姿をバカにしているのを聞く。悲しみのあまり逃げたバルコニーで、「君は肩上くらいの髪の長さが似合うと思っていたんだ」と言ってくる不思議な青年と出会った。しかし、風が吹いた拍子にバルコニーから落ちてしまう。 死を覚悟したが、次に目が覚めるとその夜会の朝に戻っていた。彼女は思いきって髪を切ると、とんでもない美女になってしまう。 そんなエルフリーデが、いろんな人から愛されるようになるお話。

【完結】私は関係ないので関わらないでください

紫崎 藍華
恋愛
リンウッドはエルシーとの婚約を破棄し、マーニーとの未来に向かって一歩を踏み出そうと決意した。 それが破滅への第一歩だとは夢にも思わない。 非のない相手へ婚約破棄した結果、周囲がどう思うのか、全く考えていなかった。

(完結)義姉や義妹がそれほど大事ですか?

青空一夏
恋愛
私は夫と結婚して5年になる、領地経営に励むコリーヌ・ウォラル伯爵だ。夫イシュメルとはそれなりに良好な関係を築いており、一人娘のジョアンナはもうすぐ4歳になる。 ところが半年前に、イシュメルの姉カルメン・ロダム男爵が妊娠して以来、私はストレスに悩まされていた。それは・・・・・・ ※この国では爵位や財産は性別に拘わらず長子が継ぐという慣習があります。女性でも爵位を継ぐことは当然の異世界のお話です。 ※前編・後編の2話で完結。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...