15年後のスターチス

小糸咲希

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最終章「スターチスの節」

003#やつとの再開

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「来たか……」

城の玉座の上に、凛々しく座る男が1人居た。

「ミラ!  何故戦争なんかをするんだ! 」

ジョンは大声で叫ぶ。
男は、立ち上がると腰にある剣を引き抜き、こちらへと向かってくる。

「ジョン。お前は昔からそうだった。俺の計画を幾度となく邪魔しよって! カタをつけようじゃないか。そしてぇ! 怜也くぅぅん!!! お前を……殺ぉすぅ 」

目は血走っていた。
我を見失っているようにも見えた。
それに、確かに聞こえた自分の前世の名前。
まさかとは思ったが、男は拓也なのかもしれない。

「何故僕の名前を知っている! まさか……拓也……だな? 」

剣を手に取り構えているジョンの横に立つと、自分も剣を構える。
ゆっくりと歩き、階段を降りていくミラ。
高笑いしながらこちらへと向かってくる。

「ありゃ! あひゃひゃひゃひゃひゃ!!! その通り! 俺は拓也。久々だなぁ! ブラザー! 」

自分には兄弟は居ないはずだ。
この世界にも、前世にも。

「僕には兄弟は居ないはずだ。なぜそんなことを言う? 」

笑い続けるミラに、少しの嫌気も感じつつもここで引き下がるのは行けないという意思が自分の中にはあった。
目を逸らさずにずっと睨み続けている。

「ふっ。それはな、俺はあの親共に捨てられたからな」

腰にかけていた鞘から短剣を引き抜くと、足を止めていた階段をまた一段とまた一段と降り始めた。

「特にお前の父親だ。お前の父親は見知らぬ女と俺を作り、俺ができたと知った途端捨てた。そのせいで母は狂い、そして俺は孤児院に捨てられたんだ」

彼の目からはもう既に光は消えていた。
この出来事を、相当恨んでいるのであろうか。

「殺せよ。……ほら! 舞香を苦しめた俺が憎いんだろ! お前を殺した! 俺が憎いだろ! 」

目の前に立つと胸ぐらを掴み、軽く持ち上げる。
少し揺らすと、手を離し地面へと叩き付けられた。
この時、頭を強く打ったのかもしれない。
とても痛かった。

「……怜也、あなたには何人か兄弟がいるかもしれない。それで恨まれても……あなたは悪くない。あなたは……あの子たちと……せめていい関係を……」

中学生のある夜の事だった。
突然父親が何者かに刺され、帰らぬ人となった日の事だった。
もう動かなくなった父親の前に自分は何をしていいのかが分からなかった。
元々、家で暴力を振るう人間だったし、家にいる時間も少なかった。
母親も、刺されて当然なのだと思っていたのかもしれない。
その時に、答えは分からなかった。
でも……。
今になって分かった。
どんなに人に嫌われていたクソ野郎でも、必ず愛する人がいたのだと言うこと。
母親は、少なからず父親を愛し、自分を愛してくれた。
この世界のお父さんも、お母さんも。

「怜也、あなたのことが大好きだよ」

水色の少女がこちらをみて笑っていた。

……。
リリだ。
舞香だ。
この世界でも、前の世界でも、愛してくれた人がいた。
愛した人がいた。
この人も、少なからず彼女を愛した期間があった。

「憎いのは……憎いよ……でも……」

ゆっくりと立ち上がると、ミラは短剣を喉元に向けた。
その鋭い刃を手のひらで握る。
指から血が流れてきているのがわかった。
1滴、1滴。
ゆっくりと流れてきている。
痛くはなかった。
彼の手と共にゆっくりと刃を下ろす。

「君に僕を憎む理由はない。たまたま君が愛した人は、舞香だった。別れを伝えたのは彼女だ。君にもいい人が沢山いるのかもしれない。だから……こんな事はやめよう……」

ミラの目を眺めながらゆっくりと話した。
だが、この思いは通じていなかった。

「愛する人は……舞香だけなんだ。俺にはあいつしか……居ないんだ……」

腰に着けていたもうひとつの鞘から大剣を取りだり、大きく振りかぶる。

「危ない! 」

またどこかで聞いたことがある声がした。
それと同時に、近くに吹き飛ばされる感覚に襲われたのであった。
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